第11-2話 ダメージ床整備領主と収穫祭(前編)

 

 日差しが徐々に暖かさと柔らかさを増す早春の季節……。

 カイナーの街は久々の活気に満ちていた。


 カイナー地方自治領主であるカールの肝いりで、通常3月初めに行われるカイナー地方伝統の春告祭兼収穫祭は、例年の数倍の予算と規模で盛大に開催されようとしていた。


 民家のベランダには色とりどりのチューリップが飾られ、街のメイン通りの両脇に植えられた早咲きの桜と菜の花が、ピンクと黄色の回廊を形成する。


 キラキラと花吹雪が春の日差しに照らされる中、メイン通りと中央広場には、沢山の屋台と露店市が並び、カイナー地方の住人、避難民たちでごった返している。


 そんなお祭りの熱気が街中に渦巻く中、私はアイナを連れて街中の視察をしていた。


「アイナのステージは明日だったよな?」


 私は楽しそうに耳をピコピコしっぽをぶんぶんしているアイナに話しかける。


「はいっ! 帝都から避難してきたジャズバンドさんがアイナの伴奏をしてくれることになりました!」

「アイナ、めちゃめちゃ感激ですっ!」


「ふふ、私は審査員長になってしまったから演奏には参加できないが、頑張れよ、アイナ!」


「はいっ! 賞品は街中食堂1年間食べ放題チケットですからね……絶対に負けられない戦いがここにはありますっ!」


 口の端にわずかによだれを垂らしながら、力強くこぶしを握るアイナ。


 祭りの2日目である明日の午後、自由参加の演芸大会が行われるのだ。


 例年ならキャベツ農家セリオさんのマッスルショーなどの地味な?ローカル演芸会なのだが、人口が大幅に増え、帝都から避難民を受け入れている今年は、プロも参加するかなり大規模な大会となっていた。


 そんな中、CMで流れるアイナの歌声を聞いた有名なジャズバンドがアイナのバックバンドをしてくれることになったのだ。

(ちなみにヴァイオリンプロ級のフリードは特別メンバーとしてバンドに参加予定)


 アイナも成長したなあ……私が時の流れに思わず感慨深くなっていると、アイナがとてててっと私の前に走り出で、じゃん!という感じにポーズをとる。


「どうですか、アイナの衣装! 帝国の伝統衣装ですよっ!」


 そう言うアイナの格好は、胸の部分が大胆に開いたフリル付きの白いシャツ、黒いガーターベルトで腰の部分を止め、ふわりと広がった膝上丈の赤いスカート。


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 すらりとした脚線美の足元は木靴……最近帝都ではあまり見ない、帝国の伝統衣装であるディアンドル姿だった。


 愛らしいアイナに、白と赤のコントラストを描くディアンドルがよく似合っている。

 大胆に露出された健康的な肌に、少しどきりとしてしまう。


「ふふっ……アイナは赤のスカートを選んだんだな、アイナのイメージに合っていて、ものすごくかわいいぞ! さすがギャラクシー級だっ!」


「やたっ!! アイナ、拳だけじゃなくかわいさでもギャラクシーに届きましたっ!」


 私の称賛の言葉に、ぴょいっとジャンプして喜びを表すアイナがとてもかわいらしい。


「えへへ、このあと街の女性陣でカイナー地方名物の足踏みワインを作るんですっ!」

「今年はダメージ床四式を使って、即席発酵?させるのでその場ですぐ飲めるらしいですっ!」


「おお! それは楽しみだ!」


「ですねっ! 今度はアイナも飲みすぎませんよっ!」


 私の周りを飛ぶように跳ねるアイナの頭を撫でながら、私たちは穏やかな気分で祭りの視察を続けるのだった。



 ***  ***


「さあ歌お、カルベネマスカットカイナーの誇り♪ 酒精へ赤白の祈りを込めて~♪」


 アイナをはじめ、ディアンドル姿の女性陣が色とりどりの花で飾り付けられた大きなタライの中で歌いながら舞う。


 タライの中には収穫されたブドウが敷き詰められており、少女たちのしなやかな脚でブドウは絞られ、鮮やかな果汁が生み出されていく。


 ある程度果汁がたまった時点で、ワイン促成醸造用のダメージ床四式・ワインカスタムのもとへと送られ、微弱なダメージ床のエネルギーにより発酵が促進される。


 出来上がったフレッシュワインは、熟成という面では物足りないが、みずみずしい芳香を放ち……広場を何とも言えない魅惑的なワインの香りで満たす。


 当然のごとく、周囲に展開した屋台ではエビルバッファローのスパイス焼き、ニジマスのムニエルほか、ワインに合う料理が振舞われる。


 その結果……。


「がははは! カルラ! 今日こそどちらが最強の農家か決着をつけようじゃないか! う~い」


「いいねえセリオ! 10年以上のライバル関係……そろそろ白黒つけようじゃないのさ! ひっく」


 わあああああああっ!


 即席でカイナー地方最強農家決定戦が始まったり……。


「うおおおおおっ、テンション上がってきた!」


「帝国の栄光に! プロージット!」


「「「プロージット!」」」


 なぜか帝国貴族風プロージットごっこが始まったり……。


 テンションの高い広場の上空を、アルラウネがふよふよと舞い、なにかキラキラとしたものを撒いている。

 それはいったいなんだ、と彼女に聞いてみるのだが。


「これは、わたし秘伝の”どーぴんぐ花粉”です……禁則事項なので多くは語れませんが、さまざまな植物の花粉をブレンドすることで一種の興奮剤に……」

「ふふ、大丈夫ですよ。 有害な成分は入っていません……?」


 どうやら、この熱狂の原因は、アルラウネが撒いている謎の花粉にあるようだ。


 怪しげに笑う彼女だが、みんな陽気に盛り上がっており危険な兆候は見えないのでオッケーとする。


 私自身もワイングラスを傾けながら、皆が少しでも楽しんでくれるよう祈るのだった。

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