第35話 姫との出会い
目を覚ました英成は一気に溜息だった。
この世界の文明がどれほどかは知らないが、今まで自分が世話になっていた警察署の牢屋の方が何倍も清潔であると思えるような、かび臭い牢獄。
全精力を出し尽くして横たわっていた英成が目を覚まして感じたのはそれだった。
「んだよここはぁ~~~! おい、アクメルはどうしたー! 刹華は!? カミラは!?」
牢獄で目を覚まして状況確認。
「目を覚ましたか……クズめ」
「ああん?」
そして、牢の外で見張りを兼ねて若い女の騎士たちが英成に怒りの形相。
国の騎士を倒して手籠めにしたことが原因で捕らえられたのかと、英成も感じた。
「あ~……アクメルと同じ格好の女騎士……あ~、そういうことか。無粋な連中め」
「なにい?」
気を失っている内に入れられたのだろうと理解できた。
だが、これは予想も出来なかった。
「あ~、ったく……何やってるんだろうな、俺は。ヤリ終えて寝ている間に逮捕なんて初めてだぜ……ま、あの女を抱いて悔いはないがな♪」
そう言う英成の口元は、少しだけ緩んだと思う。
「おい、貴様。ぶつくさ先程から何を言っている!」
そんな英成にトゲのある口調で牢の外から誰かが言ってきた。
全身に甲冑を纏い、鉄の槍を携えた二人組。どうやら見張り番のようだ。
「大人しくしていろ。アクメル団長を……あの御方を穢して凌辱したのだ……ただで済むと思うなよな!」
「それと……貴様のモノと思われる衣類はそこに投げてある……とりあえず服だけ着て、その粗末なものをしまえ!」
見張りの兵はかなりご立腹のようだ。
だが、そう言われるとどうしてもからかいたくなった。
「ありきたりなセリフだ。誇り高い騎士様ならもっと気の利いたセリフを言えよな」
「なにい!」
「ってか、粗末なもの? お前らのその団長さんは俺のコレに終始夢中。穢した? 凌辱? 俺らは和姦さ。俺とアクメルはラブラブだ。本人に聞いてみろよ」
「ふざ、わ、私たちの団長を侮辱するなぁ!」
「本当のことさ。何ならあんたの身体にも教えてやろうか? そんだけ美人なら俺も気合入ってたっぷり教える気になる」
「ふぇ? あ、え? ちょっ、やだ! か、隠しなさい! ふぁ、ま、前を……か、隠しなさい!」
英成は反抗的に、そして女騎士たちをからかった。
すると、アクメル同様にこういったことに免疫があまり無いのか、強気な態度が一変し、英成の裸に顔を真っ赤にして震えてしまっている。
「ほら、今はあんたら以外居ないし……どうだい?」
「な、なにを……」
「色々と溜まってるなら、可愛がってやるぜ……濃厚にな」
「や、やだ、あ……ひっ、さ、下がれ……」
牢屋の中、鉄格子に全裸で近づく英成に狼狽えてしまう女騎士たち。
彼女たちもまた男性の裸に免疫が無いのか、顔を赤くし、その上でダメだと分かっていても英成の身体から目を離せない。
するとその時だった。
「アクメルを倒し、街を恐怖に陥れた男と聞いたけど……これはまた随分と寒気のするような男のようね」
英成が入れられている牢屋の前に、一人の女が現れた。
その瞬間、女騎士たちは慌ててピシッと真っ直ぐに気を付けをしだした。
「誰……だ?」
反射的に聞こえてきた声に「誰だ」と強気に聞こうとした英成だったが、その声の主の姿を見た瞬間、英成は全身が雷に打たれたような衝撃が走った。
「私はマキナ。シルファン王国の姫よ」
「……は?」
そして淡々と自己紹介をするその女に、英成は惚けるしかなかった。
盗賊や女騎士に続いて、英成の前には国の姫まで現れた。
「姫さま、どうしてこのような場所に!」
「そうです、姫様自らが来られる必要などは……」
いつもの英成なら、こんな高慢な女を「痛い奴」としか思わないのだが、こんなファンタジーな世界で姫を名乗るのだ。
本物なのだろうと英成は無意識に感じ取った。
さらに、身に漂う空気に気品や威厳が感じられる。
(こいつ……)
思わず見惚れてしまうほど。
(ファンタジー世界でもイイ女は居た……でも、こいつはカミラとも、レミ姉さんやファソラ、アクメルとも違う……胸が高鳴る……抱きたいとかそういうのを超越するこの感覚……そこに存在するだけで気品やらを感じる……刹華と初めて出会った時以来―――)
そう、一目惚れに近いような感覚であった。
「あなたたち、どうやら彼の言っていることは残念ながら本当のようよ?」
「「ぇ?」」
「さっき、目を覚ましたアクメルがね……自分たちは合意のものと……ただ、その前に私自身も確認も込めて話をさせてもらいたいと思ってね」
その言葉を聞いて英成も少しホッとした。
どうやら目を覚ましたアクメルがちゃんと事情を説明してくれたようだ。
とはいえ、それが本当かどうかの事情聴取に姫自らが出てくるあたり、アクメルのことは相当この国では重要な存在であると伺え、そんな女と濃厚濃密に交じり合ったことは、我ながらすごいことだったのだと感じていた。
「で……ほんと、とりあえずまずは服を着てくれないかしら!」
「あっ、こ、こりゃ失敬……」
いつもなら「見たければどうぞ」とからかってしまう英成も、目の前の姫にはどうしてもまだそれができないでいる。
それだけ、マキナはこれまで星の数ほど出会って抱いた女たちの中でも格が違った。
「んで? 俺とアクメルがラブラブなのが分かったんなら、さっさと出してくれねーか? それともこの国のお姫様は個人の恋愛にも口出すほど下世話なのかい?」
しかし、英成も狼狽えるのもカッコワルイと思い、精一杯皮肉った。
それに対して、マキナは笑った。悪戯小僧に仕方がないなと思っている、母親のような顔だ。
「あら、この状況で嫌味? 随分と生意気なガキね」
「ガキって、テメェと同じぐらいだろうが! 俺は十七だ!」
「十八歳。じゃあ、ガキでいいじゃない」
「かわんねーだろうが!」
「そろそろ話をしていいかしら? 耳障りよ」
「ぬぅ……」
見惚れるような美しさと、思わず飲み込まれてしまいそうになるオーラのようなもの。
(こいつ……刹華と似た感じだけど、刹華の方が性格イイ……こいつは……ツンデレタイプの優等生って感じだな……)
その上で、その口を突いて出る姫とは思えない言葉や態度に、英成はやりづらさを感じた。
そして……
「宿屋の娘から乙女騎士たちが聞いたようなのだけれど……あなた……『青い風のカミラ』と一緒に行動していた……仲間っていうのは本当かしら?」
「……なに?」
さらに姫であるマキナから出てきたのは意外な人物の名前だった。
「その反応……どうやら本当のようね。換金所でもカミラが顔を出したという報告は来ていたし……そう、この国に帰って来ていたのね」
「あ、えっと、いや……昨日偶然会っただけで、別に仲間ってわけじゃ……つーか、カミラが何か? ひょっとして、あいつ結構ヤバイ奴だったり?」
まさか、一国の姫の口からカミラの名前が出てくると思わず、だからこそ気になった。
よくよく考えれば、自分はカミラのことを「階段組織」を名乗ってテッペンを目指す女ということ以外は何も知らない。
なかなか女にしてはぶっ飛んだところもあるし、容姿も含めてイイ女だとは英成も思っていた。
しかし、こうして一国の姫がワザワザ牢屋の前まで来て尋ねてくるほど、カミラは……
「そう、あなたは知らないのね」
「あ?」
「青い風のカミラ……本名は……『カミラティ・シルファン』……」
「……シルファン?」
この国の名はシルファン王国。それがカミラの本名の中に入っているということは……
「そう、腹違いではあるけれど……カミラティはずっと昔に家出した……私のお姉ちゃんよ」
「ぶっふぉっ!!??」
――あとがき――
夜の投稿です~
本作はカクヨムコンテストに参加させていただいております!
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