第10-4話 ダメージ床整備領主と学院祭(後編)
ぽん……ぽぽぽん
冬晴れの青空に花火が揚がる。
例のごとく魔導ビジョンで広告を打った「バウマン総合技術学院・大学院祭 (2DAYS)」は大反響を呼び、初日の今日、学院はたくさんの観客で大混雑していた。
フェリスおばさんの話によると、街の中央広場に設置した第二会場も大盛況だそうだ。
明日の夕方にはグランドフィナーレのライブがある……今のうちに展示物を見回っておこうか。
アイナたちの様子も見ておきたいしな。
私は雑務を行政府のスタッフにお願いすると、華やかな空気が漂う街へと繰り出した。
*** ***
「日々の単調な薪割り……もっと華やかにしてみませんかっ!」
グラウンドの右端、【アクロバティック薪割り選手権】と立て看板が置いてあるブースをのぞき込む。
いつも通り元気なアイナの声が聞こえたからだ。
「まず、アイナの模範演技っ!」
アイナの目の前に直径1メートルはある巨大な丸太が置かれる。
普通の斧で割ろうと思えば、一苦労だろう。
ふんっ、と構えるアイナ。
彼女の両手には、手袋タイプのダメージ床伍式 (量産品だ)が装備されている。
「ここでほんのり魔力を込めて……薪が8等分になるというイメージを描きましょう……そしてっ!」
「はあああああああ!! 薪滅拳ッ!」
裂帛の気合と共に、両方の拳を丸太に叩きつけるアイナ。
バコオオンッ!!
ネーミング的に、薪を滅してはマズいんじゃないかと思うが……軽快な音と共に、キラキラとダメージ床の粒子をきらめかせながら丸太が8つに割れる。
おおおおおおっ!!
余りの鮮やかさに、どよめく観衆。
「はいっ! コチラ、薪も割れるし料理もできる……新型ダメージ床伍式、そちらのテントでお得に販売中ですっ!」
「今から30分間、オペレーターを増やして対応ちゅう~!」
うおおおおおおっ!
アイナの営業トークに、隣のテントの販売ブースに殺到する観衆。
ふむ……アイナに実演販売の才能があったとはな!
飛ぶように売れるダメージ床伍式を見て、満足した私は、次のブースへ移動するのだった。
*** ***
「にはは! よ~し、わらわの弟子たちよ!」
「うたに合わせてブレスをふくのだぞ?」
「「「は~い!」」」
次のブースでは、指揮棒を持ったサーラが、青やピンクの服で可愛く着飾った子供たちを一列に並べている。
「か~え~る~の~う~た~が~♪」
ぽっ ぽっ ぽっ ぽっ
ぽっ ぽっ ぽ~
サーラの歌声に合わせ、子供たちが順番にブレスを吐いていく。
深紅のファイヤーブレス、白銀のアイスブレス、蒼のウォーターブレスなど……数メートルの高さに立ち上ったブレスは、キラキラと日光に照らされながら、徐々にハートマークを描いていく。
おお、すごくきれいだ……。
うふふ、カワイイわね~。
青空に映える美しい光景。
見上げる人々はみんな笑顔だ。
ふむ、サーラのヤツ、粋な演出をするじゃないか!
ほのぼのとした光景に、思わず感心してしまう。
「ダメージ床とは……爆発だあっ!!」
ドオオオオオオンッ!!
うおおおおおおっ!
……その時、グラウンドの向こうからフリードのマッドな声と爆発音が聞こえた気がしたが……いつもの事なので気にしないようにしよう。
私はうんうんと頷くと、明日のステージに向けて最終調整をするため、自分の屋敷に戻るのだった。
*** ***
「わふ~、わふ~……はうう、緊張しますっ!」
学院祭のフィナーレを飾る私たちのライブ……そのステージ裏で緊張を紛らわせるように深呼吸を繰り返すアイナ。
「ふふ……あんなに練習したんだから、大丈夫だアイナ」
「それにお祭りなんだ……私たちも楽しんでいこう!」
「わふっ! カールさんっ!」
その微笑ましい様子にいつものようになごんでしまった私は、彼女の頭を優しくなでる。
このライブは領民のみんなを元気づけるのが目的……クオリティよりも元気元気元気だ。
「がんばりますっ!」
気分が落ち着いたのだろう、ぐっとガッツポーズをとるアイナ。
彼女が着ているのは、白とピンクを基調にし、ところどころに青いリボンが配されたゴスロリ調のドレス。
ふわりと広がった白のフレアスカートには、スペード、ダイヤなどトランプのマークがデザインされている。
足元は動きやすい赤いスニーカーに、白い二―ソックス。
アイナのイメージにぴったりな元気で可愛いコーディネートである。
「ふふ、アイナちゃん……ステージは超満員だよ、そろそろ行こうか!」
にやりと笑い、ヴァイオリンを構えるフリード。
ちらりと見えた野外ステージの観客席。
端っこまで観客でぎっしりと埋まっている。
「うおおおおお……すごいっ、アイナ……やりますっ!」
光輝くステージへ、駆け出していくアイナ。
私たちのライブステージが始まった。
*** ***
ほのかな照明が幻想的な雰囲気を醸し出すステージ。
ゆっくりとしたヴァイオリンソロから始まった旋律は、照明がパッと明るくなり、サーラのアイスブレスがステージを白に染めた瞬間、一気にテンポを上げる。
重厚なバスドラムの響きに軽快なスネアドラムのリズムが重なる。
激しさを増すヴァイオリンの主旋律をフォローするのは私のピアノだ。
メロディの盛り上がりが最高潮に達する瞬間、ダメージ床のスパークを渦のようにきらめかせ、ステージに飛び込んできたのはアイナだ!
「こんばんは~!! 学院祭のメインイベント……アイナたちのステージ、楽しんでくださいねっ!」
元気なアイナの声が、グラウンド中に響き渡る。
すかさず私のピアノがイントロを奏でる。
澄み渡るアイナの歌声が重なり……。
わあああああああっ!
野外ステージは、大歓声に包まれた。
*** ***
セットリストも3曲め……先ほどまでとは打って変わって穏やかなバラード。
落ち着いたヴァイオリンとピアノの旋律に、しっとりとしたアイナの歌声が彩りを添える。
ステージの観客も、うっとりと聞き入っている。
と、2番からサビへと続くヴァイオリンソロの部分で、アイナがマイクを持ち語りだす。
「……最近怖い魔物の襲撃があったり……帝都が襲われちゃったり……皆さん不安に思う所もあると思います」
「でも……アイナたちは大丈夫です」
「カールさんやフリードさん……サーラちゃんたちのような、頼れる味方がいますっ」
ふわり、と手を広げるアイナの魔力に反応し、私やフリードが着けている魔導アンプが淡く輝き……ダメージ床壱式を改造した魔導イルミネーションも七色に輝く。
「それに、フェリスさんやカルラさんにセリオさん……カイナー地方には優しくて強い人たちが沢山いますっ」
そう言って観客席を指さすアイナに合わせ、サーラがとっておきのブレスを上空に吹きかける。
アルラウネの魔力と反応したブレスは、七色の滝となり、観客席に降り注ぐ。
わあああああああっ!
その幻想的な光景に、沸きあがる観客席。
サビに突入した歌声に合わせ、グラウンド全体が淡く輝きだす。
ぱああああああああっ……
「これは……”地脈”が活性化している?」
ピアノを演奏する手は止めないが……思わぬ現象に目を見開く私。
「ふむ……シェフの歌声と魔力……それにここに集まった皆さんの”愛しい”という感情が、地脈に流れる魔力と共鳴したようです」
「むむ……これは凄い……!」
サビの演出を終えたアルラウネが、ふよふよと飛んできて解説してくれる。
地脈の活性化!?
そんなことが……。
わああああああっ!
私が驚いている間にも曲は進んでいき……私たちのライブステージは大成功を収めたのだった。
*** ***
「凄い!! 20倍以上のゲイン(?)があるっ!」
学院祭が終わって数日後、魔導測定器を持ったフリードを連れ、私たちはフィールドワークに出ていた。
アルラウネの言う通り、カイナー地方の地脈が活性化している。
「わふっ、地脈が活性化するとどうなるんですか?」
「まず……魔力が取り出しやすくなり、魔法の威力や魔導家具の動きが良くなる……」
「なにより、ダメージ床の動きが向上……カイナー地方の守りはさらに固くなったという事だ!!」
「うおおおおおっ!? まじですか!!」
思わぬ副産物を手に入れた冬の日……魔軍の脅威はすぐそこにまで迫っていた。
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