第47話 再会
「あああ、神よ……どうか……どうか!」
「カ、カミラさ……ひ、いやあああ! やめて、離して!」
「あっ、レミ! ファソラ! やめて、娘たちに手を出さないで!」
カミラの登場で一度は芽生えた希望。だが、それは無残にも摘み取られた。
「ひははは、最高の雰囲気だね。オイラうれしいよ」
そして魔王は告げる。
「ちゃんと聞きな、カスどもォ! 悪を尽くせ!」
「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」」
たった一言で、集った階段組織たちの士気が最高に達し、悪意がよみがえった。
「ひはっ、ひははは、あー最高! 意外と罪悪感ってねーもんだな!」
そして魔王は笑い狂った。
「舐れ! 嬲れ! 世界を血に染めろ! クスリもガンガン決めて、踊れ! 暴力も快楽も金も女も構わねえ! これがオイラの居場所! オイラの世界! オイラの時代だ!」
ただ、民衆は涙を流すだけだった。ただ、悲鳴を上げて逃げ惑うだけだった。
「ああ……どうか……勇者様……勇者様……」
そして、祈るだけだった。自分たちを救ってくれと。
「……ざっけんじゃないわよ!」
既に両足撃ち抜かれて立つことは不可能。その拳は既に握ることも不可能のはず。
だが、彼女は殴った。
「へへ、ざまみろ」
笑い狂うゆえに隙だらけのノヴィナーガを、カミラは渾身の力で殴った。
ノヴィナーガは殴られた頬に手を当てると、血が滲み出ていた。
「ひはは……そんな穴だらけで立ち上がって殴るとは」
「へん、残念だったわね。ついさっき……処女喪失で大事な穴があいたから、いまさら穴が増えるぐらいなんてことないわ!」
だが、その一撃で全てを出し尽くしたのか、カミラの全身は再び崩れ落ちる。
「ひはは、その反逆精神は驚いた。悪友を思い出したぐらいにな」
そしてノヴィナーガは武器を、倒れたカミラの額に付ける。
「敬意を込めて、ひと思いに命を断ってやろう。バイバイちゃーん」
ノヴィナーガは躊躇わない。
カミラの命を今まさに摘み取ろうとした……その時だった!
「ん?」
大地が唸った。
魔王も階段組織も騎士も民衆も時が止まった。
何かが近づいてくる。猛烈な勢いで、荒々しく鳴きながら。
誰もがその音に首を傾げた。
だが、ノヴィナーガだけは少し様子が違う。
「おいおい……この……独特のうるせえ排気音は……」
そして、ノヴィナーガが目を見開く。
「バカな! あいつの単車と同じ……!?」
誰もが初めて見た。狂った魔王が初めて人と同じように激しく動揺しだした。
一体、この音は何か? 近づいてくる物の正体を魔王は知っているのか?
だが、魔王だけでなく、近づいてくる物の正体を知っているものはもう一人いた。
「ったく……遅いじゃない……」
倒れたまま、微かに動く唇で呟くカミラ。その表情には笑みが浮かんでいた。
「オルタァ! この景色を見ておけよ。フルスロットルで駆け抜ける、俺の世界だ!」
「うん!」
その男は、銀の荒馬に跨り、爆走してきた。
「くくくく、ふははははははははははははは! こいつは幻か? まさかこんなところでテメェに会えるとはよ! もう、幻でもかまわねえ! とにかくブチ抜く!」
全身を緑色に輝く光を纏った男。その腕の間には幼い幼女が居る。
そのケツには……
「あれが魔王? いえ、魔王は魔王ですが……どうも見たことある魔王といいますか……」
「アレが魔王! っ、マキナ姫! カミラティ姫!? お、おのれええええええ、許さんッ!」
美しい黒髪の女と、憤怒に満ちた女騎士。
四人が一緒になって……
「ノブゥッ!」
彼らは全力全開で、魔王に正面から突っ込んだ。
そのとき、黒髪の女のスキルが発動。
触れている者にレベルをプラスするスキル。
その合計のレベルは……
「……エ……エイ……ちゃん……って、これ当たったら死ぬじゃんッ!!」
魔王にとっても予想外の事態。直前まで呆けていただが、迫りくる死に我に返って慌ててその場から飛び退いた。
「ちっ、死ななかったか……黙って死んでりゃいいのによぉ! なぁ、ノブぅ!」
「お、あ……お……おぉ……」
魔王も咄嗟だった。
余裕なく、地面に飛び退いて転がって避けた。
仰々しい魔王の鎧が土埃に汚れる様を民衆や階段組織たちに見せてしまった。
そして、そんな魔王を、男は邪悪な笑みを浮かべながら見下ろした。
「な、なんだ、彼は……」
「おい、アクメル様だ! アクメル様がいるぞ!」
「あ、お兄ちゃん! セツカさん!」
「エイセイくん! 来てくれたんだ……エイセイくんが!」
国が揺れ動く。悪意と絶望の全てを粉々に砕いた、荒々しい男と女の登場。
彼らを知る者たちの表情が再び希望に染まる。
「彼は…………」
捕らわれたマキナも目を見開く。
「あんたたち……最高にイカした登場じゃない」
カミラは歯を見せて笑う。
現れた、英成、刹華、アクメル、そしてオルタ。
「カミラ、お前、生きてるか!? むしろ、よく生きてたな!?」
「え、ええ、なんとか……っ……」
「カミラティ様! い、いま、治癒魔法で……ぐっ、にしてもこの有様は……」
「随分とまぁ……そしてこれを作り出した魔王というのが……まさか、彼とは……」
状況を見渡す英成たち。あまりの惨状に顔が歪む。
「お兄ちゃん!」
「エイセイくん!」
「おう、レミ姉さん! ファソラ! ……ったく、どいつもこいつも、俺が抱いた俺の女たちに何してやがらぁ!」
英成が怒りに任せて吼える。
突如現れたその男の怒声に、階段組織たちも手を止めて呆けてしまう。
「にしても……あれから……何がどうなったのかは、もはや聞かねえ。ただ一つだけ言わせろ」
そして、英成は改めて魔王を見下ろして……
「死ぬほど殺したいぐらい会いたかったぜ! ノブゥ!」
「エイちゃん……本物のエイちゃんか! なぜここ……に? それに、確かエイちゃんのセフレの別嬪さんも!」
魔王ノヴィナーガ……本名:王堕延永。
英成と同じ四王者の一人は混乱している。
「どうでもいいだろ、今すぐ死ね!」
その一言に、ノヴィナーガはただ笑った。
「ひはははは、なんちゅうことだよ! 本物のエイちゃんか! 何でこの世界に? どうやって来た! ってか、本当に久しぶりだよ! ええッ!」
「フハハハ、随分と笑える格好になったじゃねえの。マントに鎧だ? あの街の不良が見たら全員笑うぜ。魔王ノブがオタクになったってな」
「その年下のくせに生意気な口調は紛れも無くエイちゃん! やべ、泣けてきた!」
「おお、泣け泣け。もっと泣くほど殴ってやるからよ」
「ひははははははは、いいよエイちゃん。マジ最高!」
こうして、二人の悪友は再会したのだった
段階飛ばしの異世界転移ヤンキーと乙女たち~【♥1回ごと】にお互いLv1アップして異世界を最下層から駆け上がる アニッキーブラッザー @dk19860827
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