第12-3話 決戦、魔軍王(中編)
グオオオオオオンンッ!
サラマンダーの姿に戻ったサーラが、腹に響く咆哮と共にファイヤーブレスを吐きだす。
爆炎を浴び、防衛ラインの内側に侵入しようとしていたキマイラが一瞬で灰になる。
流石は伝説の聖獣サラマンダーである。
ただ、その巨体ゆえに小回りが利かない。
ブレスの発射間隔にも制限がある……そこをカバーするのがアイナだ。
「行きますっ! ”ダメージ床漆式・ガンナーモード”」
ジャキイイインンッ!
アイナが術式に魔力を込めると、甲高い作動音を立てて彼女が腰に装備したミスリル銀製のアタッチメントが展開する。
春の日差しを受け、銀色に輝くそれは、帝国軍で試験採用されたばかりの次世代武器……魔導銃の形をとった。
フイイイイイイインンッ!
ダダダダッ!
ダメージ床の青白いスパークが輝くとともに打ち出されたのは、銀の弾丸ではなく、紫色の魔力ビームだ。
そう! これはアイナがメガロドンから私を助けてくれた時に使った”魔力ビーム”!
アイナの持つ莫大な魔力と、魔力ビームの威力に注目した私は、魔力を弾丸のように収束、ダメージ床の力場を使って加速射出する仕組みを考案したのだ。
こうすれば、魔力消費が大幅に抑えられ……強力な攻撃手段として使える。
地上に降り注ぐビームの弾丸が、障害物に隠れていた禍々しい姿のサソリ……デススコーピオンを的確に打ち砕いてゆく。
よし、大空からの援護ある限り、こちらの防衛ラインは鉄壁だ!
私は彼女たちの働きに感嘆のため息を漏らしつつ、破損したダメージ床零式のもとへと急いだ。
*** ***
「やはり、中央魔導回路のオーバーヒートか?」
「はい、兄さん。 ダメージ床に接触した敵の数が多すぎて、安全装置が耐えきれなかったみたいです」
「ふむ……中央魔導回路を丸ごと交換するには時間が足らないな……補助系の回路を並列で繋げて仮復旧させるぞ」
「了解です!」
ダメージ床零式を構成する金属ドームの中、半ば地面に埋まったコアパーツの外装を外し、中身のチェックを進めていく私とフリード。
同行したダメージ床整備士たちに修理の指示を出していく。
魔軍の第2波を撃退したとはいえ、敵の数はまだまだ多い……修理にかけられる時間は1時間あればいい所だろう。
ダメージ床を使った防衛戦では、いかにダメージ床に穴を空けないかが重要……ここが技術者たちの戦場なのだ。
「よし、部品の交換は終わったな?」
「フリード! S-1からS-4までの魔導回路を並列稼働するように術式を変更!」
「30秒後に起動試験をするぞ!」
「任せてください兄さん……術式変更!」
ポゥ……!
私の指示に、フリードが魔導術式を発動させる。
複雑な魔導文字が金属製の部品の上に現れ、反応した魔力が新しいネットワークを作る。
「兄さん、完了です!」
「うむ、発動! ダメージ床零式!」
ヴィイイイイイインンッ
作業完了の合図に合わせ、起動術式を発動させる。
青白いスパークが周囲に走り、僅かな振動を伴いダメージ床零式が起動する。
壁に設置された観察窓より、外の地面に青白いダメージ床が展開されていることを確認し、私は安堵のため息をつく。
「ふぅ……なんとか修理は間に合ったな……よし、手早く片付けて司令部に戻るぞ……」
額に滲んだ汗を拭き、撤収の指示を出そうとした私だが……その時。
ズウウウウウウンンッ!!
「くっ、なんだっ!?」
激しい轟音と振動がダメージ床零式全体を揺らす。
何が起こったのだ……ダメージ床零式のドームから外に出た私が見たモノは。
*** ***
ソイツは突然現れました。
ダメージ床伍式と漆式を装備して空を飛び、やる気マックスで魔物を撃ち払っていたアイナ。
「零式を修理する間、休憩を取ってくれ! 私特製のふわとろシュークリームもあるぞ!」
優しいカールさんの気づかいに、ふへへとほおを緩ませていたのですが。
はるか西の空、きらりと何かが光ったと思うと、それは白銀の竜……サーラちゃんに似た姿を取っていき……。
「……えっ?」
あまりのスピードに、アイナもサーラちゃんも一瞬反応が遅れてしまいます。
白銀の金属竜は、ふわりと羽を広げるとアイナたちの真下にあるダメージ床零式のドームの上に着地します。
くっ……あそこはカールさんたちが修理している零式……!
いけません!
焦ったアイナは、漆式から展開した魔導銃をそちらに向けます。
その時、金属竜の背中に、ふたりの人影が立ち上がるのが見えました。
黒ローブを着て、眼鏡をかけた銀髪の女の人……アレがカールさんの言っていた魔族アンジェラでしょうか。
ですが、アイナの目を奪ったのはもう一人の方で……。
身長2メートル以上ある大きな身体……全身に炎がのたうつような赤い刺青をまとわりつかせ、天を衝く黒髪に一対の角、金色の瞳を持つ男は……。
ぞわっ!
アイナの全身が、しっぽが総毛だちます。
なんでしょうかこの感覚……本能的にここにいちゃいけない……何とも言えない悪寒がアイナの全身を覆います。
いえ、ビビってる暇はありません! カールさんを助けないと!!
アイナは魔導銃を収束モードに切り替えます。
こうすれば魔力の消費は増えますが、威力あるてぃめっとだとカールさんが言ってました!
出し惜しみは無しです、行っけええええええっ!
ブオオオオオンンッ!
渾身の魔力を込めて放たれた魔力ビームは、的確に相手を捉えて……。
バチインンッ!
「え……?」
思わず間抜けな声が漏れます。
魔力ビームが命中する直前、男がそのたくましい右腕を一振りすると……あっさりと魔力ビームは弾かれ、はるか向こうの草原に大きな爆炎を上げます。
「……ほぉ、サラマンダーのアバスレだけじぇねぇな? この威力……この魔力……くく、面白れぇじゃねぇか!」
流石に腕がしびれたのか、左手で右腕をさすりながら、ねっとりと話す男。
ソイツが言葉を発すたび、アイナを襲う悪寒が大きくなっていきます。
「気まぐれに落とした
ギン!
男の金色に輝く両目がアイナを捉えます。
「あ……あああっ」
その瞬間、アイナは分かってしまいました。
あの男が……魔軍王リンゲンが……
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