第14話

 やってきたのは駅前のゲーセン。

 この街では1番大きなアミューズメント施設だ。


 1階と2階がUFOキャッチャーや大型遊技機。

 3階と4階が格ゲーとかのオンライン対戦ゲーム。

 5階と6階が音ゲーやプリクラマシンとなっており、イベント開催日なんか、ざわざわ県外から人が集まるくらい。


 平日なのに人は多い。

 中にはカップルの姿も。

 自分たちもああ見えるのかな、と想像すると、心がうわついた。


 リンネは最初カラオケを希望していた。

 ショウマの楽曲を歌わされるのが目に見えていたので、


『喉が痛い俺を殺す気かよ』


 といってゲーセンで妥協してもらった経緯がある。


「早瀬くんって、ゲームは得意?」

「男子平均だよ」

「なにそれ」


 UFOキャッチャーの前で足を止める。


「チョコマシュマロだ〜! おいしそう!」

「おいしいのは認めるが、スーパーで買った方が安くないか?」

「大きな箱に入っているからテンションが上がるのよ。スーパーのは小分け売りでしょう」

「たしかに。大きい箱だと、ロマンはある」


 リンネは不服そうに目を細めた。


「箱が欲しけりゃ、ネット通販で買えとか思った?」

「申し訳ないけど、思ってしまった。あと1点補足しておくと……」


 ユウトは筐体きょうたいのガラスにタッチする。


「チョコマシュマロの賞味期限を見なよ。まだ新しい。こういうお菓子は期限切れが近くなると、イージーに獲得できるよう、お店側が設定を甘くしたりするんだ。廃棄するのにお金がかかるから」

「うわ〜。早瀬くん、つまんな〜。合理主義者〜」

「俺の知り合いが合理主義者でね」


 怒るかな? と思ったが、リンネはくっくと笑う。


「君って、変な高校生だよね」

「舞原さんにだけは指摘されたくないね」


 口論するためにゲーセンまで足を運んだわけじゃないので、さっそく遊戯することに。


 ターゲットに選んだのは小さなぬいぐるみのキーホルダー。

 500円くらいあれば獲得できそうな台。


「交互にプレイして、どっちが先にゲットできるか勝負しましょう」

「ああ、いいぜ」


 ジャンケンで先攻後攻を決めた。

 勝ったユウトがまず100円玉を投入する。


「負けた方は罰ゲームね。内容は……」

「おい、ペナルティ付きかよ」


 もしユウトが負けた場合、水谷ショウマのモノマネをやることが決まった。


「舞原さんが負けたら?」

「キスしてあげる」

「キス⁉︎」


 周りに人がいるのに、恥ずかしいセリフが出てくるから、ボタン操作をミスってしまう。

 しかし、怪我の功名というべきか、一発で景品が落ちてきた。


 マジか……。

 獲得しちゃった。

 キスの権利も含めて。


「やるじゃん! 一発でとるなんて! さすがイケメンアイドルの兄!」

「おい、大声でいうなって!」


 取り出し口からぬいぐるみを拾ったリンネが、猫みたいに飛びついてくる。


「はい、ご褒美!」


 温かいものが頬っぺたに触れた。

 もっちりして、ピンク色のやつ。


 されてしまった。

 初めてのキス。


 呆然ぼうぜんとして立ち尽くすユウトの背中を、リンネがバシバシと叩いてくる。


「キスくらいで照れないでよ」

「いやいや、照れるだろう」


 ここはゲーセンだし。

 しかも相手が美人だし。


「どう? 私のこと、好きになった?」

「ノーコメントでお願いします」


 ユウトはやや逡巡しゅんじゅんしてから、手で拳銃ピストルの形をつくった。

 リンネの心臓に向けて『ばんっ!』と発砲してみる。


 これは歌手の水谷ショウマがライブ中にやるやつだ。

 イケメンにのみ許された、気障きざっぽいパフォーマンス。


 笑われるかな、と身構えていたら、


「やればできるじゃん!」


 とリンネは素直に拍手してくれた。


 恋人がいた方が楽しい。

 リンネのポリシーが少し分かった気がした。

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