第4話

『早瀬ユウトと水谷ショウマは別人』

『双子だからって騒いだりするのは変』


 マミのセリフが少数派の意見だということを、ユウトはすぐに痛感することとなる。


 最初の違和感はクラスで起こった。

 ユウトが顔を出した瞬間、みんなが朝のあいさつを交わしたり、雑談に興じていたのが、水を打ったようになったのである。


「ん?」


 30を超える瞳が一斉にこっちを見つめる。

 かといって誰も声をかけてこない。


「……」


 もしかして髪に鳥のフンでもついているのかな?

 クラスメイトの真意が知りたくて、頭をペタペタしてみたが、手はきれいなまま。


 何なんだ、一体。

 あざけるようなムードじゃないけれども……。

 たとえるなら、ユウトの頭から大量の血が流れており『早瀬⁉︎ 何があったんだ⁉︎』といいたそうな表情をしている。


 猫のような忍び足で席へ向かった。

 ユウトが教科書をしまったり、あくびをもらす間も、刺すような視線は一向に収まってくれない。


 やりにくい……。

 自分が自分じゃないみたいで、落ち着かない……。


 女子の2人組がヒソヒソ話している。

 上手く聞き取れないが、本物? 偽物? まさか? いてみようよ、というキーワードが飛び出したから、ユウトに声をかけたい反面、何と切り出せばいいのか分からない、というのが実情らしい。


 2人組と目が合った。

 露骨ろこつに視線をらされる。


 ユウトの錯覚さっかくじゃなければ、彼女らの頬っぺたには赤みが差しており、特別な感情を抱いている気配すらあった。


 ますますせない。

 ユウトがため息にならないため息をもらすと、2人組の興奮はさらにヒートアップして、足をバタバタさせている。


 おい、誰か、教えてくれ。

 これじゃまるでユウトが一夜にして人気アイドル水谷ショウマに変わったみたいだ。

 体が入れ替わるフィクションじゃあるまいし。

 もしくは新手のイタズラなのか。


「ねぇねぇ、早瀬くん」


 別の女子がこびをたっぷり含んだ声でいう。


「これって早瀬くんでしょう?」


 鼻先にスマホを突きつけられた瞬間、ユウトの目は限界まで開かれた。


 写真だ。

 4人写っている。

 ユウトと、ショウマと、父と母と。

 背景に見覚えがあるのは、高級すき焼きを食べた会場だから。


 間違いない。

 料亭のスタッフさんにお願いして撮ってもらった家族4人の集合写真じゃないか。


 投稿されているのはSNS上。

 画面の左上に『水谷ショウマ@公式アカウント』の文字が見えるということは、つまりそういうことだろう。


 ユウトの心臓が一気にペースを上げた。

 脳みそにアイスピックを突き立てられたような痛みが走り、変な汗まで浮いてくる。


 見過ごせないのは『いいね』の数。

 すでに万の大台に乗っており、呼吸する間にもカウントアップが止まってくれない。


 ようやく理解した。

 みんながユウトに注目する理由。

 ショウマとの関係が世間に知れ渡ったのだ。


 SNSの投稿は数時間前なのに、ここにいる全員が知っているということは、学校全体に広まるのも時間の問題といえよう。


 どうする?

 シラを切っても両親の顔を見られたら一発でバレないか?

 つまり、詰んだ。


「その反応、やっぱり本当なのね!」

「え〜と……どう話せばいいのか……」


 ユウトが否定しなかったので、クラス中がハチの巣を突いたような大騒ぎになる。


「マジ⁉︎」

「あの水谷ショウマと⁉︎」

「本当の本当に双子なんだ!」

「それって実質、水谷ショウマじゃん!」


 すげぇ! すげぇ! の大合唱の中、ユウトは自分のスマホを握りしめ、朝のトイレへと全力ダッシュした。

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