第43話 祭囃子

「いんや~、エッチってのも気持ちよかったな~、旅の途中でまたやろーね♪ おっと、油断したらさっきの垂れてくる……」

「姫様、な、なな、なんとはしたない! くっ、エイセイ! キサマ、我だけではなく姫様にまで、な、ナカに……姫様! ま、万が一のことがありましたら、その御子様は必ずや我がお守りします。いずれ我も腹違いの子を産み……って、そうではなく!」

「旅の途中でまたですか……異世界に来てまで乱交することになりそうですね……」

「セツカママ、らんこーってなに?」


 アクメルの部屋を後にする一同。

 見張りの女騎士二人は英成の性技に気を失ったため、部屋から出てきたのは少し頬をヤツれさせた英成に、満ち足りた表情で笑うカミラ、顔を真っ赤にしているアクメル、頭抱えてため息の刹華にキョトン顔のオルタ。


「カッカッカ。久々にバカみたいに色んな女とヤッて、少しは疲れたぜ。美味かったけどな♪ にしても……」


 もう満腹だと笑いながら、英成はふと宮殿内の通路を見渡した。


「にしても、まるで美術館みたいだな」

「ですね。さすがは王国の宮殿といったところですね。私の実家よりも広いですね」

「おい、貴様ら。あまりキョロキョロするな」


 本でしか見たことのないような豪華な通路にシャンデリア。

 きっと高そうな壺や絵なんだなと感じながら、英成たちはアクメルに案内されて移動していた。

 ただ、その時だった。


「ん~? なんか騒がしくない?」


 何かを感じ取った様子のカミラがそう尋ねた。

 言われて英成たちもハッとした。


「……ほんとだ。何かあったのか? 妙に城中が慌ただしいじゃねえかよ」

「ですね……多くの人が行き来しているような……」

「ひょっとして……姫様のことを姫様の口から……」

「あっ、そういえばマキナ……」


 廊下を通って広い空間に出ると、慌ただしく城の中を走り回る兵士たちや、女中たちでごった返しになっていた。

 少し城の様子がおかしい。何かあったのかもしれない。

 英成たちは何事かと耳を傾けると……


「……いらっしゃらないのか?」

「はい、大臣。例の書置きだけが残っていましたが……」

「アクメルは?」

「それが見当たらず……」

「なんということだ。主だった将軍や国王様が遠征中だというのに!」

「あの、書置きにはなんと書かれていたのですか?」

「『姫は預かった。もうじき面白いものが始まるから、楽しみにしていろ。真魔王より』だ」

「おのれェ!」


 頭を抱える大臣と呼ばれた少し小太りで白髪の年配の男。

 怒りと悔しさを滲ませる若い兵士。

 泣き顔でオロオロしているメイド服の女中。

 一体、何が起こっているのだろうか。

 そう思ったとき、英成の腕の中に居たオルタが顔を出した。


「おとーさん。おかーさんの匂いが近くにないよ?」

「な、なに? おかーさんってーと、この国の姫か?」

「オルタ、どういうこと?」


 鼻をクンクンとさせるオルタ。

 オルタは向こうの世界で英成を鼻で追いかけてきた事がある。


「んとね、お外の方から」


 オルタはそう言って、城の窓に指さした。カミラも流石に驚いて、慌てて窓の外を見る。


「な、娘よ! あ、いや、姫様の娘になるのでお嬢様に、い、いや、えっと……とにかく、マキナ姫がいないと!? どういうことだ!?」


 慌てて詰め寄るアクメル。オルタの指さすその先は、広大なシルファン王国の城下街。


「ん?」


 そのとき、皆が目を凝らした。


「ちょっ、ちょっと」


 空はどこまでも広がる青い空。

 だが、その空の向こうから、妙な物体が近づいてくるのが見えた。


「おとーさん、見て! お空に何か飛んでる!」


 一応隠れて行動しているわけだというのに、オルタは普通に大声を出した。

 だが、英成はそれを咎めなかった。

 そんなことどうでもいいと思えるものが、目の前に、城に、この国に現れた。


「んなァッ!」


 がしゃーんと豪快にガラスが割れ、同時に城の壁がぶち破られた。

 目の前の壁が無くなったので、外がよく見えるかと思ったら、そうではない。

 その視界の全てを覆うほどの巨大な化物が現れた。


「何の音だァ!」

「敵襲!」


 ゾロゾロと衝撃音に引かれて武装した兵士たちが集まり出す。

 彼らは、驚いて固まっている英成たちに目もくれず、現れた化け物に度肝を抜かれた。


「これは、『ギガ・バードスパイダ』ではないか!」


 羽の生えた巨大な蜘蛛のような化物。

 無数の足で、人間など丸呑みにできるような大きな口。

 ギガ・バードスパイダはゾッとするような奇声を上げ、その巨大な足を振り回す。

 その瞬間、六人いた甲冑兵たちがアッサリとなぎ飛ばされた。


「うわああああん、おとーさん!」

「こ、これは、まさにモンスターですか!?」

「なんだ、こやつら! 貴様ら、ここをどこだと思っている!」

「エイセイ、セツカ、気を付けて! こいつは見た目通りの獰猛な奴! そして、群れで行動する!」


 勇ましくカミラがデンガロンハットをかぶり直して、蜘蛛に構える。

 だが、カミラは今何と言った?


「お、おい。群れ……だと?」

「ええ。ゾロゾロとくるわよ」


 その言葉にゾッとした瞬間、次々と城の壁に体当たりして壁を崩す化物たちが現れた。

 しかも全部が、全長で三メートルはゆうに超えるような化物だ。


「なんだよ……なにがどうなってんだよ!」

「だから、下がってなさいって。私が全部吹き飛ばすわ! エイセイとセツカはオルタを守って! アクメルは私と一緒にこいつらを!」

「承知!」


 カミラが黒棒と共に舞う。

 アクメルが豪快に剣を振り回す。


「雲の果てまでぶっ飛べ! ジャイロスラスト!」

「我が聖剣に刻まれるが良い、虫どもが!」


 黒棒を回転させた突き。

 回転により破壊力を上乗せした突きが、次々とバードスパイダたちの顔面を潰す。

 そして、力強く、それでいて洗練されたアクメルの剣がトドメを刺す。


「おい、何故バードスパイダがこの城を襲撃しているのだ!」

「外壁の守備兵たちは何をしている! 今すぐ殲滅しろ!」

「ん、おい! そこに居るのはアクメルではないか! お前、今までどこに……」

「お、おい、それより、あそこで戦っているのは……」


 これだけ大騒ぎになったのだ。

 最初に来た兵たちに続き、ゾロゾロと武装した兵たちが集い始めた。

 すると到着した彼らは、バードスパイダの群れにも驚いたが、それよりもそこで戦っている一人の女に驚愕していた。


「あ、あの方は! ま、まさか!」

「あの、棒術……あの帽子は! ま、まさか、カ、カミラティ様!」


 するとその時だった。


「カミラ様、後ろ!」


 一人の兵士がカミラの名を叫んだ。

 カミラの右手首が、背後から飛んできた白い糸のようなものでグルグル巻きにされた。


「クモモモ、女が一人粋がってるな」

「モクモクモク、まあそれぐらいはやってもらわないとな」


 実に独特な笑い声と共に、また妙なのが出てきた。

 バードスパイダの群れが壊した壁から、人間大の男たちがゾロゾロ現れた。

 だが、人間には見えない。

 足は二本なのだが、腕が何本もあり、全身が黒い色で染められている。

 蜘蛛みたいな奴らだ。蜘蛛人間の化物か? 

 英成の思考は追いつかなかった。


「あんたたち、亜人の……スパイダ人の階段組織ね!」


 右手をグルグル巻きにされたカミラが男たちに言う。


「おうよ。三階組織『スパイダーメンズ』だ!」


 その名に対して……


「なんてギリギリすぎる名前だ……」

「……もっと捻りを……」


 英成と刹華は頭を抱えてしまう。

 一方で、


「カミラティ様」

「あら、大臣。久しぶりねー」 

「ななな、なぜ、いいい、いつ!」

「でも、再会を懐かしんでる場合じゃなくて、今はこいつらね」


 少し微笑んだあと、カミラの表情が厳しくスパイダ人たちを睨んだ。


「さて、たかが三階が、城に直接攻め込むだなんて、いい度胸してるじゃない」

「姫様の言うとおり、この城に攻め込んで、たたで済むと思うな。逃しはせんぞ」


 突然の強襲でこの城の兵士たちも慌てていたが、今は違う。

 カミラとアクメルを筆頭に、十数人のスパイダ人や、バードスパイダの群れを取り囲み、槍や剣に杖を向けている。

 だが、この状況下でスパイダ人は大笑いした。


「クモモモモ、主力軍やほとんどの将軍たちが遠征して守りが手薄だってのは周知の事実!」

「何を言うか! それでも三階ごときの組織に揺れ動くほどの我が国ではない!」

「クモモ、それもバカ! いくら何でも俺たちだけで一国を襲うわけないだろ!」


 スパイダ人の笑いに、大臣を始めとする兵士たちの表情が強ばる。

 すると、次の瞬間だった。


「ハチチチ! いきなり王手はズリーぞ、スパイダーメンズ!」


 妙な男の声と共に、今度は天井が砕けた。 

 そこには、また別の化け物の群れと、その背に乗る化物人間たちが居た。


「な、なんじゃァ!」

「ちょっと、 『エレファントビー』じゃないの!」

「うえええん、おとーさん!」

「今度はクソデケー蜂の化け物に、蜂のコスプレか?」

「ちょっと、確かあれも三階の組織に居た……」

「そ、そうだ、あれは三階組織の『キラキラビーズ』だ!」

「三階組織? この状況、まさか俺らの世界で言うテロか? モンスターだらけで展開についてけねえし、ツッコめねえ」


 しかも、それで終わりではない。


「ぐわははははは、城の財宝は早い者勝ちだぞ、テメェら!」


 蜂の群れに続いて更に続々と……


「ちょっ、あれは!」

「どういう原理だよ! 魔法か?」 


 ドクロマーク掲げた帆船が、空を飛んで向かって来る。


「海賊……だよなァ、見た感じ。だって、ドクロマークを掲げてるし」


 英成は、暴れるよりも展開についていけずに、完全に唖然としていた。


「ぐわはははは、野郎ども! 好き放題の時間だ!」


 空飛ぶ巨大な海賊船の船首には、豪快に笑う濃い口髭の眼帯男が居た。

 盗賊が出る世界だ。どう見ても海賊の船長だ。


「たたたた、隊長! あれは確か、空飛ぶ魔法海賊団!」

「ああ、間違いない! 四階組織の『ウバチマウ海賊団組織』だ!」

「四階組織まで? 一体、どういうことなのだ! 異なる組織が同時に襲撃してくるなど」


 さっきから置いてきぼりだが、いくら英成でもこれが異常事態だというのは分かる。

 そして、現れている連中も異常だ。


「ってか、こいつら全員目がかなりイッてるが、麻薬でもやってんのか?」

「えっと……私もいきなりすぎて……」

「おとーさん、セツカママ……なんかこわい……」

「な、なんなのだ、こやつらは……」

「うっそ~、なんなのよいきなり……」


 不良の英成でも思う。こいつら、イカれているのではと。


「ぐわはははは」

「クモモモモ、おいおいおい、これだけだと思うなよな」

「ハチチ、俺らに続いてまだまだ続々と。そして、今頃、街では大変なことになってるぜ」

「そう、これが真魔王の主催する祭り!」


 イカれているのか、それとも正常なのかは分からない。

 だが、この言葉の意味を、英成たちはすぐに知ることになる。 



――あとがき――

たまには更新します。はよ上品な話書きたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る