第12話 初めての四人乗り

 とりあえず英成は「バカだ……」と女に呆れ顔だ。

 一方で刹華は「異世界の正義の味方?」と女に目を輝かせている。

 だが、英成と刹華とは対照的に、盗賊たちはやけに強張った表情をしている。


「くそ……やっちまえ!」


 強張った顔のまま一斉に襲い掛かる盗賊。

 一体この女の何に恐れているのか、英成と刹華には分からなかった。


「あら、来る気? たかが『二階』の組織のクセにいい度胸じゃない……私がまだ登録されていないから……私のレベル知らないの? 48よ!」

「「ッッ!!??」」


 カミラは強気だ。そして英成も刹華カミラはただものではないと感じ取った。

 何よりも、カミラが口にしたレベルは、自分たちの3倍以上のレベル。


「いずれ『階段組織』の頂点に立つ私に、半端な『階数』がイキッてんじゃないわ!」


 カミラは、足のつま先で軽く地面を蹴る。

 英成と刹華は、カミラが一瞬だけ発した空気に、ゾクッとなった。

 そして、カミラが目を見開いた瞬間、全てが終わった。

 鋭い回転と共に出された突き。カミラの扱う棒術の速度は一瞬だった。


「暴れ飛びなさい! ジャイロスラスト!」


 一撃だった。少なくとも英成と刹華にはそう見えた。


「どう?」


 森の木々が裂かれ、まるで台風が通り過ぎたような惨状が目の前に広がっていた。

 正に一撃。そして、圧倒的な力だった。


「な、なんだよ、今のは!」

「こ、これは、まさか風の魔法というものではないでしょうか!? 風使いですか!?」


 男たちは気を失っている。戦闘不能だ。だが、そんなことどうでもよかった。

 英成と刹華にとって問題なのは、口では決して説明できぬ今のカミラの技。


「テメエ、今のどうやった?」


 英成が尋ねると、カミラはアッサリと答えた。


「どうって……ジャイロスラストよ!」

「だからそれが何だって聞いてんだよ! ドヤ顔してんじゃねえ!」

「風ですか!? 風使いですか!? そ、それに、レベルが48というのは本当ですか!?」

「あっ、うん、そういうこと。でもま、こまかいのはいーじゃん? ところでソレ……ヤバイんじゃない?」


 カミラが、英成の胸元を指差した。

 英成が下を向いたら、オルタが苦しそうにもがいていた。


「おい、大丈夫か?」


 慌てて腕の力を緩めると、「ぷはっ」とオルタは息を吐き出した。

 だが、オルタは呼吸が整った瞬間、すぐに英成の胸にもう一度顔を埋めた。


「うん、だいじょうぶ!」

「そ、そーか」

「ぬふ」


 オルタは、首を傾げる英成にニカッと笑った。


「おとーさんにいっぱいだっこしてもらってる」


 緊張感の欠片もなかった。


「あらー、可愛いじゃない。っていうか、その若さで子供がいるのね。あなたたち夫婦? 『階段組織』には見えないけど……一応二人ともレベル10は超えてるのね。とはいえ、危なかったわね」

「あっ、いや俺の子供じゃ……」

「ちょっ、私が彼と夫婦ですか!? 見えるのですか?! 仲睦まじい三人家族に見えるのですか!? 理想としては男の子も欲しいので一姫二太郎なのですけども!」

「あ、あはは、なんかよく分かんないけど……こんにちわー、もう怖くないからね。お姉ちゃんにお名前教えてよ」


 オルタの笑顔に、カミラも顔をほころばせて覗き込んできた。


「おねーちゃん、誰?」

「お姉ちゃんは、カミラ。『階段組織』よ」

「おねーちゃん、『青い風のカミラ』なの?」

「あら、うれしいわね。私のこと知ってるの?」


 興奮気味なオルタに、満更でもないカミラ。

 だが、英成と刹華には今のオルタの言葉は聞き捨てならなかった。


「おい、オルタ! この女のこと知ってんのか?」

「知ってるよー、だって、おとーさんいつもお話してくれたでしょ?」

「な、なに?」

「青い風のカミラはイイ女って、おとーさんいつも言ってた」

「……ハッ?」

「おかーさんそれ聞いていつもやきもち」


 謎は深まるばかりだった。


「あらー、あらあらあらあら!」

「ちょっ、英成くん、どういうことですか!?」

「な、なんだよ」


 カミラはニンマリとした笑みを浮かべ、刹華は聞き捨てならないと、英成を左右から小突いた。


「なによー、あんた私に憧れてるの? 気の無いそぶりしちゃってさー」

「違いますよね! おとーさんは人違いなのでしょう! それとも実はセフレの一人とかそういうことではないでしょうね?!」


 面倒くさい勘違いをされた。


「そっかそっか、イイ女かー、うれしいじゃない。まだ新人で名は売れていないと思っていたのに、そんな評価をしてくれる男が既にいるなんてねー」

「いや、だからこのガキの父親は俺じゃなくて……」

「むー、おとーさん! オルタはおとーさんの子供だもん!」

「そういえばあなたは数多くいるセフレの中でも私だけは特別的なことを言っていましたが、抱いている女の子全てに同じこと言っているのですか!?」

「だから、ちげーって言ってんだろうが!」

「まー、いーからいーから。……って、危ない!」


 カミラが飛びながら叫び、棒を回転させて、飛んできた何かを防いだ。


「まだ居んのかよ!」


 飛んできたのは、先ほどと同じ弓矢。

 飛んできた方角を見ると、かなり離れた場所で、同じ姿をした連中がゾロゾロ居た。


「面倒くさいわね。この組織は二百人ぐらい居るから、次々と来るわよ」

「に、二百人!」

「え、そ、そんなにいるのですか!?」

「ええ、この森林の奥深くにアジトを作ってるらしいわ」

「かー……マジでもうどうなってんだよ……もーどーでもいいぜ」

「いえいえ、英成くん。どうでもよくありません。私たち、異世界転移早々ピンチということですよ!?」

「とにかく、ボスもいないみたいだから、さっさと抜け出すわ」


 英成は舌打ちした。次から次へと何なんだよと。

 悩み疲れながらも英成は、転倒している魔蓮号を起こして跨る。


「まあいい。テメェには借りがある。これでチャラにしてもらう。乗れよ」


 オルタも乗せて、シートをポンポンと叩く英成。

 カミラは不思議そうに首を傾げた。


「乗れよって……そんな鉄の塊に乗ってどうすんのよ?」

「いいから、さっさと乗りやがれ! 刹華もつめろ」

「ちょ、英成くん! 四人乗りは流石に……しかもヘルメットが足りませんが、いえ、でも私も乗りますけども! 乗りますけども!」


 英成は勢いよくエンジンをかける。


「なっ、何なの、コレ! 何かスゴイ音で鳴いてるんだけど!」

「はぁ……今までこのシートに座れたのは私だけでしたのに……」

「うっ、四人は重い……が、知るか! オラ、掴まってろ! 振り落とされんじゃねえぞ!」


 巨大なエンジン音を発するバイク。盗賊たちは、目を丸くしている。

 そして、猛スピードで駆け出した瞬間、オルタとカミラは興奮した。


「はやいはやい! きゃっほーう!」

「ちょっ、すごいわ! なによこれ!」

「安全運転で逃げるのですよ! バレたら免停ですよ!」


 森を駆け抜けるバイクは、そのまま前方に居る盗賊たちに突っ込んだ。


「ぶち抜けろォ!」


 英成はウイリー走行しながら、盗賊たちをはね飛ばす。

 バイクに乗りながらラリアットや前輪で敵を跳ね飛ばす。


「こんだけ混乱してても、体は正直だ。フルスロットルでブチ抜きゃ、少しは気が晴れる」

「人を轢いて……いえ、異世界だから治外法権であり、これは正当防衛ということで大丈夫……ですよねぇ!」


 英成はスカッとしていた。


「血が滾り始めた。止まれそうもないぜ! 一人残らず、潰して砕いて千切ってやる!」 


 細かいことを頭から弾き出して、本能の赴くままに暴れる。 

 それこそ英成がしばらく忘れていた感覚だった。

 この現実に呼応するかのように、英成の動きがキレた。





――あとがき――

お世話になります。次話以降から21:00頃に投稿したいと思います。引き続きよろしくお願いします。

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