第16話 宿屋の看板姉妹は見た♥

 シルファン王国の平民街にある安宿屋。

 母と若い娘姉妹の三人で営んでいる。

 父は姉妹が幼いころに亡くなり、以降は体の弱い母を支えながら家族三人で協力し合って頑張ってきた。


「ん~~~しょ、ん~~~」

「ファソラ! ダメだよ。水の入ったバケツを持って2階に行くときは、お姉ちゃんと一緒にって言ったでしょ」

「あ、レミお姉ちゃん……でも、私一人でも……」

「だめ。零しちゃった方が大変なんだから。ほら」

「うん」


 19歳と14歳の仲睦まじい姉妹。幼いころから母親を支えて宿の手伝いをしている二人は看板娘として、街でもちょっとした人気者であった。


「う~、私にもっと力があれば……掃除ももっと早くできるのに」


 妹のレミ。肩口まで伸びた赤茶色の髪。背も低く小柄で子供っぽく甘えんぼ。

14ではあるが、知らない人たちからはもっと年下に思われたこともある。

 

「仕方ないよ。レミのレベルは2なんだから。って、私だって3なんだけどね……」


 そんなファソラと仲良しでしっかり者のお姉さんのレミ。19歳。

 ファソラと同じ赤茶色のショートヘアで、胸も大きく、街の人気者で、よく求婚されたり同年代の男の子から告白されたりする。

 しかし、恋愛ごとに興味が無いわけではないのだが、体の弱い母親や自分より年下のレミのため、家の仕事が忙しいという理由で誰からの告白も受け入れたことはない。とはいえ、家族が何よりも大切なレミはそのことを後悔せず、自分の宝物であるこの宿屋を三人でこれからも続けていくことが望みであった。

 そこまで裕福ではないが、それでも食べることにそれほど困らない生活を送る姉妹。

 そんな姉妹の唯一の悩みは……


「私たちはお母さんに似たのかもね。お母さんもレベル3だし、私ももうレベルも上がらない……私ももう19だから……あ、で、でもファソラはまだ14だし、将来があるよ!」

「う~、私ももっとレベルも身長もお胸も大きくなりたいな~」


 姉妹は共に女の平均よりもレベルが低く、体力も力も人よりないことが悩みだった。

 日常生活を送る上で問題ないが、宿全体の掃除や洗濯、さらには食料や重いものの買い出しなどと仕事は多く、レベルの低い二人は、繁盛期になると体がつらくなることもあった。

 仕事をすることでレベルが上がる場合もあるが、姉であるレミは19になってもレベルが3であり、これからの成長の望みが薄いことからも、少しそのことが悩みであった。


「やっぱりお手伝いの人を募集した方がいいのかな~」

「うん……でも、あまりお給金も出せないから……」

「じゃあ、お姉ちゃんがお婿さんを取るとか!」

「んもう、ファソラ! 冗談言わないの!」

「でも……お姉ちゃんはそうやって仕事優先で……たまには男の人とデートとか行ってもいいのに」

「こら~! いつからそんなマセたことを言うようになったの? お姉ちゃんは仕事が大好きだからいいの! 心配なのはあなたの方よ、ファソラ。たまにはお姉ちゃんにボーイフレンドぐらい紹介しなさい! 『八百屋のソーチンくん』とはどうなの?」

「え、い、いいよ、私は……お、男の子とかに興味ないもん……」

「あら、怒らせちゃった」

「お、お姉ちゃんだって、近所の『カムリさん』にアプローチされてるじゃない!」

「え、えぇ~~!? もう、ないから。そういうの。んもう!」


 ただ、悩はあるものの、それでも苦ばかりではない。

 家族で協力し合いながらこれからも頑張っていこうという気持ちで姉妹の表情はキラキラしていた。

 だが……



「あ、あわ……わ……」



 重いバケツを2階まで持って上がった二人は、そこで廊下にへたり込んでいる女性客……カミラの姿を見た。


「え、あ、あれ? あの人、昨日泊まった冒険者さんだよね?」

「ほんとだ……どうしたんだろ……あの、お客様?」


 幼いオルタの耳を塞ぎながらも、顔を赤くして明らかに様子が変なカミラに駆け寄るレミとファソラ。

 すると……



―――♥♥♥♥♥


「「ッッッ!!??」」

 

 

 ここは宿屋である。泊まった男女が部屋で「そういうこと」をするのは珍しくはないし、事を終えて汚れたシーツなどを洗ったりするのもレミたちの仕事でもある。


「お、おお、おねえちゃん……」

「し! お客様に怒られちゃうから、し!」

「で、でもぉ……」


 しかし、仕事ばかりの生活をしていたので「そういうこと」に関しては経験のない二人には、刺激的なものであることに変わりはない。


「~~~~~~~~~~~♥♥♥」


 ぼろい宿なのでギシギシと揺れる。

 響き渡る、ただれた獣の嬌声。

 そしてやがて揺れと声が収まり……


「はあ、はあ、はあ……ふぅ……」

「どうだ?」

「……やはり……痣の形が変わってます」

「あっ、俺もだ」


 荒れた息の中で互いに果てて事を終えたと思われる二人は、部屋の中で何かを確認しているようで……


「カミラさん、見てください! 私たちの痣を」

「ど、どうなってんだ?」


 ガチャリと完全全裸の事後の二人が出てきた。



「「「ふぁああああああああああああっ!!??」」」


「?」



 同じ女性の刹華の裸ならまだしも、英成の裸はまずかった。

 カミラは慌ててオルタの目隠しだけはしたものの、宿屋の姉妹と一緒に声を上げた。


「お、おおお、お客様ぁ……わ、しゅ、しゅごい……」

「だ、だめ、レミ、見ちゃダ……わ、あ……お、お客様……え、わ、あんなに……じゃなくて、お、お客様ぁあ!」


 顔を真っ赤に腰を抜かす姉妹。二人に気づいた英成は少し驚いたが、すぐにいやらしい笑みを浮かべた。


「なんだ~? カミラといい、異世界の乙女は純情が多いんだな~、お姉さんの方も男の裸を見たの初めてか?」

「ふぁっ、あ、あの……」

「しかし、覗き見するとは……興味津々か? 隠れてないで、言えば見せてやったのになぁ」

「ッ!?」

「せっかくだし、ほら、部屋に――――」


 朝から旺盛な英成は、まるで美味しそうなお菓子を見つけたかのように姉妹に笑みを見せ、自分の裸体を隠すどころか見せつけた。

 照れながらも目を離せない姉妹は顔を真っ赤にして言葉を失い……


「ナンパは後にしてください」

「いて、おい、つねんなよ!」


 嗜めるように刹華が英成の腹をつねり、そして咳ばらいをして胸元をカミラに見せ……


「カミラさん、どうでしょうか? 私たちのレベル……」

「え? ふぁ? あ、えっと……えっ!!??」


 英成の裸に同じように言葉を失っていたカミラだが、刹華と英成のレベルを見て、顔色を変えて驚愕。



「セツカがレベル20!? エイセイが21!? うそ! またレベルが上がってる!」 


  

 そう、刹華と英成はまたこの短時間でレベルが上がっていたのだった。



「うそでしょ? レベル10以上になると、昨日のゴーレムのような高いレベルの戦闘で勝ったりしないと簡単にレベルは上がらないのに、どうして!?」


「え、マジか?」


「やはり……そういうことでしたか……」


 

 驚きを隠せないカミラに、さらにその会話を聞いて腰抜かしながらも首を傾げるレミとファソラ。

 英成も何が起こっているのか分からないようだが、刹華はどうやら納得したように頷いた。



「英成くん。昨日の盗賊たちと戦う前に私たちのレベルが上がったこと……そして今朝も2つも上がったこと……これらにはある共通点があります。その仮説が証明されました」


「なに?」


「これがあなたのスキルなのか私のスキルなのか分かりませんが……こ、このようなものが異世界転移の特典になっていいのか分かりませんが……」


 

 これまでのことを振り返り、頭脳明晰の刹華が導き出した仮説の証明。

 それは……




「考えられるのは一つ! つまり、私たちはエッチを1回すればレベルが1上がってしまうということだったのです!」


「「「( ゚д゚)??」」」


「英成くんが私の中で果てた回数に応じて、私たちのレベルが上がっているということです!」


「「「な……な……なんだってぇええええええええ!!??」」」




 そのとんでもない言葉に、英成もカミラもレミもファソラも声を上げた。



「も~、なに~? 見えないよ~! どうしたの~!」



 オルタの無垢な声が響いた。




――あとがき――

仲良し姉妹。悩みはレベルが低くて力もないので日々の仕事が大変なこと。姉妹の悩みを解決するにはどうすればいいのかなぁ~?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る