第30話 Girl's Side

 最初こそ近かったユウトとの距離も、小学5年生を迎えるあたりから次第に遠くなっていった。


 男子と女子が一緒に行動していると、『あいつら、デキてんじゃないか』という噂が立ちやすいのも原因だった。


 いわゆる思春期というやつだ。

 実際、周りには早熟な子もいて、男女としての交際をスタートさせていた。


「マミって好きな男子いるの?」

「えっ?」


 マミは食べようとしたアメ玉を落としてしまった。

 ここは友達の家で、テーブルの上には色とりどりの駄菓子が並んでいる。


「いないけれども……。たとえば?」

「え〜と……」


 人気者の名前がいくつか出てくる。

 大半はマミの予想通りであり、中には隣のクラスの男子も含まれていた。


 スポーツしていれば女子からモテるという単純な話じゃなくて、意地悪してこないとか、テストの点数が悪くないとか、わりと総合的に判断していた。


 悪ぶっているところが格好いい。

 そういう意見は少数派なのだ。


 ちなみに、ユウトの名前は圏外だった。

 TOP5から漏れているだけで、6番目が7番目には入っていたと思う。

 ユウトは男子にも女子にも親切だった。


「ねぇねぇ、マミってユウトと仲がいいじゃん」

「う〜ん……幼稚園が一緒だったから……」

「男子のあいだでは、どの女子が人気なのか、ちょっと訊いてきてよ」

「ユウトはそんな情報、持っていないと思うけどな〜」

「恋バナしない子なんていないよ」


 どうだろうか……。

 ユウトは仲良しの4人グループといつも行動していて、出てくる話題といえば、昨日レアカードを引いたとか、ゲームの新作が楽しみとか、最近の〇〇(漫画のタイトル)はつまらない、といった具合だ。

 頭に恋愛の2文字があるのか怪しい。


「でも、マミはいいな〜。男子から人気ありそうだし」

「どうしてそう思うの?」

「しっかり者だから」


 友達が真顔でいうものだから、本気で吹き出してしまった。

 そんなマミを友達はポカポカと叩いてくる。


「ごめん、ごめん」

「本気でそう思ったんだもん。私もマミみたいに背が高くて髪が長かったらな〜」

「はいはい……」


 その場は笑顔で取りつくろったけれども、マミは知っている。


 女子はドジっ子な方がモテる。

 俺がフォローしてあげないと、と男心をくすぐるからだ。


 ガードの硬い女はダメ。

 男の精神的ハードルが上がるから。


 マミのような委員長タイプは男のプライドをくじく場合もある。

 これと似たような会話を、母の観ているドラマの主人公がしていた。


 男は兵士で、女は城。

 あまりに鉄壁だと、兵士は攻めてこない。


「まあ、ユウトに訊いてみるよ。あいつ、嘘はつかない性格だから、知っていることは全部教えてくれると思う。でも、あんまり期待しないでよね」

「本当⁉︎ じゃあね、もう1個追加で訊いてきてほしいことがあるんだけれども、いいかな⁉︎」


 マミは苦笑いしつつ、二つ返事でOKしておいた。

 友達の相談に乗るのは、もっとも楽しい時間の1つだった。

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