第37話 未来の可能性

「おかーさん、だっこ~!」

「え、あ、あの、ま、まって、まっ、待って、ど、どういう……」


 マキナにじゃれつくオルタに、完全に混乱状態のマキナ。

 そして……



「テメエが母親だったかこの野郎ッ!」


「ひ、姫様が……う、うそだ、そのような……し、しかし、確かに言われてみればその少女の赤みのある髪は英成だけでなく、姫様にも……ま、まさか、姫様が我らの知らぬ間に隠し子が?! 


「そ、そんな、姫様が……」


「え、で、でもそれなら父親は……ま、まさか、まさか!?」


 

 英成、アクメル、そして見張りの女騎士たちは激しい反応を見せる。



「そ、そんなわけがないでしょう! アクメルも何を言っているのよ! わ、私はそういう経験なんてないわよ!」


「くっ、さては姫様も……恐らくエイセイのテクニックに……ぐっ、エイセイとエッチして堕ちない女などこの世におりませぬ! おのれぇ! エイセイも、我を騙したなぁ!」


「んなわけあるかー! 俺だってこいつと会ったの今日が初めてだし、つーか、こいつが母親だって言うなら、俺は無関係の被害者だぞ! それと俺はなるべく避妊には気を使う方だからな! ちゃんと安全日を確認するし、ピルだって!」


「ひ……姫様が……か、隠し子……」


 

 テンパっているのはマキナだけではない。アクメルも英成も皆が落ち着きなく騒ぐ。

 だが、この場で一人だけクールな者が居た。


「なるほど……これは予想外ですが……考えられるのは……」


 ブツブツと呟く刹華は少し頭を押さえながら手を叩いた。



「皆さん、この状況についての可能性として私の考えを説明しましょう」


「「「「「?????」」」」」



 一体これはどういうことなのか? 

 皆が刹華に一斉に注目すると……


「まず、オルタ。例のアクセサリー……首のものを皆に見せてください」

「ん~? はい!」

「「ッ!?」」


 刹華に言われて素直に身に着けていたアクセサリー……いや、マジックアイテムを取り出して皆に見せるオルタ。

 それを見て、マキナとアクメルも顔が強張った。


「そ、それはまさか……ほ、本物? え? どうして……その子が……」

「我も形だけは知っておりますが……まさか、フォリス!? 娘よ、そ、それをどこで手に入れたのだ?」


 だが、英成にその問いに対する答えはない。


「刹華……それは、俺たちがこの世界に来た……」

「ええ、フォリスです。きっとこれが全て繋がっているのだと思います」

「?」


 英成には何が何だか分からないようだが、刹華はどうやらある程度の結論に至っている様子。

  

「ねえ、どういうこと? 魔王・ノヴィヒドが所有し、一年前に現れた真魔王である『ノヴィナーガ』が所有する一つしかこの世には存在しないはず。それを何故この娘は持っているのよ?」

「いや、俺も知らねえよ」

「……まさか、あなたたち……」


 英成は嘘を何一つ言っていない。むしろ真実を知りたいのは英成の方だった。

 だが、マキナは勝手に強い口調で語りだし、あまつさえ妙な方向に考えが向き出した。


「あなたたち、真魔王軍団組織の関係者?」

「知らねーって! 大体、そのノヴィナーガとかいう奴も知らねーしよ!」

「ノヴィナーガを知らない? そんなはずはないでしょ」


 マキナはそう言って、まるで確認するかのようにノヴィナーガについて語りだした。


「ノヴィナーガは突如この世に現れた。十八年前に死んだノヴィヒドの息子よ」


 ツッコミどころ満載だった。勘違いがさらに面倒くさい方向に行き出した。


「正直、当初のノヴィナーガも立ち上げたばかりの真魔王軍団も大したことはなかったわ。階数も三階か四階がいいところ。でも、奴らは特殊だった」

「三階か四階? ザッコーダとかいう連中より少し強い程度か……それで魔王かよ……」


 十階まであるような格付けで、どうしてそれがそんなに問題なのかと英成は呆れた。

 だが、英成は次にマキナの口から語られる内容に、どこか引っかかりを覚えた。


「ノヴィナーガは金と部下を作ること、そして他の組織と同盟を組む手腕に異常なほどに長けていた。そして何よりも恐ろしいのは、新たな犯罪の手口を生み出してしまい、各国の騎士団たちの捜査を非常に混乱させたこと」


 新たな犯罪手口? 最初は英成もまったく興味も無かったが、その内容は……


「例えば、資産家や貴族の息子に成りすまし、手紙や魔石などを使った通信で、金銭をだまし取る事件。『父上、私です私です。はい、私です。馬車の事故を起こしてしまい、示談のためにまとまった金が必要になりました。今、友人に実家まで取りに行かせますので、渡してください』などと、特に年寄りを狙って金を騙し取るという事件が良くあったわ」

「ただのオレオレ詐欺じゃねえかよ!」


 新たな犯罪手口は、英成には耳にタコが出来るぐらいに日本で聞いた犯罪手口だった。


「まだ、あるわ。一度投与すると二度とやめられなくなるという未知の薬を、気分が一気に最高潮になると言って低価格で売り、症状に使用者が耐えられなくなった頃に薬の値段を高額にするという商売。その薬を買うために、精神を病んだものたちが略奪や暴力に走る事件が頻繁に多発した」

「それって、麻薬じゃねーのか? 麻薬でラリった奴らがヤク欲しさに暴れただけだろうが!」


 まさかこの世界にもオレオレ詐欺や麻薬を使った犯罪があるとは思わなかった。


「ってか、異世界でも同じような犯罪を考えつく奴が居るとは恐るべし」

「やっぱり詳しいわね。何がノヴィナーガは知らないよ」

「いや、そりゃー、そう思われるだろうが仕方ない。日本人なら誰でもツッコミたくなる」


 マキナの瞳が疑惑から確信に変わる。

 このままではあらぬ疑いで酷い目に合うと感じ、どうにか誤魔化せないかと焦る。

 だがその時、刹華は……



「話がそれましたが……とにかく、このフォリスというものは『異なる世界』を繋ぐアイテムとのこと……それは、時間も超越して繋ぐことができるのであれば解決です」


「「「「???」」」」


 

 まだ刹華の言葉の意味を理解できない一同。

 しかし、次の言葉で……



「つまり、オルタは未来から来た……どういう流れでそうなったかは知りませんが、英成くんとお姫様が未来で結ばれて生まれた子供であり、フォリスで時を超えて未来からやってきた……そういうことではないでしょうか?」


「「「「「ッ!!!!????」」」」」



 それは、あらゆるアニメやゲームやライトノベルを好む刹華ならではの予想であった。

 当然、そんなバカげたこと……と、思うところだが……


「おかーさん?」

「あ……あわ……わ……」


 これまで「心当たりがない」と言い張っていた英成とは違い、どうやらマキナはオルタに対して何かを感じたようだ。


「じゃ、じゃあ、も、もし仮にそれが本当だとしたら……わ、私は……こ、この男と!?」

「……な、なにぃ?」


 マキナにとっては「夢であってくれ」と願わずにはいられない衝撃であった。



「たしかに、刹華のその仮説が正しかったとしたら……俺はお姫様とまで、しかも避妊無しで寝るような関係……つうか、結婚してんのか?!」


「ちょ、う、うそ……うそよそんなの! あ、ありえるわけがないわ、そんな未来! ええ、でたらめよ!」



 マキナは姫である。それゆえに自由な恋愛が許されていないというのは分かっている。

 しかしそれでもマキナとて女である。

 恋……結婚……そういったものに対してささやかな願いぐらい抱く。

 せめて、自分が好きになった男……



「な、なんで、なんで私が、色んな女の子と、あ、アクメルとも、え、えっちしてるし、そ、そんな男の子供を……こんな好きになる要素何て皆無の男に!」


「おのれぇえ! エイセイめ、貴様ぁ、我を弄ぶだけでは飽き足らず、姫様にまで!」



 もはや混乱して、目元に涙まで浮かんでいるマキナと、怒り心頭のアクメル。

 そして……



「さて……もしそんな未来が本当だとしたら……英成くん? 私はどうなっているのでしょうか? ヤリ捨てられたのでしょうか?」


「せ、刹華……」


「まぁ、オルタも私のことをママと言っているので、捨てられてはいないのでしょうけど……忘れたのですか? セフレの中では私こそが……と……私がセフレの中でも次点などに降格するようであれば殺しますと」



 刹華は歪んで闇を孕んだような瞳で英成に微笑む。

 

「ちょ、ちょっと待て、お前ら! か、仮に本当に未来のことだったとしても、い、今の俺に言われても……」


 そう、英成からすれば「まだ何もしていない」状態であるために、涙や怒りを見せられてもどうすればいいのか状態である。

 すると……


「おかーさん、アクメルもセツカママもお顔こわいよ、どーしたの?」


 何も状況が分かっていないオルタがキョトン顔で首を傾げる。

 そして……



「おかーさんたちは、いっつもおとーさんに甘えんぼでチュッチュしてるのに、へんだよ~?」


「「「ッッ!?」」」



 オルタはそんなことを口にした。

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