第7-6話 精霊の謎パワーとミスリル銀でランクアップ(後編)

 

「それにしても、予想以上の成果だったな!」


「ですねっ!」


 本格採掘に向け、いくつかの付属施設と、モンスター除けの”ダメージ床壱式”を設置し終えた私たちは、採取したミスリル銀と、他に見つけた各種金属の鉱石を馬車に載せ、カイナーの街へ帰路についていた。


「ふむふむ……最近は”魔導肥料”なるモノもあるとか……シェフのゴールデン肥料と合わさって、どんな味になるか楽しみです」


「ご、ゴールデン肥料……アイナ、そんなに料理失敗しないもん!!」


 ぴんっ! と尻尾を立てて抗議の声を上げるアイナの周りを、ふよふよと飛ぶ精霊の女の子。


 伝説の森と大地の精霊であるアルラウネは、結局アイナについて来ていた。

 彼女いわく、森の植物たちのために、肥料道(?)を極めたいらしい。


 ついでに、肥えた大地を作るため、カイナー地方の農業に色々協力してくれることになっている。


 それにしても……莫大な魔力を隠し持っていた犬耳メイドのアイナくらいまでは常識の範疇だったが、

 伝説の聖獣サラマンダーに、大地と森の精霊アルラウネか……。


 常識の向こう側に吹っ飛んでしまった私たち一行だが、せっかくのチャンスなんだ、領民のみんなのために色々考えないとな。


 馬車に揺られながら、街に戻った後のプランを色々考えていると……ふとアルラウネが馬車の外に飛んで行き、くんくんと鼻を鳴らすしぐさを見せる。


「……この匂い……わずかに”魔の気配”を風に感じます……」

「サーラ、最近”魔軍界”に動きはあるのですか?」


 真剣な表情になったアルラウネは、澄んだ緑の瞳でサーラを見下ろす。


「にはは……きさまも気づいたか?」

「さいきん”向こう”がざわつくのを感じる……もしかしたら、”奴”が目覚めたのかもな!」


「わらわの眠りが浅くなったのも、そのえいきょうかもしれぬ……ま、もうめんどくさいのはヤだから、奴にきょうりょくする気はないがな!!」


「なるほど……」


 ……なにやら、伝説の聖獣と精霊が意味深な会話をしている。


 話の状況とサーラの経歴?から考えると、”向こう”とは魔軍界の事だろう。


 風の噂や帝都からの報告によると、”へスラーライン”を”魔物”に突破され、帝都に被害が出たとのことだが……。

(公文書ではクリストフ卿の新型魔導傀儡兵の活躍で被害は僅少であったと記載されているが、どうせ大本営発表に違いない)


 まさか、魔軍界に何か動きが?


 ここは魔軍界から遠いとはいえ、有事にはへスラーラインも帝国軍も頼れない場所……防衛戦略を考え直す必要があるか……と、思案に沈む私の前に、キラキラと光の粒子をまとわせながら、アルラウネが下りてくる。


「ということで、わたしが協力してあげます。 その代わり、彼女……シェフに肥料を作らせてね」


 私をアイナの主人と判断したのか、やけに欲望まみれのお願いをしてくるアルラウネ。


 カイナー地方外縁部はダメージ床零式で防御しているが、さすがに広大な地方全てをカバーしているわけではない。


 大地と森の精霊であるアルラウネの力を借りることが出来れば……そのためには、すまんアイナ……。

 私の目配せに、目をウルウルさせながらもこくこくと頷くアイナ。


 ああ、なんていい娘なんだろうか。

 感動のあまり思わず目尻を抑える私であった。



 ***  ***


「はふぅ……満足です」


 アイナ特製の肥料的炭(隠し味に発酵リンゴを混ぜたオリジナルブレンド)をたっぷりとお腹に詰め込み、ふくれたお腹をさすりながら重そうに飛ぶアルラウネ。


 いったん街に戻り、防衛ラインの設計図をアルラウネに説明した私たちは、その足でカイナー地方外縁部の防衛ライン……先日”ダメージ床零式”を設置した場所に来ていた。


「さて……確かにカール、貴方たちの”ダメージ床”は素晴らしいのですが……」

「”大型種”は足止めできても、”小型種”にはすり抜けられる危険があります」


 目の前に広がる大型ダメージ床機材であるダメージ床零式……直径5メートルほどの金属製のドームの周りに、20メートルほどの間隔をあけて円形に”杭”が打ち込んである。


 金属製ドームには魔力が蓄えられ、敵の接近を検知すると自動的に術式が発動し、”杭”の周囲に強力なダメージ床を展開する。


 1セットの機材で、およそ幅250メートルのエリアをカバーでき、その強力なダメージ床のスパークは、最上位ランクのモンスターであるドラゴンや、魔軍界から侵入する”魔物”ですら、倒すことが可能だ。


「その弱点は私たちも認識しているが……さすがにこの広大なエリアをカバーするとなると、機材の数が足らないんだ」


 アルラウネの指摘通り、ダメージ床の機材同士は300メートルほどの間隔があいており、飛んでくるダメージ床のスパークにさえ気をつければ、通り抜けることは可能だろう。


 本来なら、市松模様の形で配置し、隙を無くすのがセオリーではあるが、いくらカイナー地方に通じる地峡が狭く、10キロメートルほどの幅とはいえ、そのすべてを埋めるほどの数は確保できなかったのだ。


「大丈夫ですっ! すり抜けた敵は、このアイナの拳や、セリオさんカルラさんのくわが殲滅しますっ!!」


「にはは、わらわのブレスで焼き尽くしてやるわ!!」


 私の懸念に大丈夫、問題ない! とガッツポーズをするのはアイナとサーラだ。


「シェフ、サーラとも脳筋ですか……特にサーラ! 一応聖獣なのだから、ちゃんと策を考えるように」


 どこまでも脳筋のふたりに、ため息をつくアルラウネ。


「すり抜けた敵を殲滅するにしても、一か所に集めた方が良いでしょう……そこで」


 ぱああああああっっ


「うわっ!? いきなり木が生えてきた!?」


 目の前に広がった光景を見てフリードが驚きの声を上げているが、それは仕方ないだろう。


 アルラウネが手をかざし、そこから緑色の光が放たれた瞬間、ダメージ床の隙間に広がる草原の地面からにょきにょきと大木が生えてくる。


 木の枝は複雑に絡み合っていき……わずか数分後にはうっそうとした森が出現していた。


「わたしは自由自在に”森の迷宮”を作れますので……すり抜けてきた敵は、これで迷わせるのはどうでしょうか……おなかすいた。 シェフ、補給を」


「わふっ!? アルラウネちゃん、ただいまっ!」


 力を使って腹が減ったのか、アイナに追加オーダーをするアルラウネ。


 なるほど……自由に迷宮を作れるのなら、すり抜けた敵を隣のダメージ床に誘導することも可能だろう。

 モンスターの嫌がる波長を放出できる固定タイプのダメージ床壱式と組み合わせれば……。


「もぐもぐ……いいアイディアです」


 アルラウネの同意も得て、カイナー地方外縁部に広がるダメージ床エリアに迷宮の森が加わっていき、カイナー地方の守りはより鉄壁になるのだった。

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