第5-3話 最強ダメージ床拳士アイナ

 

「よし、住宅建築は順調だ。 これで大きく人口を増やせるだろう」


「”ダメージ床参式”をつかって、農地も広げた……中央への報告は私がやっておくから、収穫見込みの資料を送ってくれ」


 ある日の昼下がり、私は屋敷の執務室で仕事に励んでいた。


 村や農業の細かなことは村長をはじめ、村人有志がやってくれるので、私は帝国中央政府への報告をまとめたり、開発計画を立てたりと言った仕事に専念できている。

 ありがたいことだ。


 午後3時のティータイム(アイナとサーラのおやつ休憩ともいう)を終えると、フリードが仕切る研究施設に行き、新型ダメージ床の開発と、運用案の検討……といったふうに、そこそこ忙しくも、充実した毎日を送っている。


 なにより、メイドとして住み込みで働いてくれているアイナとサーラが毎日かわいい?騒動を起こしてくれるので楽しくて仕方がない。


 ふふふ……生きてるって感じがして大変良い。



 さて、そろそろティータイムに行くか……今日は新作のモンブランがあるのだ……私が執務を終え、席を立とうとした時……。


「大変だ、カール坊ちゃん! 湖のほとりに”上級モンスター”がでたよ!」


 フェリスおばさんが慌てた様子で執務室に駆け込んできて、トラブルの発生を告げる。


 ”上級モンスター”……各地方のフィールドで出現するモンスターは地方の風土、地脈の状況などによりさまざまだが、おおよそ固定されている。


 このカイナー地方では、オークなどの半人型モンスター、サーベルタイガー、グランワームなどの獣、虫系のモンスターが中心である。


 他の地方に比べて結構上位のモンスターが出現するのだが……鍛え上げられた村人たちにとっては特に問題が無い相手。


 だが、たまにその地方の出現レベルからかけ離れた上位モンスターが出現することがある。

 それを”上級モンスター”と呼び、相手にもよるが冒険者ギルドへ支援を頼んだり、帝国軍が出動することもある。


 当然、このカイナー地方にはそのどちらも存在しないので……試作を重ねて完成を見た”伍式”の出番か……。


 私は”伍式”を一番うまく使える彼女の姿を思い浮かべながら、中庭へと向かった。



 ***  ***


「もぐもぐ……上位モンスターが出たんですかっ!?」


「わふぅ……2年前に出たときはキャベツ農家のセリオさんと、リンゴ農家のカルラさんのすーぱーこんびねーしょんで倒したんですが……」


 アイナが私特製のモンブランを頬張り、嬉しそうに尻尾を左右にパタパタと振りながら説明する。

 そのふたりは村でも特に腕利きのふたり……世界を狙えるスーパー農家さんだ。


「うむ……それは私も記録で見た……だが残念ながら今回は」


「むふぅ……セリオさんがぎっくり腰で療養中なんですよね……ぱくぱく」


 スーパー農家も腰の爆弾には勝てなかったか……なので今回は彼を頼れない。


 そこで私はサラマンダーを一撃でぶっ飛ばしたアイナに期待しようと考えたのである。


「先日アイナに使ってもらった”試製・ダメージ床伍式”だが、このたび一応の完成を見た」


「しかも、アイナに合わせてチューニングしておいた……名付けて”ダメージ床伍式・アイナカスタム”っ!!」


 ばばーん! と効果音と共にそれを取り出す私。


 試作品と基本的な構造は同じだが、サポート器具を彼女の腰に巻くことで、より効率的に魔力を込められるように改造した。


「”だめーじゆかごしき・あいなかすたむ”!! なんですかその魅惑の響きはっ!!」


「すごくカッコイイ!! カールさん、アイナめっちゃ使ってみたいですっ!!」


「くくく……いい気合だアイナよ……これを使いこなした貴様は、世界どころか……宇宙を狙えるだろうっ!!」


「宇宙ッ……ぎゃらくしーですっ!!」


 ぽんとアイナの肩に手を置くと、目をキラキラさせ、耳をぴんと立てながら気合を入れるアイナ……その輝く瞳はすでに、宇宙を見据えていた。



「ははっ……このふたり、結構似た者同士だよね」


「にはは……同感である」


「モンスターは巨大雪男サスカッチか……ブリザードをふいてくるからきをつけてな……わらわのほのおでサポートしてやろう」


 聖獣サラマンダーの化身であるサーラは、”そっち”よりの種族であることと、あまりに強大な力を持つからか、モンスターとの戦闘においてはサポートに徹する。


 それでも絶大な力を持っており、助かるのだが。


「サスカッチの出現ポイントはワイン畑からも近い……ケーキを食べ終わったらさっそく出発するとしよう」


「ラジャーですっ!」


 ティータイムで元気をチャージした私たちは、戦いの準備を整えると、カイナー湖湖畔のモンスター出現ポイントに向かった。



 ***  ***


「よし、アイナ……”ダメージ床伍式・アイナカスタム”を装着だ」


「はいっ、カールさん!」


 ここはカイナー湖のほとり……右手に広がる森からサスカッチが出たとの報告だったが、まだ姿が見えないので、いまのうちに”伍式・アイナカスタム”のテストをしておく。


 まず、アイナの腰とふとももにダメージ床の魔導素子を埋め込んだベルトを巻く。


 そして彼女の黄金の右手……”伍式・アイナカスタム”はグローブの形をしており、これを着けるだけで特に武器を持たずともダメージ床のエネルギー場を出せるのだ。


「えへっ、やっぱかっこいいですねこれっ!」


 拳闘士になった感覚なのか、嬉しそうに腕を振るアイナ。


「よし、発動させるぞ……発動! ”ダメージ床伍式・アイナカスタム”!」


 ブオオオオオンンッ!


 アイナがグローブを正しくつけたことを確認し、発動術式を起動する私。


 次の瞬間、青白いダメージ床のエネルギー場が、アイナの右腕の周りに出現する。


「わふっ! こないだよりぶいんぶいんがおっきいですっ! それに力も強いような……」


 アイナが自分の右腕に発動した光景に驚いている。


「いいぞ……発動は問題ない」


「アイナ、そのまま魔力を込めながら武器の形をイメージしてみろ……イメージ通りにエネルギー場が変形するはずだ」


「カールさん、わかりましたぁ! ……んんん、えいっ!」


 シュインンッ!


 青白いエネルギー場は、ドリル上に渦を巻いていき……先端になぜか楕円形の塊のようなものが成形される。


「……モンブランだな」


「……モンブランですね」


「にはは……わらわもはらがへってきたぞ」


「わふ~~~!? 思わずさっきのモンブランを、もう3つ食べたいと思っちゃいましたぁ!」


 なるほど……彼女の煩悩に反応したか。

 アイナらしくてかわいい。


「大丈夫だ! 形状と威力は特に関係が無い……いったん収めようか……」


 テストは問題ないな……そう私が思った瞬間。


 ガサガサ

 ウオオオオオオオンンッ!


「「「あっ……」」」


 奴にとっては絶妙に悪いタイミングで上級モンスターサスカッチが、茂みから出現した。


「はうっ……恥ずかしいので、どっかいってくださいいいいいっっ!」


 ドカバキイッ!


 顔を真っ赤にしたアイナの、青白く輝く右ストレートによりサスカッチは星になった。


 ふむ……私のかわいいメイドに新たに一つ属性が追加されたようだ。


 犬耳元気腹ペコ最強ダメージ床拳士メイド……アリだな!


「メイドとしては無しですぅ!」


 アイナのかわいい悲鳴が湖畔に響き渡ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る