第6話

 結論からいうと、ユウトの心配は杞憂きゆうに終わった。


 純粋に女子からモテたのである。

 休み時間になると大勢の女子がやってきて、入れ替わり立ち替わり質問してくるのだが、その中には一度もユウトと話したことがない別クラスの女子もいた。


「はい、これあげる」


 フレンドリーな子がアメ玉やチョコを分けてくれる。

 慣れない好意が、やけに気恥ずかしい。


「ショウマくんとは一卵性双生児なの? 二卵性双生児なの?」

「いちおう、一卵性かな」

「またショウマくんと会う予定はある?」

「どうだろう……遊んでみたいけれども、ショウマは多忙だから」

「お互いのことは何て呼び合っているの?」

「俺はショウマって呼び捨てだよ。向こうはお兄ちゃんと呼んでくる」


 当たり前の返しをしたつもりが、女子たちが色めき立つ。

 お兄ちゃんだって! ステキ! と。


 そんなに特殊なことだろうか。

 不思議に思ったユウトは理由を問うてみた。


「普通さ、双子といったら仲が悪いでしょう」

「うんうん、うちの弟らも双子だけど、家だと喧嘩ばっかりなのよね」

「それってさ〜、周りが2人を比較した結果じゃない?」

「そうだよ。双子なのに優劣を押し付けるとか最悪」


 彼女らの実体験によると、双子はもれなく仲が険悪になる運命にあるそうだ。

 片割れというやつは、終生のライバルで、負けたくない相手で、椅子取りゲームの敵なのだと。


「俺らの場合、別々に育ってきたから。ショウマが存在してくれただけで感謝っていうか。死んだはずの弟が実は生きていました、みたいな感覚なんだよ。もちろん、会う前は勇気がいったけれども」

「いいな〜。ショウマくんと家族なんて〜。うらやましい」


 それを聞いていた別の女子がポンと手を鳴らす。


「もし将来、早瀬くんが誰かと結婚したら、その奥さんはショウマくんの義理の妹になるってことでしょう。結婚式でもショウマくんから直接祝ってもらえるよね」

「その発想はなかったな」


 結婚なんて臆面おくめんもなく口にできる高校生がいることに、ちょっぴり度肝を抜かれた。


「それに早瀬くん、よく見たら格好いいし」

「はぁ⁉︎」


 ユウトが驚いたのは、美少女の顔が近くにあったからでも、いきなり頬に触れられたからでもない。

 格好いい、と生まれて初めてめられたから。


「俺が格好いいわけないだろう」

「格好いいに決まっているじゃん!」

「ありえない。それだけは認めかねる」

「いいや!」


 眼前に指を突きつけられ、うっ、とカエルが潰れるような声を出す。


「だって水谷ショウマの一卵性双生児なんだよ。小学生でも分かるロジックだって。イケメン遺伝子だよ」

「まあ、たしかに。その点は否定できない」


 心の底を引っかく感触があったが、場の空気を乱すのもアレだと思い、また同調してしまう。


「もしさ、私たちの中の誰か1人と付き合うなら誰がいい?」


 しれっと飛び出した爆弾発言に、ユウトは目を白黒させた。


「そんなの決められない。ていうか、質問の意図は?」

「双子だから、異性の好みが似ていると思って。ショウマくんの眼鏡にかなうのはどの子かなって」

「びっくりした〜。俺を困らせて遊ぶなよ〜」


 やれやれ顔のユウトを、明るい笑い声が包んだ。


「困った顔、ショウマくんに似てかわいい!」

「か……かわいい⁉︎」


 また爆笑が起こる。


 完全に玩具おもちゃにされている。

 でも、不思議と悪い気はしない。

 女子から注目されるのは楽しい時間なのだと、ユウトは生まれて初めて理解した気がした。


「それで? 私たちの中の誰か1人と付き合うなら誰がいい?」

「その質問は勘弁してくれよ。そもそも俺はショウマの代弁者じゃない。あと、誰か1人を選ぶってことは、他の4人を選ばなかったということになる」

「早瀬くん、優しい!」


 俺が優しい?

 決められない男じゃなくて?

 どうやら顔が人気アイドルに似ていると、あらゆる発言を好意的に受け取ってもらえるようだ。


 もしかしたら……。

 マミだって、ユウトのことを格好いいと思ってくれるだろうか。


 同調圧力は女性の方が強い、と何かの記事で読んだことがある。

 みんながユウトを持ち上げまくったら、マミの心もよろける可能性はある。


 いや、ないな。

 チャイムが鳴ると同時におかしな妄想を切り捨てた。


「やっぱり早瀬くん、格好いいな〜。あと、おもしろい! 他の誰かと付き合っちゃう前に、私が彼女ポジションをもらっちゃおうかな〜」

「あ〜! ずる〜い!」


 女子たちが去っていく中、ガラス窓に映っている自分の顔を、ユウトは複雑な想いで見つめた。

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