第10-2話 サラマンダーとアルラウネのおとぎ話(後編)
「……なんと! 聖獣サラマンダーが人間に助けられていたとは……その子も勇気がありますね」
「にはは……わらわの身体を癒せるにんげん……いま思えば、ものすごいそしつを持った子だったのかもな!」
そんな変わった人間がいるなんて……話を聞いたアルラウネは、ただ驚くばかりだ。
「まだ幼体のまま、ちからが出せなかったわらわは、その少女に飼われることになった」
「ペット扱いはしゃくぜんとしなかったがな……彼女とはみょうにウマが合い、いっしょに遊んだり、楽しい日々だった……だがな」
懐かしそうに遠くを見ていたサーラの瞳に不意に影が差す……。
「わらわが抜けた魔軍は、ニンゲンのしんへいきに押されていき……ぎゃくてんを狙ったのか、禁呪のはかいまほうを使ったようなのだ」
「そいつの余波は少女の村をも襲い……」
*** ***
村が燃えている……とある日の深夜、突如空から降り注いだ破滅の魔炎……。
自分に与えられた小屋で寝ていたサラマンダーは、とっさに防御フィールドを張り、熱気をやり過ごす。
(この破壊魔法……禁呪法か……リンゲンのヤツひよりおったな……支配するべき土地を燃やしては、意味が無かろう)
いら立ちを隠せず、辺りを見回すサラマンダー……村のすべての建物は、豪炎に包まれており、村人たちは生きていないだろう……。
……そういえば、なぜ自分が寝ていた小屋だけ燃えていないのだ?
不思議に思った彼女が辺りを見回すと……。
(!!)
小屋の裏手に、自分を助けてくれたあの少女が倒れている……背中に酷いやけどを負っており、付近に残っている魔力の跡から推測すると、自分が寝ている小屋に防御魔法をかけた後、背後から火球の直撃を受けたようだった。
(くっ……なぜ自分よりわらわを優先したのだ!)
(サラマンダーがこれしきの炎でやられるわけないのに……!)
彼女の行動が全く分からない……サラマンダーは急いで彼女の所へ走ったのだが。
「……にしし……無事でよかった……くそぉ……ミスったなぁ……キミをカッコよく助けてから逃げるつもりだったのに、自分が倒れちゃうとか」
「……あしたから……キミに……誰が……餌をあげれば……」
しゃべるな! 体力を消耗するぞ!
そう言いたかったが、力が十分に戻っていない幼体の身体では、人間の言葉をしゃべることも強力な回復魔法を使う事も出来ず。
その間にも少女の命の炎はどんどん小さくなっていく。
(おのれ、聖獣サラマンダーたるものが、受けた恩を返せずに恩人を見殺しにするなど……ありえない!)
(そうだな……この方法ならば……わらわの誇りにかけても!)
パアアアアアアアッ
「……あ……きれい……ひかって」
覚悟を決めたサラマンダーの身体が、光に包まれる。
その光は、少女の身体も飲み込んで……。
*** ***
「……ということで、その子を助けるために、これまた禁呪法を使ってお互いをゆうごうしたというわけだな、にはは!」
「だから、わらわはサラマンダーとしての記憶と少女の記憶りょうほうを持っているぞ!」
「ドラゴンけいたいと人間けいたいを自由に使い分けられるまさにきゅうきょく生命体!!」
事情を語り終え、無意味にドヤ顔ポーズをとるサーラ。
「……なるほど、やけに子供っぽい性格になってたと思ったら、そういう事情があったのですか」
「人間との融合で不安定になった力を回復させるため、古代遺跡に自らを封印し、眠っていたと」
「そういうことだな!」
「……それならなぜ、カール達に掘り出された時に襲い掛かろうとしたんですか?」
「……いやまあ、わらわもその子も、寝起きが悪いのでな!!」
アルラウネのツッコミに、豪快に笑うサーラ。
寝起きが悪いで襲い掛かられてはたまらない……アルラウネのジト目はそう語っていた。
「そういうきさまはなんで人間に味方するのだ? 森と大地の精霊よ?」
お返しとばかりにいらずらっぽい笑みを浮かべ、アルラウネに問うサーラ。
「シェフの新世代(?)肥料が美味しかったと言ってるでしょう」
「……それと、ここの人たちは大地と水を大事にします……それは私にとってとても大切な事です」
くぅ、とお腹を鳴らしながら、はにかむアルラウネ。
その時、元気ふわふわ犬耳メイドの調理音が大地を揺らす。
ズドオオオオオオンッ!!
「わふうううううう~っ! やっちまったぞアイナ、また火力を間違えましたあっ!」
「……ふ、きさまのごはんが出来たようだぞ、アルラウネ?」
「じゅるり……新作肥料、楽しみです」
どこか楽しそうにアイナたちのもとへ向かうサーラとアルラウネ。
彼女たちはこの先もずっと、カイナー地方にとって力強い味方でいてくれそうだった。
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