第10-5話 第二次カイナー地方防衛戦
「兄さん! ここの回転床が破損しています!」
「外装だけか? 魔導回路が無事ならガワだけ交換だな」
フリードが見つけてくれた破損個所に対し、メンテナンスを担当してくれる街の大工有志に交換の指示を出す。
「がってんだ!」
さすがカイナー地方の大工たちは仕事が速い。
手際よく回転床の外装を剥がし、新しいものと交換していく。
「やはり、迷宮の森と回転床部分の消耗が激しいな」
ちらりと隣のブロックを見ると、アルラウネとサーラが謎の術を使い森を再生している。
先日の学院祭ライブの副産物。
カイナー地方全域の地脈が活性化したことにより、魔力が取り出しやすくなった。
そのおかげで、防衛ラインに設置したダメージ床の威力も向上し、何度かあった”魔軍”の襲撃も無事退けているのだが。
ダメージ床の間を埋める迷宮の森と、地面に設置した回転床部分には魔物が入り込みやすいので、どうしても壊れることが多い。
私たちは本格的な冬の到来を前に、急ピッチで補修作業を進めていた。
*** ***
「ふぅ……なんとか今日中には点検を終えられそうだな」
「カールさん、お疲れ様ですっ!」
「学院クラスのみんなで甘いものを用意しておきました!」
私たち技術者連中が午前の作業を終え、砦最上階にあるダメージ床のコントロールルームに戻ると、熱いお茶とスイーツを準備したアイナが笑顔で迎えてくれる。
疲れた身体にシュークリームにたっぷりと詰まったカスタードクリームの甘味と、グリーンティの香ばしい香りがしみ込んでいく。
「ほう! これは美味い……! また腕を上げたな、アイナ」
「えへへ、カールさんの指導のおかげです」
すっかりお菓子作りが得意になったアイナ。
トレイをキュッと抱いて、嬉しそうにはにかむアイナを優しく撫でてやる。
「それにしても……最近”魔軍”の襲撃が多いですね……帝都は大変だそうですし」
えへへっと笑っていたアイナの笑顔が、窓から見える防衛ラインの様子を見ると曇ってしまう。
午前中の作業で回転床と森の破損個所の一部は修復したが、森の外側にはキマイラなど、大型の魔物の死骸が転がったままだ。
しばらく前、へスラーラインを抜いた魔軍の軍勢は、帝都を包囲し、帝国内の他地域をゲリラ的に襲っているらしい。
帝国軍の部隊が駐屯している地方はまだましで、軍すらいない辺境の中にはすでに壊滅し、魔軍の支配下に入った地域もあると聞く。
ひたすら力押しで攻めてきていた100年前の魔軍大戦と違い、今回は帝国軍首脳が帝都に集まっていたタイミング (なにやら、クリストフの奴の元帥就任パーティだったらしいが)でへスラーラインを急襲、帝都を包囲することで帝国軍の指揮系統を分断……その後各地の帝国軍を各個撃破するという、戦略的な動きをしている。
そんな中、何度も防衛に成功しているカイナー地方は安全だという噂が広がり、大勢の避難民を受け入れているのだが。
まったく……新型の魔導傀儡兵とやらはなにをしているのだろうか?
首都である帝都にしっかりしてもらわないと、一地方で出来ることには限界があるのだ……。
もぐもぐとシュークリームを平らげた私は、午後の作業に向けて仮眠でも取るかと思っていた。
その時……。
ジリリリリリ!
魔軍の接近を示すアラームが、コントロールルーム内に鳴り響いた。
「くっ……! このタイミングでお客さんかっ!」
メンテナンス中で部品の交換が終わっていないダメージ床もある……どうしても人間による迎撃が必要だ。
「フリード! 技術班と大工連中は速やかに退避!」
「アイナ! 20分後に三号装備で砦玄関に集合、街にいるサーラにも連絡を!」
「わふっ! 了解ですカールさん!!」
奴らめ……何度かあった襲撃は、ダメージ床のメンテナンス間隔を計るための威力偵察……か?
偶然ではない……戦略的な動きをする魔物たちに空恐ろしいものを感じつつ、私たちは迎撃の準備を整えるのだった。
*** ***
「今回は小型種の大群で攻めてきたか……!」
ダメージ床零式の網をすり抜けてきた魔軍の主力は、血の色に光る甲羅を持つ、サソリのような姿をしたブラッディ・スコーピオン……ハサミは毒でテラテラと光っており、近接戦闘をするのは危険だ。
「こういうときは……カールさん!」
「ああ! 陸式の出番だ! アイナ、陸式円板装備!」
「分かりましたぁ!」
私とアイナは運んできた道具箱からダメージ床・陸式のパーツであるミスリル銀製の円板を取り出す。
アイナも8枚の円板を両手の指の間に挟んだことを確認すると、ターゲットロック用の術式を起動する。
「ダメージ床陸式、ロックオンモード!」
ブンッ……
発動した術式により、目の前にオレンジ色の魔導スクリーンが展開する。
視線でソイツを操作し、サソリどもの群れにオーバレイする……すると、魔導スクリーン内にカーソルが出現する。
この状態でさらに視線を動かせば、視線で捕らえた敵をロックすることができるというわけだ。
パパパパパパッ!
瞬く間に魔導スクリーンがロックオンカーソルで埋め尽くされる。
「カールさん!」
「なんだアイナ!」
「コレってなんで視線ロックなんですかっ!?」
「カッコいいからだっ!!」
「!! 最高ですカールさんっ!」
私とアイナが知能指数の低いやり取りをしている間にもターゲットロックが進んでいき……。
「発動、”ダメージ床・陸式”!」
ブイイイイイイイン……
シュパアアアアアンッ!
私とアイナが陸式の円板を空中にぶん投げた瞬間、青白いダメージ床のスパークをまとった円板は、乱数軌道を描きながらサソリの群れに向かっていく。
パチパチバチインッ!
ダメージ床のスパークに触れ、黒焦げになるサソリたち。
1000匹に迫ろうかというサソリが全滅するまで、さほど時間はかからなかった。
「ふわぁ~……あれだけの魔物が……カールさん、凄いですっ!」
あまりに一方的な戦いに、喜びを抑えきれない様子のアイナ。
ズドオオオンッ!
あちらでは、誘い込まれたサソリどもが、参式を改造した地雷原にまとめて吹っ飛ばされたところだ。
ふう、サーラたちを呼んだが、彼女たちの出番はなかったな。
ガチャン……ガチャン……
ん……なんだ?
吹き上がる土けむりの向こうから、複数の足音が聞こえる。
ギシ……ギシ……
プレートメイルがきしむような金属音も聞こえる……リビングメイルのような怨霊系の魔物か?
ガチャン……ガチャン……
ゆらり……煙の中から現れた姿を見て、私は目を見開く。
帝国軍で標準採用されているプレートメイル。
両手にショートソードと魔導銃のような武器を装備している。
だが、本来人の顔がのぞくべき兜の部分には、おぼろげに赤く光る闇が広がるだけ。
「馬鹿な! 魔導傀儡兵だとっ!?」
帝国を守るべき金属の兵士……ソイツが我々の前に現れたのだ。
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