第6-3話 ダメージ床整備領主に勅令くだる

 

「わふぅ~~~! すっごい! カールさんっ! 建物があんなにっ!」


 建物がびっしりと並ぶ帝都の風景を見て、アイナが歓声を上げる。


「うおお、アレはまさか……伝説のバベルの塔!?」


 カイナーの街には3階建て以上の建物なんて無いからな……村育ちのアイナが興奮するのは無理もあるまい。



 私たち一行は、帝国政府の査問会に出席するため、支給された”転移の羽根”を使い、半年ぶりに帝都に戻ってきていた。


 ふむ……やはり報告書にあったとおり、街の外縁部に空き家が目立つな……侵入したモンスターに壊されたと思われる住宅も見える。


 帝都の周囲を囲っていた”ダメージ床零式”も、大部分が撤去されている。

 やれやれ……実際の光景を見ると結構ショックだな。


「査問会は明日朝10時から……もう夜になるし、適当なホテルに入って今日はゆっくり休もう」


「「「「は~い」」」」


 元気よく返事する同行者たちを連れ、私は適度なホテルを見繕うのだった。



 ***  ***


「ふぅ……村長もフェリスおばさんも底なしだな……飲み過ぎてしまったぞ」


 あの後、私たちは中級ホテルに投宿、ホテルのレストランで明日に備えて決起集会を開催した。


 カイナーの街の住人達は豪快で酒豪が多い……例にもれず村長とフェリスおばさんも酒豪なのだが……さすがに標準的肝臓力の私は最後まで付き合いきれないので、盛り上がるふたりを置いて、こうして夜の散歩に出てきたというわけだ。


「えへへ……都会って夜でも明るいですねぇ♪ むしろ眩しいくらい」


「ふふふ……100年前、わらわのブレスではかいしたばしょだな……なつかしいな!」


 アイナとサーラも散歩についていきたいと言ってくれたので、3人でのんびり街を歩いている。

 視力抜群のアイナにとって、街の明かりは少々眩しいらしく、目を細めている。


 サーラは物騒な事を呟いているが、気にしないようにしよう。


「さて……と」


 そろそろにご登場いただこうか……私は視線を背後に向ける。


「にはは……にんげんよ、殺気がまるだしぞ?」


 もちろん彼女も気づいていたんだろう、サーラが不敵に笑う。


「わ、わふうっ!? なにもの!?」



「…………」


 背後の闇から溶け出すように現れたのは、全身黒づくめで、てらてらと怪しく光るナイフを持った男……おそらく暗殺者だろう。


「……やれやれ、クリストフの手の者か……ここでわたしを暗殺するか深手を負わせ、査問会で欠席裁判をするつもりだな」

「まさかここまで直接的な手段を取ってくるとはね……クリストフはよほど追い込まれているらしいな?」


「…………」


 暗殺者の男は何も答えず、ナイフを構える……おそらく、強力な神経毒でも塗ってあるんだろう……だが、しかしっ。


「な、ななななっ!? カールさんを暗殺しようだなんて……許せませんっ! アイナ、成敗しますっ!」


 ドカバキッ!!


 怒りに燃えるアイナの黄金の右が、一撃で暗殺者を打ち倒したのだった。



 ***  ***


「ふむ……さすがに身分がバレるようなものは持ってないか……だが」


 倒れた暗殺者を拘束した後、検分する私たち。


 クリストフに連なる証拠でも出てこないかと思ったのだが、さすがにそこまで間抜けではなかったか。


「アイナ、頼めるか?」


「はいっ! コイツの匂いを追えばいいんですねっ! くんくん……」


 アイナちゃんスーパーノーズの威力を使い帝都を探索、この暗殺者がクリストフ子飼いの特殊組織から派遣されたことを突き止めた私は、明日の査問会に向けてのカードが手に入ったとひそかにほくそ笑むのだった。



 ***  ***


 翌日の査問会は、最初からこちらの一方的展開になっていた。


 まさか私が無事に出席してくるとは思わなかったのだろう。

 昨日の襲撃で始末もしくは重傷を負わせ、欠席裁判にしたかったはず……壇上のクリストフの顔色が悪い。


 私はそれぞれの言いがかりに対し、公文書などの証拠を提示、一つ一つ潰していった。

 どうやら、陪審員の反応もこちらに寄って来たな……当然の展開だ。


 クリストフは私がこの場に出てこれないという前提で動いていた……私がこの場にいる時点で、この程度の言いがかりで勝てるわけないのだ。


「……今まで示した通り、彼クリストフ卿のご指摘は、事実誤認による点が多く、まったくの言いがかりと言えます」


「なにより……」


 これだけは言っておかねばなるまい。 わたしはいったん言葉を切ると、大きく息を吸い込む。


「なにより! 私を貶めるだけならまだしも、私が治める素晴らしいカイナーの街と、私の大切なメイドであるアイナ嬢とサーラ嬢を事実無根の罵詈雑言で貶めるなど……!」

「まったく許しがたい! この点については必ず謝罪して頂きますぞ!」


 査問会場に響き渡る声で一括する私……この件に関しては、一切譲るつもりはないっ!


「カールさん……ううっ、アイナ、アイナっ!」


「にはは……嬉しいではないか」


「カール様……」「カール坊ちゃん……」


 背後の証人席で、アイナたちが感動してくれているのがわかる。 ふっ、少し格好つけてしまったな……。


 その後も査問会は続き、私に下された判決は、当然の”無罪”だった。



 ***  ***


「やれやれ……無駄な時間だった」

「さて、カイナーに戻る前に帝都のスイーツ巡りに行くぞっ!」


「は~いっ、カールさん、大好きですっ!!」


 私が”大切なメイド”と言ったのがよほどうれしかったのか、満面の笑みで引っ付いてくるアイナ。

 思わず萌えてしまった私はアイナの頭を優しくなでる。


 くすぐったそうな顔をするアイナと村人たちと共に、私は一押しケーキバイキングに向かうのだった。



 そして1週間後、速馬車を使って村に戻った私たちを迎えたのは、慌てた様子の名代フリードだった。


「あっ、兄さん! 帝都から、”勅令”がっ」


 ……どうやら、この件についてはもう一波乱ありそうだった。

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