第31話 Girl's Side

 突然の依頼にもかかわらず、ユウトは快く引き受けてくれた。


 一番ありそうな疑問。

 なぜマミがそれを知りたいのかすら聞いてこなかった。


「どの女子がどのくらい人気なのか、俺が調べたらいいんだな?」

「後日、お礼するから。お願い。ユウトにしか頼めないの」

「わかった! 終わったらマミに声をかけるよ」


 それから数日、メモ帳を片手にうろうろするユウトの姿が目についた。

 男子全員にインタビューするらしい。


 そこまで本気にならなくてもいいのに……。

 自分が依頼したのも忘れて、『お前はヒマ人か⁉︎』とマミは内心で突っ込んでしまった。


 人からのお願いに対して、ユウトは手を抜かない。

 先生はそんなユウトの美徳を褒めていたけれども、得することより損することの方が多い印象だった。


 約束から3日後、ユウトは集計表をくれた。


「待たせたな。こんな感じでいいか?」

「うわぁ〜、すごい力作ね」


 のちに『早瀬ノート』として女子間で重宝されることになる紙切れには、男子1人あたりの持ち点を15点とし、


『1位……5点』

『2位……4点』

『3位……3点』

『4位……2点』

『5位……1点』


 で投票した結果の女子ランキングができあがっていた。


 意外なことに、ポイントは散っていた。

 優しいユウトのことだから、多少なりとも鉛筆をめたのかもしれない。


 マミの名前は上から3番目にあった。


 うわっ⁉︎ 思ったよりも上⁉︎

 という感情を隠すのには苦労した。


 自慢じゃないが、5位から7位にはランクインする自信があった。

 委員長という立場上、男子とも普通に話すし、場合によっては手助けするからだ。

 ランキング表を見ても、男子とたくさん話す子が上位なのは一目瞭然だった。


「ちょっと待って。合計すると、全員分の点数に届かない」

「そりゃ、無回答のやつもいるから。第3希望までしか答えないやつとか」

「ふ〜ん……」


 マミが上からのぞき込むと、ユウトは露骨に目をそらす。

 なんか怪しい。


「ユウトは誰に投票したの?」

「えっ⁉︎ 教えたくないよ!」

「いいから、教えなさいよ」

「マミが好きなやつを教えてくれたら、俺も教える。こういうのって、交換条件だろう」

「私の好きな人はいない」

「じゃあ、俺もいない」

「じゃあ、て何よ?」

「悪いかよ?」

「別に……」


 何をムキになっているんだ。

 バカか、私は。


 ユウトの頭に恋愛の2文字があるのか怪しい、なんて決めつけたのは自分じゃないか。


「でも、点数をいじくったでしょう。上位の子から下位の子へ少しずつ。こういうランキングって、1位と2位が点数をごっそり持っていくものでしょう」

「そんなことしない!」

「大声を出すってことは図星ね」

「くっ……⁉︎」


 ユウトは切なそうに目を伏せる。


「だって、その紙、女子たちが見るんだろう。俺のせいで誰かが傷つくのは嫌なんだ」


 優しい気持ちにあてられた瞬間、ちょっとだけユウトのことが好きになった。

 誰かの気持ちを想像できるユウトは、優しい男の子だった。

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