第14話 転移翌日朝からH♥
家族とは何か? 英成の答えは一つ。
意外と簡単に縁を切ることが出来る存在だ。
「英成……お前はどれだけ恥を晒せば気が済む……」
怒鳴ったのは、かつて父だった男。
「俺はナメられることだけは許せねーんだよ。この街で、俺をナメるのはあの三人だけだ。あの三人とケリがつかねえうちは、俺は止まれねえ。四王者の頂点に立つまではな」
「ふざけるな。何が四王者だ。そんなものクズの成れ果てではないか。いい加減、あんな奴らに関わるんじゃない!」
「うるせーな。俺たちの価値観は俺たちだけが分かってりゃいいのさ。俺をこの世で最も理解し、俺が最も理解している奴らは、親のあんたよりもあの三人かもな」
これで何度目かも分からぬ父親の言葉。
息子をクズ同然のような目で見る父親の視線。
「英成……あなたはどうして……」
英成は母親の涙を見ても、特に何も感じなかった。
そんな日が続いたある日のことだった。
一枚のキャッシュカードとアパートの鍵を父親から手渡された。
「当面の金とアパートの鍵だ。高校の授業料も既に振り込んでいる。後は……勝手にしろ」
全身を震わせながら告げる父親の言葉の意味は、勘当だった。
その言葉にすら特に何も思うことは無かった。
せいぜい、貰えるものは貰っておくかぐらいのものだ。
自分の中ではとっくに家族とは切れていると思っていたし、今更だった。
「どうして……どうして、お兄ちゃんは……そんなに……ひねくれてるの?」
家から出ようとする兄に、妹まで泣いた。
「さあ? 昔からだろ」
「もっと……人に迷惑をかけないように、お兄ちゃんにはできないの?」
「できねーな。それが不良だ」
「違うよ。お兄ちゃんは我慢ができないだけ。不良って言葉を言い訳にしているだけだよ」
「言い訳? 違うな。開き直ってんのさ。俺は自分の意思で不良やってんだよ」
「それだけじゃないよ! 女の子に対しても……色んな女の子と……その……恋人を作るわけでもなく、あんな……」
「恋人? そんな重たいもんなんていらねえよ。気安くヤレて、簡単に切れる方が気楽でいい」
それが決定的となり、妹も兄を哀れんだ目で見放した。
「バッカじゃない。私、もうお兄ちゃんのこと知らないよ……勝手にすればいいよ……」
「ああ。勝手にするのが不良だ」
それが英成の家族との記憶だった。
「そうさ、俺は抱きたい女を抱き、ムカつく奴らをぶちのめし、四王者の頂点に立てれば、それでいいのさ」
英成にとっての家族とはその程度のもの。
それが今では「おとーさん」などと呼ばれていた。
そんな英成が目を覚まして視界に入ったのは見知らぬ天井。少し薄汚れた木造の天井。
ベッドも寝心地が悪い。部屋も簡素で鏡台とベッドが二つあるだけ。
「そっか……昨日は遅くて……なんか疲れたから安宿で泊ったんだっけ……」
制服を脱いでパンツ一枚でグッスリ爆睡した英成。
昔の夢から覚めたものの、起きたその場所はやはり夢ではなく現実だった。
「く~……ん~……」
見知らぬ部屋に加えて、何よりも自分に寄り添うように幸せそうに寝ているオルタがそれを証明していた。
「はぁ~……ファンタジーのままか」
起きて早々頭を抱えて英成は溜息を吐いた。
「あら、良いではありませんか! 私たちは間違いなく異世界転移ファンタジーを経験しているのですよ? これからのことを考えると、私はワクワクが収まりません!」
そんな英成とは反対に、隣のベッドには自分より先に起きていたのか、刹華がニコニコしていた。
彼女もまた制服を脱いで、裸でシーツに包まりながらベッド脇の窓の外を眺めていた。
「英成くん、こっちに来て外を見てください。昨日は夜遅くで暗くて街灯もなくてよく見えませんでしたが……」
「ん? お、おお……」
オルタを起こさないようにゆっくりと刹華のベッドに体を移す英成。
そして、刹華と並んで窓の外……ファンタジー世界の街並みを視界に入れた。
「すごいですよね」
「……あ、ああ……」
中世の西洋を感じさせる巨大な街。
それでいて、街自体はそれほど煌びやかなものではない。
それは悪い意味ではなく、誰もが住みやすい環境とも言えた。
白い石造りで作られた街は、大勢の人々が住んでいた。
道端に溢れる露店、果物や肉を籠に入れて売る商人、朝早くからこれから仕事へ向かおうとしていると思われる中年の男たちや、それを見送る家族と抱き合って「いってらっしゃい」をしている光景も見える。
「……で、お前の望むファンタジーか?」
「それを確かめるために早く街に出たくて仕方ありません!」
英成と違って、刹華はウズウズワクワクの表情だった。
それはまるで欲しかったオモチャを与えられた子供のような姿。
学校で優等生で生徒会長で大和撫子としての刹華しか知らない学校の生徒たちから見たら驚くようなハシャギっぷりだった。
「いくらファンタジーを望んでいたとはいえ、そんなに嬉しいか~?」
「もちろんです! これまでのつまらなかった日々……現実を逃避できる楽しみは両親に隠れて見る漫画やアニメ、そしてあなたとエッチしている時だけだった私は、この世界で果たして何ができるのかと考えるだけでワクワクが止まりません! 私、今が生きていて一番ときめきが止まらないかもしれません!」
「そ、そうか……」
あまりにも純粋に真っすぐそう言われて、英成も引き下がるしかなかった。
そして刹華はその上で……
「それに、英成くんも一緒ですからね」
「……刹華……」
「あなたと出会ってから、色々と常識やら我慢していたものを解放できるようになり、色々な経験もでき、その上で夢まで叶ったのです。そんなあなたと一緒に異世界転移……これ以上のことはありません!」
その言葉で、憂鬱だった英成の気持ちも少しだけ軽くなった。
「ま、確かに俺も一人よりはお前が居てくれたのは幸いだった……専門家っぽいしな」
「はい! あらゆるアニメとラノベとゲームで得た知識を役立たせてみせます!」
「かかか、そーかい」
自分も刹華がいてくれてよかったと英成は実感した。
恋人同士の関係ではない。しかしそれでも特別であり……
「刹華……」
「ひゃっ、あ、え、英成くん?」
英成は刹華に体を寄せ付けて、ハグをする。
二人ともほとんど服を着ていないので、互いの温もりを感じ合う。
その上で、刹華は抱きしめられながらも、自分の体に当たっている英成の体の一部にジト目。
「英成くん……朝から……」
「朝だからだろ? 生理現象だ」
「んもう、あなたは……オルタもいるのですよ?」
「ああ、だから起こさないようにな」
慣れたようにベッドにそのまま仰向けになりながら、刹華は両足と両手を広げて下から……その要求に英成は断るはずもなく……
「あ――――――♡」
二人は朝から交わり果て合った。
そして……
「ふ~、なんか燃えた。昨日は朝3回、昼にお前と1回、森の中でお前と5回……そして森で大暴れ。かなり体力使ったのにな」
「はあ、はあ、はあ……ええ……でも、私……まだまだイケそうですけど?」
「不思議と俺もだ……もう一回いいか?」
「まったく、朝からハレンチヤンキー全開ですね。仕方ありません、どーぞ♪」
事を終え、しかしそれでも収まりそうになり二人。
このままもう一度……という雰囲気が流れた、その時だった。
「おっはよー! そろそろ起きてる~! いい加減、朝食食べ……へ?」
いきなりノックもなしに開けられる部屋の扉。
そこには陽気なカミラ。
笑顔で固まった視線の先には、裸で抱き合っている英成と刹華。
「ふぁ~あ……朝~……あー、おとーさんとセツカママがチュッチュしてる~!」
行為の最中は起きなかったオルタだが、今のバタンと乱暴に開けられたドアの音とカミラの声で起きてしまった様子。
そしてカミラは、色気のある大胆な格好をしている大人の女性の雰囲気満載でありながらも、この瞬間はウブな少女のように顔を真っ赤にして……
「ちょ、あ、朝から何してんのよーッ!」
「ちっ……空気読めねえやつ」
「あっ、こ、これは、ち、違いますよ? 別に私は朝からムラムラしていたわけではなく、か、彼に強引に押し倒されただけですから!」
「おとーさんもセツカママもハダカー!」
叫ぶカミラに、舌打ちする英成、そして英成と二人きりのときは大胆になるものの他人がいる場所では取り繕う刹華と、何も知らないノンキなオルタで、朝から騒がしくなった。
ただ、そのときカミラは……
「ったく、夫婦仲いいのは分かったけど、う~、失礼しました! 私は外に……って……あれ?」
二人の情事に遭遇してしまったことで、気まずくなって部屋から出ようとしたカミラだったが、そこであることに気づいた。
カミラは驚いた様子でベッドに近づき……
「ちょっ、ねえ……エイセイ……セツカ……な、なんであんたたち……」
「「……?」」
「レベルが昨日の夜から上がってるの? 昨日二人は確か、レベル19と18だったでしょ? なんでレベル20と19になってるの?」
「「……え?」」
それは、昨日盗賊やらゴーレムやらを倒してレベルが上がった時から、また胸元の痣が変化して二人のレベルが上がっていたことだった。
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