第9-2話 ダメージ床整備領主、学校を作る(後編)

 

「はいっ! 皆さんこんにちは! バウマン総合技術学院へようこそっ!」


「アイナの名前はアイナ・シェルティ!」

「ダメージ床技術とかの理系科目はみんなと一緒にお勉強するんだけど……」


「格闘術基礎、サバイバル栄養概論については、アイナが先生ですっ!」

「高等部クラスのクラス長も兼ねるから、よろしくねっ!」


「「「は~い! アイナ先生!」」」


 ここは学院2階にある高等部の教室。


 10人ほどの生徒たちを前に、元気よく自己紹介するアイナ。

 高等部の第一期生は13~14歳の子たちなので、アイナも少しお姉さんといった風情だ。


「はうっ! 先生……なんて魅惑の響き……!」


 後輩たちの純真なまなざしに、感動のあまりくるくると尻尾を回すアイナ。


 セーラー服タイプの、コバルトブルーに輝く制服。

 膝上のスカートには、鮮やかな白ラインが入っている。


 ピカピカのローファーを履いたアイナの制服姿は、新入生たちと同じだが、右腕に「特別講師」と書かれた腕章をしており、彼女が少し特別な生徒であることを表している。


「わふっ! テンション上がって来たっ!」


「よ~しっ! まずは歓迎会代わりに、グラウンド20週行くよっ!」

「そのあと、調理実習用の薪を山に集めに行くよおっ! 全員ダッシュだ~!」


「はいっ!!」


「……えっ?」


 いきなり脳筋全開なアイナの指導に、即座に反応するカイナー地方組と困惑気味の外部入学組。


 ああ見えてアイナは気配りのできる子だからな。

 カイナー地方に慣れていない子もきちんと指導してくれるだろう。


 私は満足し、次の教室へ向かうのだった。



 ***  ***


「くふふふ……魔導理論とは……ダメージ床理論とは……!」

「繊細かつ大胆な術式の旋律……ギリギリを責めないと技術革新無し!」

「さあ皆も攻めよう! 爆発の向こう側へっ!!」


「うおおおおおおおっ!!」


 中等部の教室……特に理系志望の子供たちが多い子のクラスで、ホワイトボードに怪しげな魔導方程式を書きなぐりながら、絶好調のフリードが子供たちを洗脳……扇動していた。


「プロフェッサー! ルーベンス二次元方程式の波動変数をそこまで上げて大丈夫なんでしょうか?」


 眼鏡をかけた知的な少女がすっと挙手し、フリードに質問を投げかける。


「ふふふ……よく聞いてくれたね? この波動変数を限界まで上げることで、新たな解が導ける……僕はそう信じているんだ」

「確かに危険はある……だが、ゾクゾクするでしょ?」


「……感服しました。 プロフェッサー」



「……………………うむ」


 既にフリードと生徒たちから邪悪なオーラが漂っているが、大丈夫だろうか。


 まあ、研究に爆発はつきものだ。

 私はうんうんとうなずくと、次の教室へ向かった。



 ***  ***


「にはは! ニンゲンの幼体たちよ!

 まずはブレスの出しかたを教えてやろう!」


「胃ではなく小腸で! 魔力を練るのだ!

 炎系ブレスでやけどしないコツは、口先3センチで燃やし始めることだぞ!」


「こらサーラ! 子供たちに危ないことを教えてはいけません!」

「まずは植物言語から……」


 小等部の教室では、サーラとアルラウネが、6~8歳の純真な子供たちに何やら怪しい技術を教えようとしている。


 アレは本当に、人間が使えるスキルなのか?


 ふつふつと疑問がわいてくるが、世界で唯一 (たぶん)の聖獣と精霊が講師を務めるのだ。

 面白い化学反応を期待しよう。


 私はうんうんとうなずくと、次の教室へ向かった。



 ***  ***


 ズドオオオンンッ!


 廊下を歩いていると、爆発音が響き、衝撃が窓ガラスを揺らす。


 最後は住民たちの希望を受けて設置したシニアクラスの教室だ。

 このクラスは年齢制限がなく、単位制で自由に授業を選択できる。


 そう言えばジジイ……師匠がダメージ床実技講座を開催すると言ってたな。

 さっきの爆発はその一環だろう。


 ダメージ床とは爆発なのだ。

 私はうんうんとうなずくと、学長室へと向かった。



 ***  ***


「素晴らしい! 我が”バウマン総合技術学院”は、世界最高の学び舎になるだろう!」


 ツッコミ不在の恐怖!


 カールが立ち上げた”バウマン総合技術学院”は、順調に世界最強の学院への道を驀進していた。

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