第39話 Girl's Side

 ユウトは恋人じゃない。

 単なる同級生でも、単なる幼馴染でもない。


 だったら何なのか。

 この胸の痛みも含めて、誰か正体を教えてほしい。


 弟みたいな存在だったはずなのに、いつの間にか向こうの身長が10cmくらい上になっていて、帰り道に頭ナデナデされてしまった。


 絶対におかしい。

 授業中なのに余計なことばかり考えてしまう。


 今日だってユウトに関する噂はたくさん飛び込んでくる。

 さっそく舞原リンネに狙われたらしい、と知ったマミは手元のハンカチを握りしめた。


 あの女狐め。

 どういうテクニックを駆使したか知らないが、半強制的にユウトに交際を迫ったのだろう。


 ユウトは奥手な性格をしているから、ろくに口も利いたことない女と付き合うなんて想像できない。


 あるいは弱みでも握られたか?

 だとしたら、本当に許せない。


「早瀬くんと舞原さん、お試しで付き合うんだってさ〜」

「ふ〜ん……そうなんだ」

「意外だな。マミが動揺すると思ったのに」

「なんで私が動揺しないといけないのよ」


 怖い顔したつもりはないが、友達がドン引きしているあたり、よっぽど険しい表情を向けちゃったらしい。


「だって、マミと早瀬くん、幼馴染なんでしょ。早瀬くんと付き合う優先権はマミにあるべきじゃないかな」

「優先権って何よ」


 いわんとすることは理解できる。

 リンネにユウトを盗まれた。

 そう主張したいのだろう。


 1人になりたいと思ったマミはトイレのため席を外したが、友達は磁石みたいにくっついてくる。


「あの2人って、マミ的にはどう思う?」

「どうかしら。舞原さんのことは詳しく知らないけれども、ユウトと長続きするとは思えないけどな。性格が真逆という気がする」

「だよね、だよね。舞原さんって絶対に男慣れしているし、すぐ飽きちゃいそうだよね。早瀬くんは真面目そうなイメージだから、舞原さんの軽薄さについていけなさそう。そもそも早瀬くんが水谷ショウマの双子とわかったから付き合うとか、不純すぎるでしょ。そこが見え見えだからムカつく」


 半ば同意しかねる部分もあったマミは、あいまいに頷いておいた。


「マミはいいの?」

「だから、何が?」


 頬っぺたをサンドイッチみたいに挟まれた。

 マミの口がタコになる。


「早瀬くんを取り返さなくてもいいの?」

「ご心配には及びません。ユウトとはそういう関係じゃありません。もし舞原さんが悪女だとしても、見抜けないユウトの自業自得ですから。今回の件については、我関せずです」

「マミのそういう部分、本当に子どもだなぁ」

「はぁ⁉︎」

「ほら、怒った。図星じゃん」


 この会話を誰かに聞かれたらマズいと思ったが、幸いなことに廊下に人影はなかった。

 頼むから『朝比奈マミvs舞原リンネ』の構図に持っていくのは勘弁してほしい。


 周りが思うほどリンネはバカじゃない。

 マミが嘘をついたら今度こそ見抜いてくる。

 一対一のバトルでも申し込まれたら笑い事じゃすまない。


『じゃあ、私と早瀬くんが付き合っても異存はない?』


 あの尊大な態度を思い出したら、血圧が一気に上がるけれども。

 結論ありきで質問してくるやつが、マミは大っ嫌いだ。


「マミはどうか知らないけれども、早瀬くんはマミのことが好きじゃないかな。うん、絶対好きに決まっているよ」

「どうしてそういう答えに持っていくかな〜」


 チクチクと痛み出したこめかみの部分を手で押さえる。

 そんなマミのリアクションがおもしろいのか、友達のニヤニヤは止まらない。


「1回早瀬くんと話してみなよ。実は俺、マミのことが好きなんだ、とか打ち明けてくれるかもよ。その上でマミも一晩考えて、答えを出せばいいんだよ。あの舞原リンネを出し抜けるって、ちょっと楽しくない?」

「ないない。ユウトに限って絶対にありえない。あと、舞原さんを出し抜きたいとか、毛ほども思わないから。この話はこれで終わり」

「え〜!」


 マミは淡いため息をついてから首を振っておいた。

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