第28話 プラスする
「何が街だ。井の中の蛙たちが! ならば、二人まとめて思い知らせてやろう!」
吠えながら立ち向かう英成と構える刹華に向かって、アクメルも走り出す
英成は残る力を込めて殴りかかる……が……
「どるああああああ!」
「ウルサイだけで……弱い!」
「ぐぼッ!?」
英成が拳を突き出すよりもアクメルの拳の方が早かった。
まるで車にでも撥ねられたかのような衝撃で吹っ飛ばされる英成。
「英成く、あっ……!?」
「うごぉ!?」
飛ばされた英成に巻き込まれる形で刹華に衝突。
立ち上がった二人だが、それでも一瞬でこの状況。
「おとーさん! セツカママ!」
「エイセイくん……」
「お兄さん……」
容赦なく吹っ飛ばされる英成と刹華に、オルタが叫び、レミとファソラもどうしていいか分からずに戸惑っている。
だが、アクメルはさらに……
「立ち上がる限り反逆するのであれば、意識を断ち切ってくれる!」
「「ッ!?」」
これ以上痛めつけるというよりは、トドメを刺しにくる。
「やらせ――――」
「ふ」
「ッ!?」
全身の節々が痛む英成だが、それでも歯を食いしばり、起き上がりにアッパーを繰り出す。
だが、アクメルは英成の拳を軽く受け止めた。
そして、英成の握った拳の指を、一本一本無理やり開かせていく。
「この世が『階段組織時代』と化し、我等は正義の名のもとに、立ち向かわねばならぬ!」
英成の拳を開かせ、その手を握り絞める。
「貴様のように、自分より弱いものを傷つけ、奪い、さらにはか弱き乙女たちを辱め、己の欲望のままに生きるものが! 信念も何もない、ただのゴロツキが! その腐った性根を、叩き潰してくれる!」
英成の手を握りしめたまま、力づくで手首を曲げ、起き上がろうとした英成を立たせず、片膝をつける。
しかし……
「ああん? その通りだ、俺に信念はねえ」
「……ぬっ?」
そこから先には、決して行かなかった。
「俺はひねくれてるからな。だが、それこそケンカに関係ねえ。そんなのをケンカに持ち込むんじゃねえ。ケンカに持ち込むのは、譲れねえ意地だけだ。それの張り合いこそがケンカだろうが!」
その場にいた者たちは、目を疑った。
「バ、バカな! 動か……き、貴様! どこにそんな握力が……」
「確かにテメエの世界に比べたら、俺の街はチッポケだ。だがな、あそこは、世間が、社会が、全てが白い目で俺たちを遠ざける中で、この手で掴んだ俺の居場所だ!」
英成が片膝ついた状態から、態勢を力づくで元に戻していく。
「俺たち四王者の街は、そんな甘いものじゃなかったぜ!」
「ばかな! れ、レベル26で……この……ぐぅ!」
レベルが上の者には下の者が勝つことができない……というわけではない。
レベルとはある意味で総合力。
何か一つでも秀でている者さえあれば……技でも力でも素早さでも……それが英成にとっての……
「カ、カカカ……相手が死ぬから……俺も腕がぶっ壊れるから……本気でモノを握った事……俺もねーんだよ」
「ッ!?」
「でも、テメエには……全てをぶつける!」
「さ、させるかぁ!!」
二人のレベル差は20ほど。本来であれば、多人数や戦略を立てて戦わねば決して覆すことのできないもの。
しかし、二人の力が単純な握力勝負で拮抗し始めた?
そう思い始めたとき、アクメルの目が更に鋭くなった。
「本気を出していないのは我も同じ!」
「うごぉ、ぐっ、うぐぬう!」
「たしかに驚いた! レベル26とは思えぬ力……30以上だったかもしれん……が、それでも我の敵ではないッ!!」
そう……やはりレベル20の差は簡単ではない。
アクメルの顔色を変えた。ただの不良が王国の誇る女騎士を相手にそこまでやった。
しかしここから先は……
「あなたの言うことはもっともですが……それでも、英成くんは私の……男の子なのです」
「ッ!?」
「英成くん……ふんばるのです!」
そのとき、英成に巻き込まれて倒れた刹華が、片膝つき始めそうになった英成の腰を後ろから支えた。
「ふん、ならば二人まとめてこのまま――――」
踏ん張る英成と支える刹華。本気の力を解放するアクメルが、このまま二人を押しつぶそうとした……その時だった!
「ああ、四王者がぁあ、こんなファンタジーの女なんぞに平伏すかよぉ!」
「ッ!?」
「意地でもテメエを裸に引ん剝いて、ヤリまくってやるんだからよぉ!」
「……なっ!?」
英成と刹華の身体が光に包まれた。
二人は必死で気づいていないのだが、それはアクメルや周囲に居た者たちにはハッキリと分かるほどの眩い光。
そして……
「な、なんだ!? っ、急に、ち、力が!?」
アクメルがハッとする。
押しつぶそうとしていた英成と刹華が急に押せなくなった……それどころか、徐々に押され返している。
「ばかな、きゅ、急にこの男の力が……違う! なんだ?」
この状況でまだ力が? 火事場のバカ力? 英成の隠されたパワー?
そうではなかった。
これの起因は……
「そっか……コレが……セツカの力なのね……」
カミラはその光景を眺めながらそう呟いた。
眩い光を放った二人。そして、刹華の光が英成に流れ込んでいる。
「昨日のゴーレムの時と同じ……セツカ、あんたはどうやら触れている人に自分の力……レベルをプラスさせることができるのね?」
英成が女とエッチすることで互いにレベルを上げることができるスキルを得たのに対し、刹華が得たのは……
「な、なにぃ?! あ、ありえん、こ、この力、れ、レベル40……いや、それ以上……わ、我よりも!?」
一緒に戦う者に自分のレベルを分け与えることができる。
つまり、レベル20の刹華のレベルが加わった今の英成の力は実質……
「わ、我は……レベル45の我が―――」
「レベルレベルうるせーんだよぉ! そんなレベルで俺らを語るんじゃねぇ! 不良をナメるな! そして俺を! 四王者を! そして、俺たちの街を! そんな俺に惚れた、刹華のこともなぁ!」
実質、英成の今のレベルは46。
アクメルを上回るものであった。
「異世界も魔王も勇者も正義も悪も階段組織も魔法も騎士も関係ねえ! 俺たちは俺たちの街でのトップを取ることに命を懸けていた! テメェの意地と体張って命懸けることに、狭いも広いも重いも関係あるか! 俺たちは俺たちのテッペンにテメェを懸けていた!」
「ぐっ、う……うるさい! 離せぇ!!」
ヤバイと思ったのか、アクメルは英成との握り合いをやめて、その手から逃れようとする……が、ガッチリ握りしめられた手を離せそうにない。
ならばと、アクメルは頭を振りかぶる。
それは、誇り高き騎士がやるような行為ではない荒々しい……
「離せと言っておる!」
頭突きを――
「覚えておけ! 俺が四王者の皇帝・志鋼英成だ!」
その瞬間、英成は身を捩るでも逃げるでもなく、その頭突きに対して正面からぶつかった。
ゴツンとまるで鈍器でも叩きつけられたかのように互いの額がぶつかり合う、英成とアクメル。
そして、結果は……
「がっ、う……あ……」
女の身で、さらには現時点の英成のレベルより低いアクメルが勝てることはなかった。
結果的に自爆。
そして、意識が完全に途切れ、額を赤く腫らしたアクメルがそのままガックリと全身の力が抜けて地に平伏したのだった。
「はあ、はあ、はあ……」
その瞬間、歓声は一切上がらなかった。
大勢の人が群がる宿屋の周囲が、一瞬で静寂と化した。
誰もが顔を引き攣らせ、恐怖を浮かべ、大地に倒れる国の英雄の姿に目を疑っていた。
「英成くん……」
「はあ、はあ、はあ……」
一方で英成も圧勝だったわけではない。
肉体は大きく痛めつけられ、全身全霊を込めた力の解放によって疲弊しきっていた。
徐々に息が整い顔を上げ始めると、右手を軽く握ってみた。技の反動で激痛が走る。
頭もズキンズキンと響く。
だが……
「勝った……」
「……ええ……二人がかりですが、まぁ、何とかというところですね……」
「それでも勝ちだ!」
例え歓声が無く、称えられるようなことでなかったとしても、後から湧いてくる達成感を抑えきれずに、英成は両拳を突き上げて天に向かって叫んだ。
「どうだァ、俺と刹華の勝ちだ! これが四王者と俺の女の力だ! ノブ! コウ! サン! 俺は勝ったぞ! どうだ、オルタ! 俺に不可能は無い! 立ちはだかる奴は握り潰してやる!」
英成は力の限り叫んだ。
「おとーさん! おとーさん!」
そんな英成に向かって駆け出すオルタ。
この光景を一部始終見ていたカミラは、自分が手汗を握っていたことに気づいた。
「ヤバッ……超ぶっとんでんじゃん……あいつ……」
そして、ゾクゾクとする胸の高鳴り。
「エイセイとセツカか……ゾクゾクするじゃない……いーい仲間を見つけたわ!」
野望を抱くカミラの瞳が、子供のように輝いた。
そして……
「さ~て♪」
達成感に満ちた笑みから一変して、英成の笑みが悪魔に変わる。
そこには地に平伏しているアクメル……の、膝上丈の騎士装束のスカートの中を屈んで覗き見る。
鮮やかな髪の色と同じピンク色のショーツ……
「おお、ピンクのおパンツ。気の強い騎士様にしては意外な色♪」
「ちょ、英成くん?」
この状況下での英成の行動に目を細める刹華。
そして、英成は……
「勝ったら、こいつは俺の女になって、ヤラせてくれる……そういう条件だったからな♪」
「…………」
「言っておくが、これは強姦じゃねえ! 条件通りの和姦だ!」
異世界の女騎士に勝利するだけでは飽き足らず、その体を隅々まで堪能して「くっころ」までさせる。
一応、今の戦いの勝利で英成と刹華はまたレベルが2ずつあがったのだが、英成は今はどうでもよかった。
――あとがき――
次話からまたきわどい話が続きます。一言いいます。主人公を「いい奴」なんて勘違いしたらアカンですよ?
引き続き、ブックマークお願い申し上げます。
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