第5-2話 ダメージ床整備領主、土木工事する
「今月に入ってもう5軒目か……帝都を逃げ出す住民が増えてるという噂は本当のようだな」
「はいですじゃ。 いまのところ、このカイナー村に縁者がいるものに限られていますが」
「正式な記録だと、この3か月で5000人以上が帝都から他の地域に移住したそうですよ」
ここは私の執務室……カイナー村への移住希望者の増加。
最近特に増えた現象について、村長たちと討議していたところだ。
「クリストフの奴は慌てて他地域への移住に対して税金をかけて規制したらしいが……金を払ってでも移住する住民が後を絶たないらしい」
「”守り”の技術である”ダメージ床”を考えなしに削減するからだ」
帝都の本家から受けた報告を見て、ふんと鼻を鳴らす私。
狼狽するクリストフの奴が目に見えるようだ……奴は不満を抑え込む恐怖政治をしているようだし……こうなるのは当然と言えよう。
「まあ、帝都の事はいい……これはウチにとってチャンスだな!」
「中央政府……宮廷に払う税金を肩代わりするから、カイナー地方への移住を勧誘するキャンペーンをしよう」
「なんと! それはいいかもしれませぬが、村には十分な蓄えが……」
私のアイディアに一瞬顔を輝かせるも、蓄えの事を気にする村長。
新しく作った名物のシェリー酒と、ダメージ床に掛かったモンスターから拾うドロップアイテムで現金収入が増えたと言っても、村には色々な設備が足らないのでそちらの投資へ回していた。
「大丈夫だ、村長……一応私はバウマン家の当主だからな……それなりの資産はある」
「当面私が肩代わりするから、キャンペーンを進めるぞ……金の事よりこのチャンスを生かすことを考えよう」
「カール様……ありがたいことです……村の者にも手伝わせますじゃ!」
人口は国力に直結するからな……カイナー地方を発展させるために、わたしも気合を入れるとしよう!
*** ***
「わわっサーラちんのしっぽ、きれー! ぼわぼわ、ぼわぼわだよっ」
「にはは! 触りたいときは言うのだぞ~、ほのおを消すからな」
「さらに……わらわのとくいわざ! しっぽで魚を焼くのだ!」
ボボボボボボッ
「スゲー! いっしゅんでニジマスが塩焼きになった!」
カイナー村の広場で、サラマンダーの化身であるサーラが村の子供たちに囲まれている。
特徴的な彼女の尻尾は、小さな子供たちに大人気だ。
「わふ~、村の人たちがサーラにどういう反応するか心配だったけど、大丈夫そうだね」
「ふふっ、さすがカイナー村の人は暖かいなぁ」
捨て子だった獣人族の自分を、偏見もなく暖かく育ててくれたのだ……。
アイナはこの暖かいカイナー村が大好きだった。
そして、村を豊かにしようと努力してくれるカールの事も。
アイナ、頭を使うのは得意じゃないですけどこの拳で貢献しますっ!
彼女は改めて気合を入れなおすのだった。
*** ***
「ふむ……この辺りでいいか」
数日後、カールはアイナたちや村人たちを連れて村の郊外に来ていた。
ここは村の西側……湖の反対側なので、畑も少なく、広い草原が広がっていた。
「よし、今後の移住者の増加を見越して、ここに新しい住宅地を作るぞ」
ばしん、と運んできた白板に設計図を張る私。
「了解ですが領主様、これだけの広さをこの人数で工事するのは大変じゃないですかい?」
村人の心配はもっともだ……平坦とはいえここはただの原野……クワやスコップを使って人手で作業するのは現実的ではない。
そこで……私のダメージ床の出番だ!
フリードに合図を出すと、彼はにやりと笑うとじゃらりと長い鎖状の物体を机の上に置く。
「ふふ……これは”ダメージ床参式”……これを地中に埋めて発動させると……任意の深さ、幅で穴を掘ることが出来るのだ!」
「土木工事の基礎作りを驚きの速さで出来る画期的な発明……なのだが、建築ギルドの反対で製品化出来なかった」
「建築ギルドの魔の手が及ばないここでは使い放題というわけだ!」
一息で説明を終えた私は、ふふんと思わずドヤ顔をしてしまう。
「ふわぁ……ダメージ床って何でもできるんですねっ! アイナ、感動ですっ!」
「そりゃすげえぜ領主様……もしかして、農地開墾にも使えますかね?」
「もちろんだ! 使いたいときはいつでも私に言ってくれ!」
「おっしゃー!!」
私の説明にテンションが上がる村人たち。
「よし、まずは私の設計図に合わせて”参式”を地中に埋めてくれ! 深くに埋めなくていいぞ、適当でいい」
「がってんだ!」
「アイナも手伝います! うおおおおおおおっ!!」
さすがカイナー村住人のパワーは凄い……アイナも負けじと全力ダッシュで”参式”の鎖を設置していく。
わずか数時間後には、数百メートル四方はある、住宅予定地へ”参式”の設置が完了していた。
*** ***
「よし……それでは発動させるぞ……!」
「発動! ”ダメージ床参式”!」
ドウッ!!
私が発動のトリガーとなる魔力を込めると、大量の土が舞い上がり、住宅数百軒分の区画整理、道路の基礎工事が完了したのだった。
「仕上げはわらわじゃな……グオオオオオオオオオンッ」
ブワアアアアアアアッッ!
そこにサーラが歩み出て、大きく息を吸い込むと、ファイヤーブレスを吐き出す。
超高熱の炎は、地面に生えてた下草を焼き尽くし……。
仕上げの雑草処理まですべてが完了した広大な住宅地が完成した。
「……兄さん、ぶっちゃけこれって反則ですよね」
「全国展開したら建設ギルドから暗殺されそうだな」
「すげぇ……雑草まで一瞬で……これはぜひ農地も作ってもらおう!」
私たちはこの作業を繰り返し、大量の住宅地と新しい農地を準備するのだった。
ふふふ、さらなるカイナー地方の発展……いよいよ見えて来たようだな!
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