第39話 生きがいを与える

「じょ、冗談じゃないわ! 絶対にイヤ! たとえ、アクメルはよかったとしても、私は絶対にイヤよ! そんな男と結婚も、抱かれることも、子供だって……絶対にイヤなんだから!」

「だ、だから、そんなこと今の俺に言われても……」

「今の? 今言っておかないとダメでしょう! いい? もう今後一切私の前に現れないで!」


 オルタから聞かされた未来の「可能性」について全面拒否で叫ぶマキナ。

 その気持ちは仕方のないことだった。

 だが、そんな英成たちに、オルタが一言。


「むー、おとーさん、おかーさん、ふうふげんかだめ!」

「夫婦じゃないわ! とと、とにかく、この件に関しては私の預り知らぬもので……」

「おかーさん? ねー、どーしたの?」


 しどろもどろに否定するマキナだが、かたくなに母親と呼び続けるオルタに狼狽える。


「だ、だから、わ、私はあなたのお母さんではないわ!」

「……ふぇ?」


 デジャブ。英成と刹華はこれと似たような光景を見た。

 オルタに向けてハッキリと強い口調で言うマキナ。

 しかし、その言葉にオルタは目を丸くして固まり、すると徐々に表情が崩れて……


「お……おかー……さん……」

「あ、……」

「……う……うう……」

「ちょっ、待ちなさい! 落ち着いて、ね! 泣かないで!」

「あ……あああああああああああああああ~~~~」


 オルタは号泣した。


「あーあ、知らね」

「もう……かわいそうに」

「わわわ、え、エイセイ、あの娘泣いてしまっ……いや、娘などと軽々しく……だって、先ほどの話が本当であれば、姫様のご息女になるわけで……あぁ、でも姫様は否定を……わ、我はどうすれば!?」


 これに苦労させられた英成は、半分マキナをザマアミロと思い、刹華はオルタを憐れみ、そしてアクメルは混乱した。


「ちょ、君の娘でしょ! ちゃんと泣き止ませなさい!」

「ああぁぁあ~~~、おかーさん!」

「も~~、どうなってるのよ!」


 オルタは泣き止まない。それどころか余計に泣きじゃくる。

 手の施しようがないほど叫ぶオルタに圧倒されてしまい、ついにはマキナが背を向けた。


「ううう、と、とにかく、な、ないからね! 私は違うんだから! アクメル、後の処理はあなたに!」

「あっ、テメェ、どこ行きやがる!」

「姫様!?」

「その子が泣き止んだらまた来るわ!」  


 そしてついに、走って逃げ出した。


「おかーさん!」


 そこに誇りも気品のかけらもなく駆け出したマキナの後ろ姿を見ながら、英成、刹華、アクメル、そして見張りの兵たちだけがポカンとしていた。


「うううう、あああああああ、おかーさんが、おかーさんがオルタを嫌いになった~」

「いや、そんなこと俺に言われても」

「オルタがワルイ子だから……おかーさんにきらわれた……」

「あ~、その、なんだ? まあ、いいんじゃねえの? 親に嫌われる子供なんて別に珍しくねえさ」

「あああああああ、いやああああああああああ」


 正直、泣きたいのは英成も同じだった。


「やれやれ……オルタ……もういっそのこと、私があなたのママとお母さん兼任に……」

「うぅううう~~~、おかーさんがぁあ~、おかーさん~」

「……ダメなようですね」


 刹華もオルタを何とか泣き止ませたかったが、今のマキナを説得は難しいこともあり、困った様子。


「わ、我もどうすれば……お、お前たちも妙案はないか?」

「団長……」

「私たちに言われましても……」


 これはどうすればいい? 

 もはや誰もが頭を抱えるしかない状況……だったのだが―――



「ぷぷぷ、あーっはっはっは、おっかしーッ」


「「「「ッッ!?」」」」



 それは、マキナが出て行った直後であった。

 まるで入れ替わるように誰かがこの空間に足を踏み入れた。

 誰もが頭を抱える状況下で大笑いしながら。


「あ……」


 そして、その誰かが分かった瞬間、再び全員が驚いた顔を浮かべる。


「んで、オメーは何で爆笑してんだ? つーか、お前は来ないんじゃなかったのか?」

「ちゃっかりと忍び込んでいたのですね……」

「あ……ああッ! あ、嗚呼……ま、間違いない……もう何年も経っているが、わ、我が忘れるものか……あの御方は!」

「う、そ……カ……カミラティ姫ッ!」

「姫さま!?」


 それは、カミラだった。


「マキナと……せめて、アクメルが出て行ってくれるのを待ちたかったけど、もう我慢できなくってね。あ~、おかし!」

「テメエ、隠れて最初から話を聞いてやがったな」

「うん。アクメルをやっつけたことや、ヤッちゃった罪がどうなるか心配だったんだけど、マキナも意外とおおらかというか……てか、状況を見てたら、えらい会話を聞いちゃってね」


 カミラは英成がイラつくぐらいニヤニヤしている。


「まだ未来とか信じられないけど……マキナがオルタのお母さんとはね~。エイセイ、あんたってばどうやってあの娘を? いや、案外マキナもアクメルみたいにチョロいのかなぁ?」

「知らねえよ……まぁ、確かに口説きたくなるぐらいイイ女だとは思ったけど」

「あはは……あれ? そうなると、私ってばエイセイにとって未来のお姉ちゃんになってるとか?」

「……あ……」

「うっは~~~~、おいおい、すごい未来だねぇ! アクメルが愛人で、セツカとマキナが妻で……それこそ皆で朝みたいな、あの、ほら、エッチぃことばっかしてんのかなぁ?」


 目を輝かせて、照れたり笑ったりしながらも興奮しているカミラ。

 そんなカミラにアクメルと見張りの女騎士たちはポカンとしていたが、すぐにハッとして片膝付いた。



「ご、ごぶさたしております、カミラティ姫! まずは、よくぞお戻りくださいました!」


「うん、ひさしぶり~。でも、帰ったわけじゃなくて、立ち寄っただけよ~。すぐ出ていくし」


「何を申されますか! マキナ姫が、陛下が、どれほどご心配されていたか!」


「んじゃ~、心配ないからこれからもほっといて♪」


「姫様ッ!」



 こうしてアクメルたちが畏まるまで英成たちは信じられなかったが、やはりカミラはこの国の姫。

 その様子に刹華も驚いている。

 そして……



「しっかし、心配いらないと言いつつ困ったな~。これからのことを考えるとオルタはこんなんだし、マキナのこともあるし……ん~……」


「姫様……?」


「ん~~~~……まっ、いっか! とりあえず決めることだけ決めて、そっから考えるってことで!



 ふざけた態度から少しだけ考えるようなそぶりを見せるカミラ。

 だが、すぐに結論が決まったようで、目を輝かせながら英成と刹華を見て……



「エイセイ、セツカ……あんたたちは私の仲間になりなさい!」


「「……は?」」


「私はあんたたちのこと気に入ったの。二人とも、私の階段組織に入りなさい。ってか、入れ♥ もちろん、オルタも一緒にね」



 あまりにも唐突過ぎて、英成と刹華は固まった。

 アクメルたちも訳が分からない様子。

 それだけ、カミラは公園で遊んでいる子供が子供に遊びを誘うようなノリで言い出した。


「……い……いや……断る」


 英成は即答したが、カミラはそれで引くような女ではなかった。


「もちろん、タダじゃないわ。今ならあんたたちは、組織のナンバー2よ!」

「お前しか居ない組織だろうが! てか俺たちにお前の部下になれってのかよ!」

「ううん。私には部下なんて要らない。欲しいのはイカした仲間よ」


 冗談だと思ったが、本心で自分を仲間にしようとしていると英成に伝わってきた。


「悪い気しねーが、断る。こんな世界にいつまでも居る気はねーし、群れる気もねえ」

「じゃあこれからどーするの?」

「どうにかして元の世界に戻る」

「んじゃあ、戻った世界には何があるわけ?」


 その時、どこか全てを見透かしたかのように、カミラが笑っていた。


「ゴハン食べてる時に同じことを聞いたわね。でも、あんたは答えられなかった。それは、元の世界には帰りを待つ人も居場所も無いからじゃない?」


 図星だった。英成が帰ろうとしているのは、家族とも縁を切り、四王者すら居ない世界。


「ザッコーダ一味と戦ってる時や、アクメルと戦ってる時のあなたはイキイキとしていた。あの血が滾った空間を、自分の居場所と思えたんじゃない?」


 それも否定できなかった。久しぶりに自分の全力を出し切ったケンカだった。


「私はこれからももっとあんたにソレを与えてあげられるわ」


 その言葉に、英成の心臓が高鳴った。


「舎弟なんて要らないわ。共に血を流して共に駆け上がる、バカ野郎な仲間が欲しいのよ」

「ふざけんな。俺は……誰とも群れる気は……」


 自分が信じられなかった。いつものように言葉が出ず、カミラの言葉に惹かれていた。



「これからの人生に、居場所と生きがいを感じさせてあげるから、仲間になりなさい」



 そう言って、濁りのない瞳でカミラは鉄格子の隙間から手を差し出した。 

「これから、あんたたちは私の側で反逆し続けなさい」

「……テメェは俺たちを仲間にして何を得る?」

「最上階」


 カミラは即答した。夢を語るようなキラキラとした瞳で、どこか重みを感じた。


「テッペンか……不良女め……まあ、悪くねえがな……」


 悪くない気分だった。さっきから手の震えとニヤケそうになる口が収まらない。

 英成はそれほどまでに熱く滾っていた。

 四王者のテッペンに立つと息巻いていた時のように、英成は新たなテッペンを見た。

 とはいっても、流石に即答するわけにもと、英成は刹華を見る……が……


「だが、今すぐにってわけにも……なぁ? 刹華」

「え、ええ!?」

「……刹華?」

「い、いえ……わ、私としてはむしろ……異世界の仲間に誘われる展開待ってました……なのですけど……英成くんはお嫌ですか?」

「……おま……」


 なんと、刹華はむしろやる気満々で、迷っている英成の方こそ不思議に感じている表情だった。



「セツカ~~~!」


「ふふふふ、私はむしろ、是非に! ね、エイセイくんも!」


「エイセイッ! いーじゃん、ね? ね!」



 そんな刹華に言葉を失う英成だが、しかしそれでも「本当にいいのか?」と言葉に詰まる……が……



「ったく、あ~あ、もうしょうがないな~、このエッチな男は……なら……」



 すると、カミラは少し照れたように顔を赤らめながら、その豊満に揺れる二つの胸を自分でモミモミしながら持ち上げて……



「仲間になったら好きなだけエッチし――――」


「この世のテッペンまで行くぜ、カミラッ!」


「…………あ、あはは~」



 カミラが「仲間になったら好きなだけエッチしてあげる」と全てを言い終わる前に、英成は鼻息荒くして同意したのだった。


「う~、おとーさん、なんのはなしー! おかーさんは? おかーさん!」

「な、こ、これは、い、一体……な、なにが……」


 そして、状況が分からず半泣きのままのオルタと、蚊帳の外のアクメルたちはただ戸惑うだけだった。




――あとがき――

最後のお願い、是非ぃぃいいいいいいい('◇')ゞ('◇')ゞ('◇')ゞ


前々からお話ししておりますが、本作はカクヨムコンテストに参加させていただいております!


現在、【読者投票期間】中です。明日までになります。


読者選考は☆やフォロー数で争われますので、何卒フォローとご評価をお願い申し上げます。

下記の【☆☆☆】を押して【★★★】にしていただけると嬉しいです。


何卒ぉおおおおお_(꒪ཀ꒪」∠)


今後の執筆のモチベーションが高まりますので、ぜひ応援よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る