第11話 レベルの理解と青い風
「おとーさん! セツカママ!」
「おわっ……な……んだってんだよ」
「オルタ……」
刃物を持った大人が襲い掛かってきた。
子供なら泣いて仕方のないこと。
「よかった……おとーさん……セツカママ……こわかった……」
とはいえ、自分たちに対してここまで心を開いて抱き着いてくるオルタを見ていると、何だか色々と巻き込まれてしまって困ったものだったが、この瞬間だけは「仕方ないな」と二人して苦笑した。
「ったく、しらけたぜ。そもそも俺……おとーさんじゃねーし」
「照れてますね」
「照れてねーよ! つーか、テメエだってママ呼ばわりもう定着してるじゃねえか!」
「仕方ありません。オルタはきっと並行世界かもしくは未来から来た私の娘なのでしょう」
「いや、いつまでその冗談……つっても、たしかにこんな見たことねぇトカゲを見る限り、マジで異世界転移とやらしてんのかもしれねえが……」
実際、英成は照れていた。
「おとーさん!」
「だー、分かった分かった、母親見つかるまで好きにしろ」
それを認めるのは自分の柄じゃないような気がしたが、それでももう仕方なく観念し、英成はポンッと軽くオルタの頭に手を載せた。
「とにかく騒ぐな。うるせえから」
オルタは満面の笑みを浮かべて頷いたのだった。
なんか照れくさくなって英成はソッポ向いた。
そこでようやく本題を思い出した。
「っで、こいつら何だったんだ? ここまで、見たまんまの盗賊は初めてだぜ。トカゲも」
「ですね……それに、このトカゲも着ぐるみ着ているわけでもなく、本物のようですね」
盗賊団を名乗った男たち。話を聞こうにも、既に話を出来る状態ではない。
現状は何も分からないままだ。
そのうえで……
「あ、このデブ、ノッポ、チビ……胸のところに俺らと同じ痣があるぞ?」
「本当ですね、こっちとこっちの方はクスリを飲む前の私たちと同じような……オルタ、これはなんて書いてあるか分かるでしょうか?」
盗賊たちの胸元の痣。オルタを呼んでそれを確認させたところ……
「うん、この人は5で、こっちは6で、こっちは10だよ!」
「5……6……10?」
「あっ、そういえばこのデブ……俺らのコレ見て……レベル13、レベル12とか言ってたぞ?」
その瞬間、刹華は目を大きく見開いた。
「レベル……そういうことですか! おそらく、この痣はゲームなどでよくあるその人の強さを示すレベルなのでしょう! そして、これが彼らのレベルで、私たちのレベルが12と13ということですね!」
オタクの刹華の理解は早かった。それに対して英成は「そんな馬鹿な」と一瞬思うも、否定できなかった。
「ま……マジか? レベルを示すって……そんな親切な……」
「あれ? でも、おかしいですね……私たちはクスリを飲む前は8、7でしたね……」
「あ……そう言えば……」
「そう……クスリを飲んだら……レベルが上がっていた! そうです! だから私たちがいつも以上に動けたのではないでしょうか!」
「あ……そういう……こと……なんか? って、ちょっと待て! じゃぁ、クスリ飲んでレベル上がってなかったら、俺ら危なかったじゃねえか!」
「……ですね……そうです……だから手紙にはレベル10以上にと……オルタの母は、こうなることを知っていた……?」
ほとんど想像に過ぎないが、刹華の考えは辻褄が合っていた。
ただ、そこで疑問が生じる。
「でも、そういうゲームってレベル上げにはモンスターとか敵を倒して上げるもんだろ? クスリでレベルって上がるものか?」
「……一応ゲームの中にはそういうアイテムはありますし……でも、それしか……だって私たちはクスリを飲む以外、数時間エッチしたぐらいで……」
「だよ……な」
自分たちはクスリを飲んだだけでレベルが上がったのだろうか?
そこだけがどうも納得いかなかった。
だが、その心配もすぐにいらなくなる。
「こっちで音がしたぞ!」
先ほどよりも多い足音が近づいてくる。
その振動は、森全体が揺れているようにも感じた。
「おい! あいつら、やられてるぞ! チッ、ボスがいねーからってナメやがって!」
「全員弓を構えろ! 一人もこの森から逃がすな!」
盗賊たちは、離れた場所から、背中に担いでいる何かを取り出した。
それは、一目でわかる。
「はは……ロビンソンなんたらか……」
「……英成くん、やはりここは異世界です」
「まぁ……俺ももう受け入れ始めてきた」
「にしても、弓ですか……」
弓だ。
盗賊たちは弓矢に手をかけ、英成たちに向けた。
「娘に魔法にトカゲに盗賊に剣に続いて、弓矢かよ! なんだよ、この世界は」
「ですから、異世界ファンタジーです! もう間違いありません!」
盗賊は、声を荒げる。
「燃え尽きろ! 『ファロー』一斉射出!」
しかもただの矢ではない。
いつの間につけたのだろうか? 盗賊たちが叫んだ瞬間、矢の先端が激しく燃えていた。
「も、……燃える矢だと? サーカスじゃねーんだぞ!」
「ま、魔法です! 攻撃魔法! 炎の魔法を弓矢に付与する系のです!」
「おとーさん!」
「だああああああ、クソが」
「きます!」
「あっ……」
合図で一斉に射られる弓。
数十の弓が、風切り音を立てて襲い掛かる。
「なろお!」
「ちょっ、英成くん!」
「おとーさん!?」
考えて動いたわけではない。自然と動いた。
英成はオルタと刹華を抱きしめ、矢から庇うように背を向けた。
「な、なにやってんだ俺! なんつう、マヌケな」
これが最強の不良の最後。自分を自嘲気味に英成は笑った。
だがその時、青い風が英成の真横を駆け抜けた。
「下がってなさい!」
いや、それは風ではない。風に靡かれた、青く長い髪の毛だ。
そして現われたのは人。しかも女だ。
女はデンガロンハットのような大きなボウシを被り、黒く長い棒を抱えている。
女はその棒をクルクルと風車のように回し、弓矢の全てを叩き落した。
「な、なんだ……テメエは……」
「だ……誰ですか?」
また、何かが現われた。
ますます混乱する英成が尋ねると、女は微笑みながら振り返る。
女は若い。だが、少女と呼ぶほど幼くはない。
空のように青く長い髪を一つにまとめ、情熱的で力強い瞳と笑みを浮かべている。
そして目が奪われるのは、服装だった。胸と尻は隠しているものの、ヘソの見えるノースリーブに黒い短パンを履いた格好は、英成も思わず顔を赤らめてしまったほどだ。
「テメェは、女ァ!」
盗賊たちは、女の姿を見て声を荒げた。
「そう、私は女も女! イイ女!」
女は、黒棒の先端を空に掲げて叫んだ。
「私は人呼んで『青い風のカミラ』! いずれこの世のテッペンに立っちゃう女!」
カミラと名乗った女は威勢よく叫んだ。
「もー大丈夫よ。この私の暴風が、あらゆる驚異を吹き飛ばしてあげるから!」
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