第36話 お姫様の正体は……

 カミラがまさかこの国の姫だったとは。

 英成から見たら、大胆なアメリカ系のセクシーダイナマイト女としか思えていなかったのに、そんな身分だったとはと驚きを隠せない。

 

「で、お姉ちゃんは?」

「さぁ……俺の女の一人がアクメルとの戦いで顔を怪我したから一緒に病院に……」

「そう……ん?」

「にしても……腹違いだっけ? でも、あんま似てねぇな……」


 アメリカ系のカミラに比べて目の前のマキナはヨーロッパ系の清楚で格式高い名家のお嬢様という印象を受ける英成。

 するとそのとき、英成の言葉にマキナは首を傾げ……


「ちょ、ちょっと待ちなさい。アクメルとの戦いで……あなたの女……が?」

「ああ」

「え? だ、だってあなた……アクメルと……その、良い仲になったのでは? その、え、えっち、もしたって……」

「ああ、したぞ。でも、他にも俺にはそういう女が居る……アクメルにも教えたぞ?」

「……え……えぇ?」


 こういう話はコソコソしたり、しどろもどろに誤魔化すのではなく、開き直ってしまう方がイイ。英成はさも当然のように、むしろ「何か問題でも?」というスタンスでマキナに返した。


「だ、だって、それって、ふ、二股……」

「ああん? それじゃァこの世界は一人は一人しか愛しちゃいけねえのか? 王様は一夫多妻じゃねえのか? 勇者はハーレムじゃねえのか?」

「え……あ、い、いえ、で、でも……」

「俺は別に陰でコソコソ浮気してるんじゃねえ。ヤリたいイチャイチャしたい女とイチャイチャするだけだ!」

「………………」

「そういう意味ではあんたも最高にイチャイチャしたい……こんな気持ちになったのは刹華以来だ」

「ッ!?」


 と、そこで英成はサラリとマキナまで口説き始めた。

 とはいえ、この流れでマキナが靡くわけもなく、むしろ顔を真っ赤にして明らかに不機嫌な表情になった。


「ふ、ふざけないでくれるかしら! この私が……シルファン王国の姫であるこの私に向かって何という事を!」

「カカカ、その反応は最初のアクメルと同じだな……ま、今では俺たちラブラブだけどな」

「~~~~~~ッ!」


 その瞬間、英成は少し気持ちが軽くなった。

 最初は姫という見えないオーラを発して近寄りがたい雰囲気を出していたマキナだったが、この手の話題はアクメルと同様にウブだった。



「ねえ、あなたは……まさか洗脳の魔法でも使った……わけではないわよね? あのアクメルがどうしてあなたのような……情と正義に厚く、誇り高い騎士であるあのアクメルがどうして……」


「洗脳の魔法? そんなもん使えるかよ。俺が使えるのは……恋の魔法だ♪」


「っ、はぁ……ダメ。あなたと話していると頭がおかしくなりそうだわ」



 何故アクメルが目の前の男に抱かれるようなことになったのか。

 敗北の凌辱や脅しで抱かれたわけでもない。それなのにどうして? 

 マキナに理解のできないことであった。



「いずれにせよ、あなたから膨大な魔力も感じないようだし、洗脳ということはなさそうだと分かったからもういいわ。あなたとアクメルたち当事者間の間で納得するような関係だというのなら、あなたの言うように個人の恋愛に対してまで首を突っ込む下世話なことはしないわ」


「あ~そう。そりゃどうも」


 

 どうやら、アクメルが魔法の力で洗脳されているかもしれないという疑いもあったようだが、その疑いは晴れたようで、マキナももうそのことには触れないとした。


「で、とりあえずお姉ちゃんがこの国に帰ってきているのなら呼び出して欲しいのだけれど、お願いできないかしら?」

「ああ、それなら俺のツレが……」


 とりあえず、もうマキナの興味は英成ではなく姉であるというカミラに。

 ただ、そのカミラは現在刹華と一緒に……と英成が口にしようとしたその時だった。


「姫様、そろそろよろしいでしょうか!」

「あ……」

「あぁ~、エイセイ~、我のエイセイよ~、ちゃんと疑いは晴らしてくれたであろうか?」


 牢獄の空間に足を踏み入れたのは、まるで劇団員のようなオーバーリアクションをしながら入ってきたアクメルだった。

 目を輝かせ、頬を紅潮させ、もはや凛々しさの欠片もないデレデレ顔であった。


「……こんなの見せられたら洗脳だと疑ってしまうわよ」

「カカカ」


 そんなアクメルの様子に溜息のマキナ。

 その呟きにアクメルは即座に反応。



「姫様、我は洗脳も凌辱もされておりません。エイセイが我に惚れたので、わ、我もそれを受け入れて、ら、ラブラブになっただけであって、エッチしたのも合意の上であって、あぁ~、エイセイ、すまぬ。我がしっかり起きていたら……ま、まぁ、それもこれも我の意識が飛んでしまうぐらい、貴様がエッチうますぎるからなのだがな♥ そして、我らの身体の愛称も抜群と……でへへ♥」


「おう。俺も……またアクメルとエッチしたい」


「うな~~! んもう、んもう! エイセイのエッチ~! そ、そんなに我の体が気に入ったとか、う、嬉しいけど、姫様の前だゾ♥」


「はぁ~……こんなの、むしろ洗脳されていて欲しかったまであるわ。これが恋に落ちたアクメルの素だというの?」


 

 アクメる様子に溜息の止まらないマキナに、開いた口が塞がらない様子の見張りの女騎士たち。

 そして……


「おっと、そうであった。姫様、もうよろしいでしょうか?」

「ええ。で、なに?」

「はい。我と同じエイセイの良き人である女が幼子と一緒に迎えに来られていて……」

「……そう。で、お姉ちゃんは?」

「あ、いえ、どうやら気づいたらいなくなっていたということで、同行しておらず……」

「……そう、逃げたのね。だと思ったけど……ま、いいわ。その人たちを連れてきなさい。彼も釈放よ」

「はっ!」


 アクメルの話から、どうやら刹華とオルタが迎えに来たようだと分かった英成。

 そのうえで、マキナも「釈放」と口にしている以上、これ以上は何もないのだろうと英成も安堵。

 そして……


「英成くん! どうやら……無事……ぷぷぷ」

「よ、よぉ……」

「うふふふ、異世界に来ても捕まるなんて……一日ぐらいそのままにしてもらったらどうでしょうか? 少しは更生するかもしれませんよ?」

「う、うるせーよ」


 アクメルに許可されて監獄前まで来た刹華。牢屋の中にいる英成に笑いが止まらない様子。

 そして、そんな刹華の背には眠っている様子のオルタ。


「おい、オルタは寝てんのか?」

「ええ。あなたが連れて行かれてから『おとーさんがいっちゃったー!』って泣き叫んでたのですよ?」

「あ、おお……そうか……」

「今は泣き疲れて寝ていますが、起きたら優しくしてあげてくださいね?」


 刹華の背中で寝ているオルタの目の周りが赤くなっている。

 どうやら、自分が連れて行かれて相当泣いたのだと伺える。


「あら、かわいいわね」

「むぅ……なぁ、エイセイよ、その幼子は本当に貴様の血の繋がった娘では……」


 そんなオルタにマキナも微笑み、アクメルは少し不安そうに。

 すると、そのときだった。


「ん~……」


 オルタがモゾモゾしだした。そして目をこすりながら……


「あっ、おとーさん!」

「……よう」

「おとーさんだー!」


 英成の姿を見つけて一気に目を覚まして笑顔になるオルタ。

 刹華もオンブしていたオルタを降ろしてその背中をそっと押し出すと、オルタは嬉しそうに牢屋の前を走り回る。


「わーい、おとーさん見つけたー! おとーさん!」

「はは、心配させちまったようだな……」


 自分の娘ではない……と言いつつも、それでもここまで懐かれてしまい、何だかもう英成も自然と笑ってしまった。

 だが……



「あ……」


「ん? うふふ、こんにちわ」


 

 オルタがマキナの姿を見た瞬間、ピタリと停止。

 マキナが微笑みながら挨拶すると…… 



「おかーさん!」



 マキナを見て、オルタは花が咲いたような笑顔でそう口にした。



「……は?」


「「「「「……………え?」」」」」



 聞き間違いではないらしい。

 マキナだけではなく、英成も刹華もアクメルも見張りの女騎士たちも驚愕していた。


「おかーさん! おかーさん迎えに来てくれたんだー」

「えっ、あっ、いえいえ待ちなさい、あなた、な、何を言って……」

「ぶー、おかーさん、はやくだっこぉ!」


 オルタは当たり前のように、まるで嘘をついている様子もなくマキナに対してそう接している。


「……ふぅ~……」


 それを見て英成は一度大きく息を吐いて落ち着く。

 そして、これまであった全てを頭の中で回想し、溜め込んだものを一気に吐き出した。



「テメエだったかコラアアアアアア!」



 その叫びは建物全体に響いただ。


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