第9-1話 ダメージ床整備領主、学校を作る(前編)

 

「カイナー地方がより強くなるためには、教育に力をいれねばならん!!」


「わふ? いきなりどうしたんですかカールさん?」


 3時のおやつの準備をしていたアイナが、不思議そうな表情を浮かべる。

 本日のメニューはロールケーキだ……こっそりつまみ食いをしたのか、ほっぺたにクリームのかけらが付いているぞ。


「じじい……師匠の加入で、新型ダメージ床の開発も順調に進み、時間が出来たからな……この機会にカイナー地方100年の計を練らねばならんっ!」


「うおおおおおおっ!! さすがカールさんですっ! ……って、100年の計って何ですか?」


 つまみ食いがバレたのか、恥ずかしそうに頬をごしごししていたアイナが、誤魔化すようにオーバーなリアクションを取る。


「……本に影響されたんですね」


 私の執務机の上に積み重ねられている「魔導から始める教育論」「教育からすべてが変わる! 地方領主帝王学入門」などの本を一瞥し、的確なツッコミを入れるフリード。



「……こほん!」

「とにかく、教育は重要だ……カイナーの街には基礎的な学校はあるが、高等教育を受けるには帝都まで行かねばならん……」


「カイナー地方をダメージ床技術開発や農作物開発のメッカとするためにも……将来を担う子供たちを育てねばな!!」


 フリードの鋭い指摘をごまかすため、”バウマン総合技術学院”の資料をババン! とホワイトボードに張り付ける私。


「うおお……移転した村役場を流用するんですね」


 アイナの言うとおり、学院の建物をイチから建てていると時間がかかる……そこで、先日町役場として別の場所に移転した村役場の建物を使う……村役場には農業試験場も併設していたので、その跡地をグラウンドとして活用する。


 私の屋敷からも近いので、業務に支障は出ないだろう。


「当面の講師は私とフリード、それにグスタフ爺が中心となって務める……学院の規模が大きくなることを見越し、外部募集も掛けよう」


「了解です兄さん。 またしばらくはハードな生活になりそうですね」


 私の指示に苦笑しながら頷くフリード。


 忙しくなるのは私も同じだが、やればやるほど結果が付いてくるカイナー地方の開発は、楽しくて仕方がない。


「わふわふっ~!! アイナも村の日曜学校しか出てないので、学院……超楽しみですっ!!」


 ホワイトボードに貼られた完成予想図やカリキュラム案を見て、目を輝かせるアイナ。


 日曜学校とは、村で行われている成人前の子供たちを対象にした、簡単な学校の事だ。

 ただ、どうしても農作業などの影響で開講が不定期になることもあり、常設の学校が望ましいのだ。


「……あ~、盛り上がってるところ悪いが、アイナ」

「君には講師もやってもらうつもりだぞ? もちろん学院には通ってほしいが」


「……わふ?」

「……のえええええええええっ!? アイナが先生ですかっ!?」


 私の申し出がよほど意外だったのか、ズガーンと尻尾と耳を逆立てながら驚くアイナ。


「もちろんだ。 キミはすでにカイナー地方のキーマン……幹部と言ってもいい」

「そんなアイナが、一介の学生になるなど……許される事ではあるまいっ!」


「はうっ! そう言われると……アイナはすでにギャラクシー級でしたっ!!」

「そうすると、アイナは何を教えれば……ダメージ床基礎理論でしょうか、それとも宇宙論っ!?」


 両手を広げ、芝居がかったポーズをとる私に、同じくよよよ、と芝居がかった動きで倒れ込むアイナ。

 背後でフリードが「また始まった……」などとつぶやいているが、スルーする。


「格闘術と……サバイバル栄養理論だっ!!」


「ぜんぜん知的じゃないですぅっ!?」


 彼女の適性を100パーセント考慮した提案に、なぜかアイナの悲鳴が執務室に響き渡るのだった。



 ***  ***


「はいは~い! 見学希望者はこちらに集まってくださいっ!」


 受付を終え、講堂に集合した子供たちに向かって、アイナの元気な声が掛けられる。


「ねえねえお姉ちゃん、これがダメージ床壱式のパーツなんだよね?」

「どういう原理で飛んでるの? ルーベンス七次魔導方程式の応用かな?」


「ぬぐわふっ!? そ、それはカールさんに聞いてね……?」


 12歳くらいの女の子に、ダメージ床壱式について質問され、冷や汗をかいて後ずさるアイナ。


 ほう……ルーベンス魔導方程式を理解しているとは……よく勉強している子だ。

 この中に、将来のダメージ床技術の発展を担う原石がいるかもしれないな。


「わあああああっ! 炎がきれー!」


「にはは! しゅぎょうすれば皆できるようになるぞ!」


「すげー!」


「ようせいさんだ~! かわいい~! ねえねえ、お花咲かせて!」


「ふむ……ちゃんとお世話してくださいね」


「は~い!」


 学院には初等部と中等部兼高等部を設置する予定だ。


 初等部に入学予定の小さな子たちに大人気なのはサーラとアルラウネだ。

 ほのぼのする光景に思わずなごむ私。


「初等部と中等部兼高等部を合わせて第一期生は100名程度……でも、結構面白い子たちが多いですよ……くふふ、これは教えがいがあるなぁ……!」


 想定よりずっと多い逸材たちに興奮して鼻息が荒いフリード。


「やはり、地脈からあふれる豊富な魔力が、子供たちにもいい影響を与えているのだろうな。 私も楽しみだ!」


 季節は初秋……野山を掛ける風にようやく涼しさが混じるころ。


 いよいよ、”バウマン総合技術学院”がスタートする。

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