生き別れた双子の弟がトップアイドルだと発覚した瞬間、学園一のモテ男になったのだが

ゆで魂

第1話

 自分は隠れイケメンじゃないだろうか?

 校内に5人、いや、10人くらいは『早瀬はやせくんっていいな』と思ってくれる女子がいるのでは?

 そういう妄想を楽しみたいのが、17歳というお年頃じゃないだろうか。


 人生のビッグイベントはユウトの誕生日に訪れた。


「今日、ユウトに打ち明けないといけないことがあるのだが……」


 ケーキを平らげた父がティッシュで口元をぬぐいながらいう。

 あまりに真剣すぎる眼差しからは、病気とか、海外赴任とか、そっち系のキーワードを想起させるだけの迫力が感じられた。


「何なの?」


 ユウトは緊張のあまり飲みかけのオレンジジュースを置く。


「いつまで隠しておくか迷ったのだけれども……」


 そう続けたのは母。

 深刻そうな父と違って、母はニコニコしており、かえってユウトの頭を困惑させる。


「これを見て」


 ユウトの前に一冊のアルバムが広げられた。


 余白のところに日付をペン書きしている。

 ユウトが生まれた直後だ、写真の中央にいる母だって、現在とは別人みたいに若々しい。

 つまりしわだらけの赤ちゃんが生後間もないユウトというわけか。


 いや、ガウンに包まれた赤ちゃんは2人いる。

 もう片方は誰なんだ、という当然の疑問が生まれる。


水谷みずたにのおじさんを知っているか。葬式で一度か二度は会っているのだけれども」

「覚えているような、覚えていないような……」


 角ばった顔つきの男性を思い出す。

『君がユウトくんか』というセリフと共に。


「あの人はお母さんの従兄妹でな」


 父から教えてもらった話はこうだ。


 早瀬家と水谷家。

 それぞれの家は近しい時期に子宝を授かるはずだった。

 そう、はずだった。


 水谷家の方は産後の経過が思わしくなく、幸いにも母体は無事だったのだが、赤子が亡くなってしまったらしい。


 その直後、ユウトが生を受けた。

 双子の兄として。


「えっ? じゃあ、水谷さん家のお子さんって……」


 ユウトと同い年の男の子がいる。

 そのことは親戚同士の話で知っている。


「当時、奥さんがひどく憔悴しょうすいしていて。不妊治療をがんばって、ようやく授かった赤ちゃんだったから。見かねた俺たちは何かできることはないか考えた結果……」


 双子の弟を養子として送り出した。

 どれほど勇気のいる決断だったか、17歳のユウトの頭でも理解できる。


「そういう経緯があるから、水谷さん父子は義理の親子ということになる。子どもが17歳になったら打ち明けようと前々から決めていたそうだ」


 ありえない話ではない。

 ユウトの背筋も無意識にピンと伸びる。


「向こうの子どもが面会を希望している。お父さんとお母さんは会ってくる。ユウトもその場に同席するか、ユウト自身が決めなさい。いきなり双子の弟がいるといわれても、実感が湧かないだろうし、断ったからといって誰かに迷惑をかけるわけじゃない」


 そういう父の声は優しい。


「お父さんたちは定期的に会っていたわけじゃないんだ?」

「そうだ。意図して避けてきた。我が子なのに会うのは約17年ぶりだ。水谷さんから連絡をもらった時は正直いって驚いた」


 ごくり、と生唾を飲む。


 会いたい気持ちが半分、会いたくない気持ちが半分だった。

 こんなことをいうと不謹慎ふきんしんだが、双子の弟といっても初対面なわけだから、何から話せばいいのか想像できない。


 ヤンキーみたいな札付きのワルが出てきたらどうしよう。

 あるいはユウトに輪をかけて陰気なキャラクターというケースもある。

 むしろそっちの可能性の方が高い。

 だって双子なのだから。

 似た者同士のはず。


 父を見た。

 相変わらずのポーカーフェイスで何を考えているのか分からない。


 母を見る。

『ユウトと弟が感動の再会を果たすシーンを見てみたい』と顔には書いてある。


「分かったよ」


 ユウトはテーブルの下で拳を握り、毅然きぜんとした声でいった。


「俺もその場に同席しようと思う」


 親をガッカリさせたくない、というありきたりなモチベーションが、自分の片割れに会うという決断につながった。

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