第32話 Girl's Side
人生山あり谷あり、という教訓じみた言葉がある。
幼馴染のマミからすると、ユウトの人生における中学3年間は、谷というより暗黒期のように思えた。
ケチのつき始めは部活選びだった。
入学早々やってくる運命の選択というやつで、これを一歩間違えると3年間を台無しにしかねない、地雷のようなイベントである。
マミは無難に吹奏楽部を選んでおいた。
友達に誘われたのもあるが、先輩たちのモチベーションが高そうなのも一因だった。
目指せ! 金賞!
わかりやすい目標があると、青春っぽくて楽しい。
吹奏楽部は練習がキツいから大変、という話も聞いていたが、特技を1個くらい増やしたい気持ちもあった。
ユウトがバスケ部を選んだと知った時は悪い予感しかしなかった。
当時、バスケットを題材にした少年漫画がヒットしており、20年に1回くらいのバスケブームに沸いていた。
ユウト同様、安易な気持ちでバスケを始める子が多かったのである。
新入部員は驚異の36人。
各クラスに3人か4人はバスケ部員がいる計算だった。
野心的な子ならば1年の時からレギュラー争いを意識するだろう。
過当競争の世界で、ハングリー精神に欠けるユウトが馴染めるとは、とてもじゃないが思えなかった。
ユウトと同じクラスにいれば『考え直した方がいいんじゃ……』と忠告しただろう。
けっきょく、卒業までの3年間、ユウトとは別々のクラスで過ごした。
マミの予感はすぐに的中した。
夏休みに入る直前、ユウトは脚を怪我したのである。
バスケ部は毎年1泊2日の夏合宿をしているのだけれども、ボール拾いすらできないユウトは、療養のため唯一参加メンバーから外された。
有り体にいうと、落ちこぼれた。
マミがユウトの立場ならば……。
顧問に頭を下げて、見学でいいから連れていってもらっただろう。
先輩のテクニックを見て学ぶとか、動けなくても成長の機会はたくさん転がっていたはずだ。
その手の熱意がユウトは根本的に欠けていた。
怪我している自分が合宿に参加しちゃうと周りのお荷物になる、と考える側の人間なのだ。
良くいえば、お人好し。
悪くいえば、他人の顔色を気にしすぎ。
初めからユウトは集団スポーツに向いてなかった。
流行に飛びつくと失敗しやすい好例といえる。
具体的にユウトがいつバスケ部を辞めたのかは知らない。
2年生に上がったタイミングでは、帰宅部の生徒としてカウントされていた。
マミの吹奏楽部だって、最初40人いた新入部員は、1年後に36人まで減っていた。
『遊ぶ時間が足りない!』
『夏休みも冬休みも練習なんて嫌だ!』
中学生が部活をサボる理由なんてその程度のものだ。
吹奏楽部の場合、『高い楽器を買っちゃったし、途中で辞めたら親に叱られる!』という理由がなければ、最後まで何人続けていたか。
「うちのバスケ部、あと2つ勝ったら全国だって!」
「気合いを入れて応援しないと!」
メンバーの中にユウトの名前がないかと思うと、クラリネットを演奏するマミのやる気も半減だった。
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