第2-2話 ダメージ床整備領主、村に新型ダメージ床を張り巡らす

 

「カール様、ご依頼の通り、腕利きの村人たちを集めましたが、何事でございましょう?」


 次の日、私は村長を通して村人たちに招集をかけ、屋敷の別棟に集まってもらった。


 特に脳筋な人たちを、と希望したので、目の前に広がる光景は帝都の闘技場かと錯覚するほどだ。

 ……本当にこの人たちは、リンゴ農家やキャベツ農家なのか?


「急にすまないな、村長」


「月間報告書を読んだが、カイナー地方にはせっかく肥沃な農地があるのに、モンスターの出現が多すぎる……」


「出没したモンスターに荒らされることも多いし、退治に人手が取られる……そこで」


 私は言葉を切り、従兄弟のフリードに目配せをする。



「はい。 こちらがカール兄さんが開発した”ダメージ床壱式”になります」


 じゃらららっ……


 フリードが机の上に数百本の杭を置く。


「確かに我がカイナー村は、モンスターの被害に苦しんでおるのですが……」


「カール様、ダメージ床とは……宮廷や迷宮などに設置される大規模な固定式のトラップの事でございましょう? これは……?」


 ふむ、流石に村長は”ダメージ床”の事を知っているようだが……この”壱式”は私が数年前に開発した新型……知らないのは無理もないか。


「あっ!! これはカールさんがアイナを助けるときに使ったヤツだ! びゅーんって飛んで、ビリビリ来るんですよねっ!」


 アイナは私のメイドなので、アシスタントとして傍に控えてくれている。

 アイナの直感的な表現に思わず頬がほころぶ。


 私はアイナの言葉を引き継ぐ形で”壱式”の説明を続ける。


「そうか、アイナはもう見たことがあったな」


「村長が言ったのは、”ダメージ床零式”の事だな……私の祖父ハーゲンが開発し、魔軍の侵攻から帝国を救ったことで有名だ」


「絶大な威力と、広大な効果範囲を持つが……いちど設置すると移動は難しく、維持管理にも莫大な魔力が必要……拠点防衛用だな」


 それに対し……ばばん! とフリードがイメージイラストを魔法で壁に映し出す……ふふ、流石だフリード……プレゼンにはビジュアルインパクトが重要である!


「この”壱式”は、威力をほどほどに抑える代わりに、この”杭”さえ刺しておけばどこでも設置と発動が可能……それに地脈が豊富なこの土地ならば、月に1回程度、魔力を補充すれば十分に動作する」


「オーク程度のモンスターなら問題ないだろう……コイツを村と農地を囲むように設置すれば……」


「おお! モンスターが入ってこれなくなり、モンスター退治に労力を割くこともなくなるわけですな!」


「へえ、そりゃありがたい!」「セリオ、あんたモンスター狩りが出来なくなって寂しいんじゃないのかい?」「がはは! 狩りがしたくなったら森にでも行くさ!」


 口々に感激と脳筋な感想を漏らす村人たち。


「という事で、大量に作成した”杭”を各フィールドに設置する手伝いをしてもらいたい!」


「「おおお~~っ!!」」


 これでモンスター退治の手間が減る……テンションが上がってきたのか元気よく返事をする村人たち。


 ふむ、狙う効果はそれだけじゃないのだが……それはおいおい説明すればいいか。


 私たち一行は、馬車に”ダメージ床壱式”の杭を積み込むと、設置作業に出発した。



 ***  ***


「領主様! 杭を刺す間隔はこれくらいでいいのかい?」


「ああ! 厳密でなくてもいいから。 20メートル間隔ぐらいを目安にしてくれ!」


「がってんだ!」


 ここは村郊外の農地、カイナー村の村人たちは勤勉だ。

 物凄い勢いで設置が進んでいく……。


「ねぇねぇカールさん、最初にアイナを助けるときに、この”杭”がびゅーん!って飛んでたけど、アレはどうやったの?」


 作業の指揮をする私のそばで、パタパタと尻尾を振りながら興味深げに作業を見守っていたアイナが、気になったのか私に尋ねてくる。


「ふむ……アレか。 キミを助けた時のように、戦闘中など緊急で使用したい場合……魔力を込めて展開場所をイメージすればそこに飛ぶような術式を組み込んでいるんだ」


「地脈の事前調査もしないから……ダメージ床を常設したい場合にはあまり向かないがね」


「ふおお~、やっぱりカールさんって頭いいんだぁ……ほんとうに”ダメージ床”って凄いねっ!」

 あまり理解できていない顔をしているが、にぱっと笑って私を褒めてくれるアイナ……良いな、こんな純粋な賞賛を貰えたのはいつぶりだろうか……。


 胃痛と胃薬を友人に仕事をしていた帝都での生活が遠い昔のようだ。



 ちゃきっ……


「えへへっ……こう、ぶい~んってなったらひゅ~んって……」


 初めて私と会った時の事を思い出したのか、私が”壱式”を発動させた時の真似をするアイナ……かわいい。


 私が思わずなごんでいると……。


 ブイイイイイィイィン!


「わふっ!?」


 ”杭”が紫色に発光し、振動を始める。

 な! 術式が発動しただとっ!?


 ひゅんっ……カッ!


 アイナの手を離れた杭は、はるか向こうの地面に突き刺さると、半径30メートルほどのダメージ床を出現させる……!


「んなぁっ!? ”遠隔設置”の術式を、初めてで発動させた?」


 フリードが唖然としている……無理もない。

 ”遠隔設置”はかなり複雑な術式……それに、発動したダメージ床が大きい……!


「はわわわ……アイナ、またなんかやっちまったべか!?」


「大丈夫だ、アイナ……少しキミを調べさせてくれ」


 想定外の現象に慌てるアイナを大丈夫となだめ、私は探査魔法を発動させながら、ぽんとアイナの頭に手を置く。


「わふぅ~」


 なぜか顔を赤くするアイナ……どれどれ……おお、凄いな……!


 探査魔法の結果は驚くべきものだった……アイナは土地の”地脈”と特に相性が良く、通常の魔法使いの数百人分……ほぼ無尽蔵と言っていい魔力を取り出せるようだ。


 先ほどの術式も、膨大な魔力の力技で発動させたという事か……彼女は魔法を使えないので、今までこの能力は分からなかったんだな。


 ふむ、いくら地脈が豊富だとは言っても、広大な地方全部にダメージ床を設置した場合、維持管理は大変になるはずだった。


 アイナがいれば、だいぶ楽になりそうだ……つくづくパワフルなお嬢さんだ……私はこの子の事をどんどん気に入っていくのだった。



 ***  ***


「領主様~! 設置終わったっすよ!」


 半日後、村人たちの奮闘により、設置作業は大幅に短い時間で完了した。


「みんなお疲れ様だ……それでは動かすぞ……」

「発動! ”ダメージ床壱式”!!」


 ヴィイイイイイイィイィインッ!


 私が起動のトリガーとして魔力を込めると、農地と村を囲んだ”杭”が青白く光り、ダメージ床が発動する。


「おお!」「凄い!」「これがダメージ床……!」


 口々に驚きの声を上げる村人たち。


「街道部分は開けてあるが、農作業をするときは念のためこの”パッチ”を付けておいてくれ」

「万一ダメージ床のエリアに踏み込んでしまったとき、ダメージ床が自動で判断してパワーを弱めてくれる」


「ただし、むやみに設置エリアに立ち入らないように! 注意の看板も立てておこう」


「「は~い!」」


 元気よく返事をする村人たち。


 よし、ひと仕事終わったな……満足の吐息を漏らす私……。



 バチインッ!



 そのとき、近くでダメージ床の炸裂音が響く……ちょうどいい……”副産物”の説明をしておくか。


「”壱式”の特徴として、モンスターが落とすドロップアイテムは壊さないように調整してあるんだ」


「おお、つまり?」


「定期的に巡回し、ドロップアイテムを回収して現金化すれば、副業収入もゲットというわけだ!」


「「おお~~っ!?」」


 オークが落とした”エーテル”を拾い上げながら説明すると、感心する村人たち……カイナー村が発展するのも時間の問題のようである。

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