第9話
自宅まで帰ってきたユウトは、まっすぐ自分の部屋へ向かった。
カバンを床に置くなり、制服のままベッドに倒れ込む。
スマホで調べているのは、ネットの質問板だ。
過去ログが残っており、世の中に存在する悩みの99%は何らかのヒントが手に入る。
『気になっている人から、弟みたいな存在といわれました。これって脈なしですか?』
タイムリーな質問が目についた。
回答その1
『脈なし! 以上!』
回答その2
『恋愛対象外でしょう。弟ですよ。結婚できますか? そういうことです。自明の理です』
回答その3
『逆のパターンを想像してください。あなたは妹みたいな存在と恋愛できますか? そういうシスコンorブラコン性癖の持ち主なら、可能性はゼロじゃないです。でも、結婚してからも、
ベストアンサーに選ばれているのは回答その3。
質問の投稿日は5年前となっている。
この質問主はどうしたのだろうか?
当たって砕けたのか?
それとも諦めたのか?
「だよな〜。弟って死ぬまで弟だしな〜」
マミは恋に飢えているタイプじゃないから、明日にユウトが告白しても、
『ユウトとは今の距離感がいい。申し訳ないけれども、付き合うとか考えられない』
とか言い出しそう。
フラれたら気まずいし、これから大学受験を意識する時期だし、せめて進路が決まるまで待つべきではないか。
別の質問にもアクセスしてみる。
『女の子から誕生日プレゼントをもらいました。相手はアルバイトの同僚で、シフトは別々です(シフト交代の時、ちょこっと会話します)。誕生日プレゼントといっても金額的には1,000円以内です。これって脈ありでしょうか?』
回答その1
『脈ありでしょう』
回答その2
『気になるの? だったら、デートに誘っちゃいなよ。行動しないと変わらないよ』
回答その3
『大学生かな。100円以下のプレゼントなら脈なしだけど、1,000円相当なら脈ありでしょう。異性に誕生日プレゼントを渡すの、けっこう勇気がいるよ』
こっちもベストアンサーに選ばれているのは回答その3。
文章量が多ければ、選出されやすいのか。
背中を押してもらえたような気がして、抱き枕にしがみついたままゴロゴロした。
なんか、痛い。
彼女が欲しいくせに、危険な橋は渡りたくないという、矛盾した気持ちがユウトを左右に引き裂こうとする。
痛い、痛い、痛い。
本当に痛いと思ったら、ベッドから落ちていた。
「そうだ」
ショウマ宛にメッセージを作文してみる。
『ショウマって学校でもモテたりする?』
これで送信。
『どうしたの、急に?』
『いや、ショウマならモテすぎて困ったりするのかな、て。告白されて戸惑うことも多いのかな』
『まあね。死ぬほどモテるからね』
やっぱりか。
このイケメン真打め。
『うそうそ。モテないよ。そもそも芸能科だから、周りは華がある子ばかりだし、芸能プロダクションに入っている人は恋愛禁止だし。学校の女子とおしゃべりすることはあっても、周囲の誤解を招かないよう、2人きりで行動するのは避けている。これが身を守るためのコツ』
そっか。
ショウマは仕事柄、恋愛できない。
そんな当たり前を失念していた。
『もしかして、お兄ちゃん、告白したい相手でもいるの?』
『う〜ん、気になる子ならいる』
『応援している。アドバイスできないのが悔しいけれども』
『ありがとう』
ショウマも万能ではないと分かって、どこかホッとした。
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