第10話 最強ヤンキーと武闘派大和撫子


「ハロー、アイアムプロブレム。おっさんたち。言葉通じるか?」

「それはどんなイングリッシュなのですか? え~ Excuse me, We're lost. Could you tell me the way to town.」


 少なくとも日本人には見えないので、英語で話しかけてみる。

 すると、男たちは仲間同士で見合った後、急にため息をついた。


「ちっ、ハズレかよ。あの女、こっちの方角に行ったと思ったのによ」

「「ッ!?」」


 男が発した言葉は、英成と刹華にも分かる言語だった。


「ところで、こいつらは何だ? 旅人か? どっかの『組織』か? 『階数』は?」

「さあ? でも、『シルファン王国』のクソ騎士団の人間とも思えないっすね」

「きしし、つまり、不幸な旅人で決定?」


 英成の問いに無視して話し合う、デブ、ノッポ、チビという三人組。

 ニタニタとほくそ笑んでいる表情が、英成は気に食わなかった。

 そして更に三人組は刹華を見て……


「おい、見ろよこの女……ひゃ~、めちゃくちゃイイ女じゃねえか!」

「ああ……こんな上玉滅多にお目にかからねえ……うおぉ!」

「こりゃ高値で売れる……いや、つーかその前に……是非とも楽しみたいなぁ!」


 まさに「らしい」セリフを口にした。


「……だってよ……刹華」

「す、すごいです……もはやここに来てこれほどベタなテンプレは逆に恐ろしいです……」


 隠れオタクである刹華は、特に異世界ファンタジー系の物語は大好物である。

 そんな彼女だからこその反応であった。


「あ? 何言ってるか分からねえけど……ここは」

「ああ、あの女はいないっすが、ここは……」

「だな。俺たちが、こいつらを狩らせてもらうとするか!」


 デブがニタリと笑い、ノッポが目大きく見開いてトカゲを走らせた。

 向かってくる。


「おとーさん! セツカママ!」


 ノッポは何のためらいも無く、片手持ちの剣を振りぬいた。

 間一髪のところで身を屈めたが、もし屈めなければ英成の首は跳ね飛ばされていた。


「はっはっは、逃げろ逃げろ! 獲物は存分に逃げ回ってくれねーとな!」


 二人は目を見開いて男が所持している剣を見る。間違いなく本物の剣だ。

 オルタを抱きかかえたまま、地面を転がって回避するも、英成と刹華はゾッとした。


「ちょ、英成くん……あの剣……」

「ああ、……頬が切れてやがる……マジかよ……本物か? 躊躇いなく振り抜きやがった」

「ウ……ウウウ……おとーさん……」

「こ、これは、テンプレとか言っている場合ではありません!」

「くそが。オルタ、泣くんじゃねえ。わけわかんなくて、泣きてーのは、こっちの方だ」


 ただ……


「ただ……ビックリして大げさに避けちまったが……正直あいつら……動きがおせーな」

「なんというか、演技には見えないですが……私にも……」


 本物の刃物で殺されかける。

 人生でも経験のない出来事を前に、本来もっと慌ててもいいはずの二人。

 だが、確かに驚いたものの、不思議とそこまででもなかった。

 そんな二人の思いを知らず、トカゲの上でケラケラと男たちは笑っていた。


「いいねー、そのビビッた顔。金も女もいいが、その怯えたツラはたまんねーな」

「ま、男はとっととぶっ殺して、その女をさっさと犯してえ!」

「おい、最初は俺だからな! へへへ、胸はちいせえけど、こんだけ上玉なら――――」


 ノッポが口元を吊り上げながら、告げた。

 だがその瞬間、英成と刹華の体がピクッと反応した。


「……あん? 俺が……ビビッてるだと?」

「……は? 胸が……ちいさい……ですか?」


 そこまで危機感が沸き上がらなかった二人は、それどころか怒りが沸き上がってきた。

 やがて、逃げるでもなく、二人は迎え撃つように身構えた。


「ちょっと……離れてろ」

「オルタ、隠れているのです」


 これまでべったりだったオルタも、英成と刹華の迫力に押されて思わず離れた。


「キシシシ、『二階』最強の『ザッコーダ盗賊団組織』に出くわしたのが運の尽き!」

「何をブツクサ言ってんだよ! はははははは――――」


 そして、下衆な笑みを浮かべて斬りかかるノッポとチビに対して……



「しょぼくれ共……俺の辞書に載ってない言葉……それは!」


「私の胸……ッ!」 


「「ッッ!!?」」



 英成は剣を振るうノッポの手首を掴み取り、力づくでぶん投げてトカゲから落とした。

 刹華はチビの手首を掴んで接近してくる力を利用して合気道と柔道の要領で投げる。


「誰がビビッてるだ、コラァ!」

「うぎゃああああああ! 腕がァ! う、腕がァ!」


 英成の超人的な握力で握りつぶされたノッポの手首は、無残に粉砕され、悲鳴が森に響く。


「誰の胸が小さいというのですか! 大きくなっているのですよ!」

「ぶへあっ!?」


 刹華に投げ飛ばされて森の木に全身を強打してそのまま意識を失うチビ。

 

「な、こ、こいつらぁ!」


 仲間がやられて逆上したデブがトカゲを走らせる。

 だが、怒りが頂点に達した今の英成と刹華には、何の恐怖も感じなかった。

 英成がノッポの手首を掴んだまま、腕力と遠心力でノッポを振り回し、トカゲに乗って襲ってくるデブに向かって叩き下ろした。


「げっ! な、何だこいつは! ぐはっ」


 チビとデブはアッサリと落下し、地面に叩きつけられた。


「歪め、握魔力クロー!」 

「ぐわあああ! つぶ、潰れるッ!」

「俺の握力は特別でな。カルシウムの足りねー骨なんか、軽く砕けるぜ? 街じゃあ、俺の握力を恐れ、こう称える。『握魔力』ッてな!」


 その時、ようやく英成は笑った。

 相手を痛めつけて快感を得る残虐な笑みだった。


「つっ、て、テメエは一体……ッ!?」


 うめき声をあげてもがくデブ。そのとき、苦痛にもがく中、英成と刹華の胸元を見てハッとした表情を浮かべ……


「な、おまえ、ぐっ、そっちの女も……レベル13と12!? レベル10越えだってのかよ!?」

「あ?」

「し、素人じゃなかっ―――――」


 そうデブが口にしようとした瞬間、刹華が駆ける。


「英成くん、どくのです! 異世界の悪漢のトドメは私が!」

「あ……」


 街で喧嘩三昧で腕を上げた英成とは違い、道場で腕を磨いた刹華。

 空手、柔道、柔術、合気道、剣道、弓道、薙刀などのあらゆる武道を身に着けた、武闘派大和撫子の刹華が繰り出す……


「エクスカリバーシュート!」

「ほごぉ!?」


 デブの膝を利用して駆け上がり、そのコメカミに強烈な膝……シャイニングウィザードを炸裂させた。

 その強烈無比な一撃に完全に意識を刈り取られたデブはその場で平伏す。


「ふっ、正義の名の下に散りなさい」

「かかかか、恐ろしい女。つーか武道を習ってるくせに、決め技がプロレスってどうよ?」


 気づけば一瞬で三人の男たちを倒した英成と刹華。

 その表情はスッキリしたようにご満悦だった。


「フハハハ。あー、潰した。つか、いつも以上にキレたな」

「私も手応えがあります。悪漢退治の興奮でしょうか? いつも以上に動けた気がします」


 体に残った感触を確かめながら、英成と刹華は笑っていた。

 だが、そんな二人に躊躇いもなく、オルタは飛びついた。





――あとがき――

お世話になります。


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