第56話「ハイパーバカップルタイム~デレる西亜口さん~」
☆★☆
「やはり紅茶はいいわね。落ち着くわ」
俺が淹れた紅茶を飲んで西亜口さんはくつろいだ表情を見せる。
やはり黒髪の西亜口さんがいる光景というのには慣れないな。
「というか、思ったのだけれど。あなた……わたしのことをいつまで『西亜口さん』って呼ぶつもりかしら? 彼女に対して苗字呼び&さんづけはおかしいのではないかしら?」
「えっ? あ、そう言えば、そうか……」
恋愛経験値0の俺は、そこまで思い至らなかった。
「じゃ、じゃあ、えっと、なんて呼べば……」
「ナーニャよ。ナーニャって呼び捨てにしなさい」
「え、いいの?」
「いいわよ。わたしたち彼氏彼女の関係でしょう? ……って考えてみれば、あなたのことは祥平ってずっと呼び捨てにしていたわね……」
そうだった。
最初からパワーバランスが崩れているというか、西亜口さんがおそロシアすぎたのだ。
「まぁ、ともかく。今すぐわたしのことを呼び捨てにしてなさい」
「えっ、で、でも」
「なあに? 嫌なの?」
「い、いや、そんなことは……。わ、わかった」
西亜口さんを呼び捨てにするなんて謎のプレッシャーがかかる!
俺、これから西亜口さんと対等な彼氏彼女の関係になれるのか?
正直、不安である。
でも、やるしかない。
これが西亜口さんと愛を育んでいくための最初の一歩だ!
「ナーニャ!」
「はにゃあぁん♪」
呼び捨てにすると西亜口さんから謎の鳴き声が漏れた。
なにこのかわいい生き物。
というか、心の中では西亜口さんってさんづけしてしまうな。
まぁ、いいか……。心の中では今までどおり『西亜口さん』で通そう。
「……よ、予想以上に名前を呼び捨てにされるのは攻撃力が高いわね……」
攻撃なのか。
「でも、悪い気分ではないわ。むしろ、いいわね、これは…………ふふ、ふ……」
西亜口さんはブツブツと自問自答しながら頬を緩めていた。
どうやら満足していただけたらしい。
「ね、ねえ……もう一度言ってみて?」
「あ、ああ……。……ナーニャ」
「はにゃぁ♪」
「ナーニャ」
「うにゃぁ♪」
「ナーニャ!」
「はにゃあぁあああん♪ ……って、あなた、なにわたしで遊んでいるのよ!?」
西亜口さんは顔を真っ赤にして怒っていた。
しかし、緩んだ頬は満足さを物語っている。
そんなに名前を呼び捨てにされることが嬉しいのだろうか。
もしかして、西亜口さんはチョロインなのか?
あのクールで鉄壁の防御力を誇る永久凍土そのものの西亜口さんが……?
信じがたい。
だが、現実の西亜口さんはこれまでからは考えられないほどだらしなくデレデレして頬を緩めている。
「うーむ…………」
「……なによ? 唸って」
「西亜口さんは複雑怪奇だなって思って……」
「なに『欧州は複雑怪奇』みたいなこと言ってるのよ? 総辞職する気?」
そんな日本史ネタは置いておいて。
「……いや、まぁ……やはり、西亜口さんは……いや、ナーニャはかわいいってことだよ」
「はにゃあぁ~ん♪」
なにこのバカップル状態。
しかし、西亜口さんがかわいいのだから仕方がない。
だが、いつだって平和な時間というのは続かないものである。
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