第1-3話 【宮廷財務卿転落サイド】宮廷、さっそく賊に侵入される
「くくく……素晴らしい成果だ」
「俺の権力もこれで盤石だな……!」
このたびの功績で、宮廷財務卿に加え、帝国軍務卿を兼任することになったクリストフは、自室で喜びに打ち震えていた。
ふふ……最高級の帝国ワインに酔いしれる。
財務と軍事の最高責任者になったのだ……実質的に帝国を掌握したといえる……。
皇帝ゲルトは金と女をあてがっておけば何でも言う事を聞くちょろい男だ……俺の人生勝利間違いなし!
クリストフ・ハグマイヤー39歳、人生の絶頂期であった。
彼の政策はこうだ。
帝都をぐるりと囲むダメージ床の半分を停止させ、維持管理を宮廷の直営から外部業者に委託することで経費を半分以下にする。
帝国軍の定期的な掃討作戦のお陰で帝都周辺にはロクなモンスターがいないのだ。まったく問題ない。
次に”へスラーライン”……帝都の西20キロの場所にそびえる、高さ20メートル以上の壁。
帝国と魔の領域”魔軍界”を仕切る壁であるが、クリストフの祖父が15年前に行った大規模掃討作戦により、ここ10年以上魔軍側からの大きな攻勢はない。
おそらく魔軍は壊滅したのだろう……さすが我がハグマイヤー家の誇る猛将である。
ここにも大規模ダメージ床が設置され、要塞に数千人の兵士が詰めている。
来もしない敵に備える経費は無駄である……ここのダメージ床も半分を停止し、配備する兵士は3分の1にした。
流石に議会にこの提案をしたときには反対意見が多く上がった……いわく、臣民の間に不安が広がります……だと。
嘆かわしい……そのような曖昧な感情を考慮して国家運営をするとは……ダメージ床削減で浮いた経費の一部を適当に減税に回しておいた。
とたんに回復する宮廷評議会の支持率……大衆などちょろいものだ。
”へスラーライン”に空いた穴のカバーは、冒険者ギルドに委託する……ああもちろん経費が増大してはいけないので、
壁の上で毎日魔軍界を眺めるだけの仕事だ……金がもらえるだけ感謝してもらわねばなるまい……。
経費削減、軍縮、軍縮である!
クリストフは、帳簿の上に並ぶ削減額を見てうっとりとしていた。
それに、もうすぐ我がハグマイヤー家が開発した新装備……”
くくく……これが”魔導革命”というものだよ……宮廷内や、軍、冒険者ギルドからはこまごまとクレームが上がってきているが……。
大局を見れない無能どもめ!
クリストフは秘書に命じ、適当な不正を示す書類をでっちあげると、ひとりひとりクレームを入れた奴を陥れていった。
特にダメージ床の維持を委託した外部業者がうるさい……この費用と人員ではできないだと?
なんで木っ端業者は一言目に”できない”と言うのだ……クリストフはさっそく外部業者との契約を切ると違約金を請求する。
代わりの業者はなんとかという外国業者だ……なにより安いのが素晴らしい……。
ダメージ床の維持など、外向けのポーズである。どうでもいい。
やれやれ、我ながら勤勉な事だ……。
クリストフは恐怖政治により、着実に宮廷内の権力を掌握しつつあった。
*** ***
「すみませんクリストフ様……皇帝ゲルト様がお怒りで……」
ある日の昼下がり、執務に励むクリストフに、秘書が遠慮がちに声を掛ける。
「……なんだ? ああ、宮廷の宝物庫に賊が侵入した件か」
先日、ダメージ床のメンテナンスと警備要員の交代のスキを突き、宮廷の宝物庫に
盗賊自体は軍務卿直属の特殊部隊がすぐに逮捕し処刑したが、皇帝お気に入りの金食器がいくつか盗まれ、ブラックマーケットに流されてしまった。
この件について皇帝ゲルトはやけにおかんむりなのだが……。
「たかが食器の一つや二つでうるさいデブだ……適当に女をあてがっておけ」
「色狂いの豚にはそれで十分だ……それより」
皇帝に対し、敬意のかけらのない声で吐き捨てると……。
「毛ほどとはいえ、この俺の実績にキズを付けたんだ……警備責任者は解任の上、粛清するように」
「……はい」
宮廷に盗賊が侵入したのは100年ぶりの事……今回何故盗賊が侵入できたのか、その理由を思い当っても意見できるものは、クリストフの周りにはいないのであった。
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