第4-3話 ダメージ床整備領主と犬耳娘の渾身の一撃
ゴゴゴゴゴゴゴッ……
[我を目覚めさせたのは……お前達か……ひ弱な人間どもよ……!]
わずかに開かれた口の端から豪炎を吹き出しつつ、地獄の底から響くような声を発する真っ赤なドラゴン……サラマンダー。
楽しい探検ごっこをしていたはずの私たちの前に立ちふさがったのは伝説級のモンスターだった。
非常に困った……私は奴の隙を探すが……急に封印状態から叩き起こされ気が立っているらしく、私たちを見逃してくれる気配がない……。
それにしてもなんだあの爆弾は……高さ数十メートルはある岩盤を吹き飛ばし、封印されていたドラゴンを目覚めさせるとは……絶対変な材料を入れていただろう!
もしこの場を生きて切り抜けられたら、爆弾をアイナに手渡した張本人……変人発明ジジイを締め上げてやる……そう私は心に誓うのだった。
「こ、これが伝説のふぁいやーどらごん……た、隊長! 我々はどうするべきですかっ!?」
衝撃のあまり探検隊ごっこを続けてしまうアイナ。
「”ダメージ床壱式”……じゃあ、倒せそうにありませんね……」
呆然と呟くフリード……”魔軍界”から侵入する魔物や、上位モンスターを想定して作られている”ダメージ床零式”なら対応できるだろうが、持ち運べないサイズのものを持ってきているはずがない……。
万事休す……と思われたが、私は”あの”試作品があったことを思い出す。
威力については現在試験中で未知数なところも多いが……この状況なら使うしかないか……。
この3人で一番物理攻撃力が高い人間……すまんアイナ……キミになりそうだ。
「……アイナ、なにか”武器”を持ってないか? できれば金属製の」
意を決した私は、アイナに話しかける。
私の声に、はっ! と探検隊モードから復帰するアイナ。
「わふっ……アイナの武器はこの拳なので……剣とか弓矢とか使ったことないですぅ……
うむむ……彼女は根っからの肉体派という事か……不器用なんです、としゅんとするアイナ。
「あっ、でも……これじゃダメですか?」
何か思いついたのか、ぱっと表情を輝かせたアイナが道具袋から取り出したのは……。
指を穴に通し、拳に握り込めるようにした金属製の手甲……通称メリケンサックと呼ばれる格闘武器だった。
「うお、珍しいな……伝説の脳筋部族、アメリケン族が使っていた武器じゃないか……これをどこで?」
「ケンゾー爺さんから貰いましたっ!!」
またあのジジイか……村に戻れたらじっくり話し合うとして、いまは彼女のコレに頼るしかない……。
私は道具袋から試作品の”伍式”を取り出すと、彼女に説明する。
手のひらに乗るくらいのサイズで、中央部に魔導回路を組み込んだ宝玉が埋め込まれており、伸縮可能なベルトでどのような武器にも付けられるようになっている。
「よく聞いてくれアイナ……この”ダメージ床伍式”は、武器に装着することでダメージ床のスパークをまとわせることが出来る」
「なまくらの銅剣も伝説の聖剣エクスカリバー並みになる……はずだ」
「手甲で試したことは無いが……もしヤバそうなら、私が囮になるからここから逃げてくれ」
領主として、ひとりの少女にすべての運命を託すのは心苦しい……最後は自分が囮になる覚悟を決める。
「!! カールさんを囮になんかさせませんっ! 大丈夫、私の拳は村で3番目ですっ!」
む、村で3番目なら、ヘタな拳闘士より強そうだ……。
「フリード、もし伍式が暴走したら、すぐに強制停止を!」
「了解です、兄さん!」
フリードが制御してくれれば、最低限爆発したりはしないだろう……私はサラマンダーの出かたを横目で見つつ、アイナのメリケンサックに”伍式”を装着する。
低くうなるサラマンダーだが、さすがにまだ目覚めたばかりだからか……力を溜めるようにじっとしている。
私たちが背を向ければ襲い掛かってくるだろうが……。
「ふおお……なんかぞくぞくしますね……わふう、なんか力が湧いてくるようです!」
戦士?としての血が騒ぐのか、ふんすっ、と気合を入れるアイナ。
「よし、発動させるぞ……アイナも精一杯力を……魔力を込めるんだ。 いつものうおおおおって感じでいい」
「わかりましたぁ!」
アイナが元気よく返事をし、構えを取るのを確認した私は、”伍式”に向かって魔力を込める。
「発動……”ダメージ床伍式”!」
「わわっ! 凄い……」
ばちんっ!
ブイイイイイン……
青白いスパークがメリケンサックの先に付けた”伍式”から走ったかと思うと、彼女の拳周りに円形のエネルギー場を形成する。
「つぎはアイナのばん……んん、えいっ!!」
ドウッ!!
アイナが力を込めた瞬間、エネルギー場が大きく揺らいで……彼女の右腕を覆う、槍のような形に変形する!
「うわ、すごい……」
その光景を呆然とフリードが見つめているが、私も同じ気持ちだ……エネルギー場がこんな形で発動したのは初めてだ……アイナの潜在魔力が莫大なおかげだろう……。
「アイナの拳が青く輝きます……敵を倒せと雄叫びを上げます……」
「ふおおおおおおっ、アイナ、行きますっ!!」
伍式の発動状況を注意深く観察するが、ひとまず暴走はなさそうだ……。
自信に満ちた表情のアイナは、青白く輝く拳を高く掲げると、気合を入れサラマンダーに向けて走り出す。
「くらえっ! アイナすぺしゃるばーにんぐナックルぅぅぅぅ!!」
[……グガッ?]
まさか人間が生身で殴りかかってくるとは思わなかったのだろう……思わずぽかんとした表情をするサラマンダーの前でアイナは脚力を生かし大きくジャンプすると……。
「せいやーっ!!」
ズドオンッ!
サラマンダーの横っツラを思いっきり殴りつけた!
[グオオオオオオンンンッッ!!]
とてつもない衝撃を食らったのだろう、断末魔の悲鳴を上げるサラマンダーを、光の粒子が包んで……。
可愛い私の犬耳メイド、アイナ・シェルティは帝国史上初の、聖獣を拳一発で倒した勇者として後世に記憶されるかもしれなかった。
「やたっ! やりましたよカールさんっ!」
「アイナ、役に立ちましたよねっ!」
「あ、ああ……想定以上のパワーだ……ありがとう、アイナ」
「そんな……カールさんの”ダメージ床”が凄いんですっ!」
「えへへ、でもお役に立ててうれしいなっ」
勝利のポーズを決めた後、両手を前に組みもじもじとはにかむアイナに思わず見とれていると、フリードが何か異常に気付いたようだ。
「兄さん、光の粒子が……なにかの形を取っていきます……!」
アイナの一撃により、光の粒子となって消滅しようとしていたサラマンダー。
散っていくはずの粒子が急に一か所に集まり、なにかの形を……。
カッッ!!
爆発的な閃光が上がり、思わず顔を覆った私たち。
閃光が収まった後、そこにいたのは……。
「……はぁ?」
「ふわわ!」
「ええっ!?」
三者三葉の驚愕の声が上がるが、それも仕方ないだろう。
目の前にいたのは小さな女の子。
目が覚めるような赤い髪を持った少女が、不敵な表情で私たちを見上げいていたのである。
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