第9-5話 第一次カイナー地方防衛戦(後編)

 

「よし、行くぞアイナ! 合体攻撃だ!!」


「はいっ!!」


 ダメージ床零式と迷宮の森から構成されるカイナー地方防衛ライン。

 そこを力技で突破してきた邪神スキュラに対峙する。


 カイナー地方有数の戦力、腹ペコ犬耳ギャラクシーメイド(と私)の力を奴に見せつけてやることとしよう!


「アイナ! 魔力全開放だ! 発動、”ダメージ床伍式・アイナカスタム極改二”!!」


「うおおおおおおっ、えいっ!!」


 ブオオオオオンンッ!!


 アイナが全力で魔力を込め、私が発動術式を展開した瞬間、アイナの右腕に巨大なダメージ床のスパークが走る。

 噴き出した青白いスパークは、すぐに刃渡り2メートルほどの巨大なグレートソードの形を取る。


 ダメージ床スパークの形は、別に何でもいいのだが、彼女は剣の形が一番貫通力に優れていると判断したようだ。


「アイナ! 構え! シューティングスターモード!」


「はいっ、カールさんっ!」


 私の指示に、脚を前後に開き、腰を低く……右手の光輝くグレートソードを引き気味に構え、”シューティングスターモード”の予備姿勢を取るアイナ。


 鍛え抜かれた彼女の全身のバネが、膨大な力を溜めこんでいる。


「こちらも行くぞ、”ダメージ床伍式・カールサインド”……カタパルトモード!!」


 フイイイイイインッ!


 右手に装着した私の得物に展開したダメージ床のスパークが巨大なハンマーの形を取っていき……。


 ヴンッ!


 ハンマーの先端に、球体のダメージ床スパークが形成されたことを確認し、私はアイナの方に向き直る。


 彼女が装備した”ダメージ床伍式・アイナカスタム極改二”……ぱっと見は改修前と同じに見えるが、一番の違いは背中に装着したミスリル銀製の円板。


 直径50センチほどの円板からは、一対の羽根が鳥のように伸びている……これが、改二の最大の特徴である。


「行くぞアイナ! 耐衝撃防御!」


「了解ですっ……ふんっ!!」


 アイナが全身に力を込め、さらに腰を落とす。

 しなやかな筋肉のバネが、ここからでも感じ取れるようだ。


 最終セーフティ解除……私は伍式に全魔力を込めると、渾身の力を込め、アイナの背中に装着されたミスリル銀の円板をぶっ叩いた!


 ギュウウウウウン……カッ!!


 膨大な魔力に圧縮されたダメージ床のエネルギーが、強烈な指向性を持ってアイナの身体を加速する。


「ぐううっ……行きますっ!!」


 全身をきしませる強烈なG、アイナは歯を食いしばりながら、右手のグレートソードをスキュラに向けて突き出し……。

 青白く光り輝くダメージ床のスパークをまとった彼女は、一閃の矢となる。



「”ダメージ床伍式・シューティングスター”!」

「邪神スキュラよ……光になれええええええええっ!!」


 ズバアアアアアンンッ!


 限界まで加速されたアイナは、光の矢になり、強固なはずのスキュラの皮膚をやすやすと貫き通す!


 グオオオオオオオンンッ!?


 シュワアアアアアアッ……


 何が起こったのか、奴には理解できなかっただろう。


 下半身から上半身にかけて、大穴を開けられたスキュラは、闇に溶け消えるように消滅した。



 ふわっ……


「えへへ、アイナ……やりましたっ!」


 ダメージ床伍式の冷却に伴い発生する雪の結晶をキラキラと日差しにきらめかせながら、ゆっくりと空中から降りてくるアイナ。


「よくやったぞ! キミがナンバーワンだ、アイナ!」


 だきっ!


 大仕事を成し遂げたアイナを、優しく抱き留める。

 私とアイナのコンビが、文字通り神に届いた瞬間だった。



 ***  ***


「相変わらずあのふたりは濃ゆいな……そして兄さんのネーミングセンス……」


 ダメージ床零式の手動コントロールをしながら、思わずツッコミを入れるフリード。

 まあなんにしろ、伍式の改修は大成功……サーラちゃんの方はどうなったかな……。


 もう一体のスキュラと戦っているサーラの様子を確認しようと、そちらに視線をやるフリードだったが。


「ん? 煙の中に誰かいるのか?」


 ちょうどスキュラを倒したのだろう。

 もうもうと巻き上がる爆炎の煙の中に、人影が見える気がする……。


 まあ、あの爆炎の中で無事な奴なんていないか……フリードはそう気を取り直し、ダメージ床零式の制御に集中するのだった。



 ***  ***


「にはは! 少しほんきを出してしまったな!!」

「……ん?」


 サラマンダー必殺のフレア・ブレス……一撃でスキュラを葬ったサーラは、誇らしげに高笑いをする。


 と、もうもうと吹き上がる爆炎と煙の中から、1つの人影が歩み出る。


 赤いフレームを持つアンダーリムの眼鏡をかけた銀髪の女……真っ赤な瞳から隠し切れない妖艶さがにじみ出る。


「……なんだおまえ? ”魔の者”か?」


 どう見ても人間や獣人ではない……誰何の声を上げるサーラ。


「ふふふ……久しぶりね聖獣サラマンダー……アンジェラよ。 100年ぶりかしら?」

「魔軍王リンゲン様の悲願が成就せんとしたあの時……職場放棄したことは忘れてないわよぉ?」


 ねちっこく、嫌味たっぷりに話すアンジェラだが、サーラは、んん?と不思議そうに首をかしげている。


 なんだこいつ……どこかで見た気がしないでもないが……その時、記憶の底にわずかに引っかかった影。


「ああきさま、リンゲンの後ろをきんぎょのフンみたいに付きまとっていたクソガキか!」

「いまさらきさまごときが何しに来た? わらわはおこさまたちの教育でいそがしいのだが」


 ようやくアンジェラの事を思い出したのだろう、やれやれと首を軽く振ったサーラは、興味なさげに手をひらひらさせる。


「ぐっ!! 相変わらず口の減らないトカゲだこと……まあいい、お子様のレベルに合わせる必要はないわ」


 サーラの挑発に、一瞬激高しかけたアンジェラだが、深呼吸して余裕の笑みを取り戻すと、腕を組み愉快そうにサーラに話しかける。


「今日はね、貴方にいい話を持ってきてあげたの……もうすぐリンゲン様が復活する……100年前とは比べ物にならない強大な力を携えてよぉ!」


「今度こそ人間界を支配しましょうよぉ! 楽しいわよぉ! 100年前の魔軍大戦での功績……寛大なリンゲン様なら、最後の失態も水に流して下さるわぁ」


 嗤いながら踊るように……断られることを微塵も想定していない。


 余裕たっぷりにかけられた言葉にしかし、サーラが返したのは極めて冷淡な答えだった。



「やだ。 つまらん」


「……はっ?」


「つまらんと言ったんだこのクソガキめ!」

「わらわはしょうらいゆうぼうな子供たちをせんのう……教育するのが楽しいのでな! そんなぜんじだいてきな戯れに手を貸すつもりはない!」


「洗脳って……」


 アンジェラの誘いを、ふふんとドヤ顔で一刀両断するサーラに、思わずツッコミを入れるアルラウネ。


「だいたい、100年もウジウジしていた魔軍王とか、まけフラグの立ったいんきゃ悪役ではないか!」

「そんな奴につきあうのは、まっぴらごめんだな、にはは!!」


「なっ、なっ……なんですってええええっ!?」


 敬愛する魔軍王リンゲンをバカにされ、あっさりと激高するアンジェラ。


 だが、彼女の冷静な部分は聖獣サラマンダーと森と大地の精霊アルラウネ相手に、一人では勝てないと判断していた。


「覚えておくことねサラマンダー!! 絶対に八つ裂きにしてやるううううっ!!」

「まずは帝国からだから! ド田舎から唇を噛んで傍観しておくことね!!」


 シュンッ!


 アンジェラはそういい捨てると、闇にかき消えるように転移してしまった。


「にはは、典型的な悪役のセリフなのである!!」


「もう、無駄に怒らせるんだから……」


 アンジェラの剣幕にも毛ほども動じていないサーラなのであった。

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