第31話 美しき母娘が経営する宿・ドウォンブーリ(2)

「おかーさん! どうだった!」

「あ……ファソラ……ど、どうして……」

「ふふ~ん、お姉ちゃんが、お母さん一人だと帰るの大変だろうから迎えに行けって♪ それと、セツカさん……お客様がちょっとトラブルで怪我を……」

「えっ!? まぁ! 大丈夫ですか!? な、何かご迷惑でも……」


 ファソラの言葉に顔を青ざめたシドが慌てたようにセツカとカミラに駆け寄る。

 大切なお客様が、もし自分たち側に問題があって怪我をさせてしまったのならと、震えている。

 しかし……



「いえ、ちょっとケンカに巻き込まれただけで、あなたたちに何の問題もありません」


「ほ、本当でしょうか……?」


「ええ。レミさんとファソラちゃんにはむしろ良くして頂いて……むしろ私たち……というか、私の連れの方が大変多大なご迷惑と言いますか……私の怪我よりも、二人を穢してしまったといいますか……」


「はい?」


「と、とにかく私の怪我にレミさんファソラさんたちに何の問題もありませんので、お気になさらず」



 そう、刹華の怪我とレミとファソラも宿屋も無関係であった。事情までは分からないがシドもとりあえず安堵した。

 そして……


「あ……あら?」

「ん?」

「……あの……あなた……どこかでお会いしたこと……ありませんか?」


 シドはカミラの顔を見て首を傾げながらそう尋ねた。

 しかし、カミラは帽子のつばで顔を少し隠しながら、首を横に振った。


「いや~、私はほら、セクシーで美人のイイ女で有名人ですから~。でもお話したことはないと思うけど?」

「そ、そうですか、すみません。変なことを……」

「いいえ~」


 カミラに対して何か引っ掛かりを感じた様子のシド……だが、


「で、お母さん……やっぱり足、怪我が……」

「あ、これは……大丈夫。ちょっとお医者様が大げさにされただけで……」

「んもう! お母さんったらやっぱり無理してた! 昨日のうちに病院行きなさいって言ってたのにぃ!」


 カミラに否定されたことと、何よりも先ほどまでのことやファソラのことで、すぐにそのことを頭の片隅に追いやる。



「心配かけてごめんね、ファソラ。でも、お母さんは大丈夫よ?」


「いーの! お母さんは働き過ぎなの! いい? しばらくは私とお姉ちゃんで頑張るから!」



 ファソラが、その小さな体でシドを支えるように抱き着いた。 

 どこまでも可愛らしい。大切な宝物。その姿、その温もりを改めて再認識させられる。

 

 まだ遊びたい盛り。


 学校に行ったり、おしゃれをしたり、友達と遊んだり、男の子とデートをしたり、恋をしたり。本当なら姉と一緒にそういうことをさせてあげたいと常々思っていた。


 しかし姉妹は二人とも「自分たちは好きでやってる」と欲しいものを買わず、遊びにも行かず、一緒に仕事をしてくれた。


 そんな娘たちを不幸な目に絶対にしたくない。



「いいのよ、ファソラ。あまり頑張らなくても……大丈夫なの」


「お母さん?」



 ファソラの頭を撫でながら、シドは決意した。

 この宝を守るためならば、自分の身が何だというのだと。



(あなた……許してね……レミとファソラのためなの……私はあなた以外の男の人に……体を―――)



 自分の身がたとえ穢れても、夫しか知らないこの体を……



「ふふ~ん、そんなこと言ったってダメ! 私も頑張るもん! 今の私~、ふふ~ん、すごいから♪」


「あら、そうなの? でも、無理しちゃダメよ? あなたのレベルは2で、あまり力を使った仕事は……」


「うふふふふ~、そう『だった』んだけどね~、んふふふふ~、あとでお母さんに見せてあげる。私もお姉ちゃんも、もう今朝までの私たちじゃないんだから♥」



 そう思っていたのだが……そのとき、ファソラの微笑みにシドは「ん?」と思った。


「ファソラ……あなた……」

「なぁに?」


 無垢でまだまだ甘えんぼの子供……それがシドにとってのファソラだった。

 しかし、ファソラの微笑みにシドは「子供の笑顔」ではなく「女の笑顔」を感じた。


「じゃあ、セツカさん、私はお母さんを連れて帰るから」

「ええ。ありがとうございます。その、もし宿屋に戻られて……エイセイくんがその……」

「大丈夫♪ お母さんにもちゃんと説明するし……紹介するし♥」


 それが思い過ごし……とは思えない。十数年以上も一緒に暮らしていて初めて見る娘の様子に、シドは違和感しかなかった。

 そして、診療所から出たとたん、ファソラは……

 


「ねえ、お母さんさ……お母さんは……」


「ん? な、なーに?」


「その……死んじゃったお父さんのこと……まだ好き?」


「……え?」



 それは、意外な話題であった。

 ファソラが物心つく前に亡くなった夫のこと。

 というよりも、これは父のことよりも「好き」という言葉にシドはピンときた。

 シドはファソラに冗談交じりでそういう「好きな人いないのか?」の話をすることはあったが、ファソラの方からそういう話題が出てくるとは思わなかった。

 つまりそれは……


「ファソラ、好きな男の子ができたの?」

「え?! あ、えっと……」

「あらぁ!」


 その瞬間、シドはとても嬉しくなった。

 心優しいレミもファソラも、仕事を手伝う事ばかりで、そういった「恋」というものの話題が出てこなかった。

 親の贔屓を差し引いても二人のことはとても可愛いとシドも思っているし、二人にほのかな想いを抱く男の子や男性が居ることはシドも認識していた。

 しかし、レミとファソラの方からそういったものに踏み出そうとしていなかったこともあって、そのことをシドも気にしていたが、そんなファソラからついにそういった話題が出たのだ。

 母としてこれ以上ない喜びだった。


「誰誰~? お母さんに教えて!」

「えっと、す、好きというかぁ……う~ん……」

「あっ、ひょっとして、八百屋のソーチン君?」


 シドはある程度の確信を持ってそう聞いた。

 ファソラの身近にいる男の子で、特にファソラのことを想って気にかけてくれている男の子だとシドも気づいていたからだ。

 しかし、


「え? ううん、ソーチンくんは全然違うよ」

「あ、ら、そ、そうなの?」

「うん。ソーチン君よりも頼りになって、強くてカッコよくて……かわいいところもあって……」

「へ、へぇ~」

「エッチもすっごい上手で……」

「へ~……ゑ?」


 ファソラが否定。ちょっと意外だったことで、シドは心の中でソーチンに哀れんだ。

 しかし、次にファソラが口にする言葉は、意外を通り越して爆撃のような衝撃……



「あ、あのね、お母さん……お母さんは……死んじゃったお父さん以外の男の人と……エッチなことをするのって……やっぱり嫌?」


「………………………は?」


「あ、あの、ちゃんと説明するから聞いてほしいんだけど……お姉ちゃんとも相談したんだけど……お母さんにもね……その人とエッチして欲しいの!」


「……………??????????????????????????」




 夫を亡くして十数年以来、最大級の衝撃がシドを襲った。



「だ、大丈夫だよ! お兄さん、すごいカッコいいし、エッチもすっごい上手で、気持ちいいんだよ! 私とお姉ちゃんのこともすっごい可愛がってくれて……とっても気持ちいいエッチしてくれて……そのお兄さんとお母さんもエッチして欲しいの!」


「ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!??????????????」




――あとがき――

朝に不意打ちで投稿してみました! どうぞ~。

夜もいつもの時間に投稿します。


本作はカクヨムコンテストに参加させていただいております!


読者選考は☆やフォロー数で争われますので、何卒フォローとご評価をお願い申し上げます。

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何卒ぉおおおおお_(꒪ཀ꒪」∠)


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