第44話 驚きの連続
「た、大変です! 外の守備兵、見張りの者たちなどが全員同時にやられました!」
「ど、同時にだと?」
「はい。その……異なる階段組織が……示し合わせたかのように街に……」
「なに?」
「街が……街で多くの階段組織が徒党を組んで大暴れしています!」
この国の者たちは、全てが凍りついた。
今現在、シルファン王国を被っている、悪夢のような現実に。
「同時多発テロかよ。なんつうタイミングで……ついてねえぜ」
「なんとまあ……日本では無縁でしたからね……少し……緊張してきましたね」
事実を知って誰もが口を閉ざす中、英成と刹華は呟いた。
周りにいる兵隊たちや、カミラの表情からただ事じゃないのは分かる。
「おとーさん……セツカママ……だいじょうぶ?」
何が起こっているかまったく分かっていない不安そうなオルタを刹華が優しく抱き寄せる。
そんな中で化物たちが品なく笑う。
「あんたたち、真魔王にそそのかされて配下についたっての?」
「クモモ? 真魔王の名の下に? 少し違う。真魔王が主催者であって、俺らは対等! 同じ目的、同じ祭りに出る参加者たちだ!」
「対等?」
「ガハハハハハハ、外を見ろォ!」
化物たちが外を指し示すと、国中から燃え上がる炎や城下に響く悲鳴が、現実を語っていた。
「ハチチチ、参加しているのは俺らだけじゃねえ! アンチョクチーム! テキトウ団! イタズラーズ! いや、他にも三階四階級の階段組織たちが同時に来てる!」
「クモモ、俺はゾクゾクが止まらねえ。これまで五階より下の組織は下段組織と見下されていたが、今の徒党を組んだ俺たちの勢力は五階を超えている! まさに、革命だよ!」
「ガハハハ、シルファン王国は我らの革命伝の礎となるのだ!」
これはテロ。だが、彼らからすれば祭りの感覚だろう。
祭りの熱気に毒されているのだろう。だからこそ、ここまで馬鹿が出来るのだ。
大臣たちも兵士たちも呆れているのか誰もが言葉を失っていた。
この女以外は……
「ジャイロインパクト!」
黒棒の回転と同時に繰り出した突き。その瞬間、階段組織たちの笑みが止まった。
「あんたらみたいのが居るから、野望を抱く階段組織はみんな肩身が狭くなるのよ」
英成と刹華は目を疑った。いつも品のない笑いをしているカミラが怒っていた。
「階段組織は狂った連中の掃き溜めじゃない。頂点を目指す者たちが歩む道よ」
カミラの一撃が一瞬で流れを変えた。
調子に乗っていた階段組織たちも、尻込みしている。
だから、英成もその一瞬を見逃さない。
「握魔力ストマック!」
「ぬぬ、きさまぐわああああああああああああ!」
「ボス! て、なんだ、ぐ、ひ!?」
「天空一本背負い!」
英成は、スパイダーメンズという組織のボスまで駆け、腹を掴んで捻りまくった。
ハッとなる側近の者を、刹華は瞬時に懐に入り込んで背負い投げして床に亀裂が走って陥没するほど勢いよく叩きつけた。
「何だか知らんが、バカの演説は聞き飽きた。着ぐるみ共はもう死んでろ」
「正義の定義は曖昧なれど、悪いことする人たちは悪いというのは分かりますからねぇ」
英成と刹華、二人が急に暴れたことで、集って調子に乗って笑っていた連中の表情が一気に強張った。
「アクメルはやはりこの世界じゃ相当な力だったんだな……あいつの処女膜と比べりゃ、全部柔らかいぜ♪」
「やるじゃない、エイセイ!」
「ちょ、おい、貴様! そ、そこで、わ、私のアソコをなぜ引き合いに出す!?」
「落ち着いてください、アクメルさん。英成くんは下ネタを言わないと落ち着かない男の子なので」
「ドクソファンタジーの天然素材共が。握って潰して砕いてやるよ!」
「そして私はふきとばーす!」
「ええい、姫様やエイセイに後れは取らん! 今こそ我が力を見せてくれる!」
「私もレベルアップした力を溜めさせてもらいましょう!」
状況全てを把握できたわけではないが、ここは暴れても構わない場面だろうと判断し、英成も刹華も動くことにした。
そして、遅れてなるものかとカミラもアクメルも構えて兵たちを鼓舞する。
「とにかく今はこいつらよ! あなたたち、ちゃんと分かっているの?」
「今、この国の危機である。今こそ我らの存在意義を示すとき! 全兵、抜刀!!」
この国に起こっている惨状を忘れるな。
カミラとアクメルのその言葉で我に返った兵士たちが、城へと強襲した階段組織に反撃に出る。
「陣形を整えろ!」
「負傷者は後ろに回せ! 余分な兵は街へ出て、早急に事態の鎮圧に当たれ!」
「急いで各配置に付いている部隊と連絡を取り合え!」
この国を守れ。使命を思い出した兵たちが、ようやく存在感を示し出した。
「ほーう、みんながんばるねー」
「さすがにここら辺はプロの軍人ということですね。」
そう、鍛え抜かれた精兵である王国の兵士たちが一たび動けば、一気に形成は変わる。
「ち、畜生! 離せェ」
階段組織も奇襲には成功したが、有象無象。兵士達に次々とひれ伏していく。
「とりあえず、城内は問題ありませんな、カミラティ様。アクメル様」
「まあ、これぐらいで国が傾いたら話にならないでしょ」
「ところでカミラティ様。そちらの二人……いえ、子供も含めて三人は何者なのでしょうか?」
「私の仲間。エイセイとセツカ、そしてオルタ!」
「なな、仲間って、まさかカミラティ様、階段組織なんぞを!」
大臣が急に狼狽えた。「まさか」という大臣の思いに対し、カミラはアッサリと頷いた。
「うん。だって城を出る時に言ったじゃない? 私は階段組織になるって」
「なりません! 国王様と王妃がこのことを知ればなんと思われるか!」
「なんとも思わないんじゃない?」
「そんなはずありません! 今すぐそのようなことをやめ、城にお戻りくだされ! このようなどこの誰とも知らぬ者たちと関わっても――――」
大臣や臣下たちの慌てた表情に、英成も「だよな」と苦笑しながら、隣の刹華を見た。
「……お前も結構言われたよな? 親に」
「ええ。ちょうどよかったので、私もこれまで言いたかったことを全部叫んで喧嘩してスッキリしましたけどね」
「カカカ、お嬢様がそうなんだし、国のお姫様だったらそりゃ言われるよな~」
「ええ」
カミラの素性は国のお姫様。
そこに素性も知れない、しかも英成自身も自分がお世辞にも真面目な好青年な見た目じゃないことぐらい分かっている。
刹華はともかく、英成のようなチンピラのような男が傍にいれば、カミラの臣下たちが慌てるのも無理はない。
だが、カミラはそんな中でニタリと笑みを浮かべながら英成の肩を組んで……
「関わるも何も、もう手遅れだし~。一緒に階段組織作ることになったし、何よりも私~、もうこいつとエッチだってしちゃったもんね~♥」
「ぶほっ!?」
「あら」
「「「「「…………は?」」」」」
大胆な爆弾発言。英成も思わず吹き出し、刹華も驚き、そして臣下たちはポカン顔。
「交換条件にね~。いや~、こいつってば人の身体をペロペロチュパチュパするは、赤ちゃんみたいに甘えるわ、だけど責めるときは激しいわでも~、すごかったんだ♥ つまり、ここで私が階段組織作らないと、私の貴重な処女膜が無駄喪失になるってわけ!」
「「「「「な、な……え、ええええええええええええ!!!???」」」」」
お姫様にあるまじき大胆な発言。
「ひ、姫様、な、なんということを! おい、貴様、ほ、本当に姫様の……」
「ぇ……っと、ごちそーさま。うまかったぜ♪ でも、最終的に喰われたのは俺の方な気もするが……」
「き、貴様嗚呼ああああああ! 打ち首にしてくれるぅ! 姫様を、き、キズモノにするなど……」
一瞬聞き間違いなのかとポカンとした臣下や他の兵たちも絶叫し、目を血走らせる。
「お待ちください、大臣! お前たちも落ち着け!」
「アクメル! お、お前も何を……姫様が穢され、さ、さらに、その御身に何かあれば……」
「エイセイは確かにスケベではあるが、え、エッチは上手なので、姫様の身体に傷や無理などはないはずだ。そ、それに、姫様も私同様にアフピルという避妊薬を飲んでおりますので、おそらく大丈夫かと……」
「そ、そういう問題では……ん? 私同様に……避妊薬を……」
「あ、し、しまぅ!?」
英成を庇おうとするも、思わぬ墓穴を掘ってしまうアクメルに、大臣や兵たちの表情は更に蒼白してしまう。
顔を真っ赤にして狼狽えてしまうアクメル。
本来は鉄仮面のような強い女騎士であるアクメルしか知らない彼らにとっては、未だかつて見たことのないものであった。
だが、その時だった。
「大変です! マキナ姫様を城下の広場にて発見致しました!」
僅かな沈黙を破るように、息を切らせた兵が駆けつけてきた。
「真魔王によって捕らえられ、拘束されております! 今すぐに援軍を!」
「「「「「ッッ!!??」」」」」
そう、事態はそんなこと……と、本来は決して軽いものではないが、それでも王国の危機という緊急事態である。
だが、そんな中誰よりも早く……
「ん? おい……刹華……アクメル……カミラはどこだ?」
「え?」
「「「「「……え?」」」」」
今の今まで、英成と肩を組んでいたカミラが、いつの間にかいなくなっていた。
そのことに気づき、皆がキョロキョロ見渡す中……
「カミラ、すごい怖い顔してピューって窓から出てっちゃったよ?」
「「「「「「な……っ!?」」」」」
オルタがそう言った瞬間、また皆が固まった。
妹のピンチを聞き、カミラは誰よりも早く駆けだしていたのだった。
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