第3話「本棚チェック&自作小説朗読処刑タイム~」

「……この本棚にいかがわしい本とか置いてないでしょうね?」

「お、置いてないよ」


 でも、ラノベは肌色多めの挿絵があったりするが……。

 西亜口さんは本棚のラノベを手にしたようで、ページをめくり始めた。


 う、うわぁ……これは新手の拷問か? クラスの一番美人な女子から読んでいるラノベを吟味されるだなんて。運悪く肌色多めの挿絵や口絵を見られたら……。


「……ひゃっ!?」


 西亜口さんから小さな悲鳴が上がった。

 これは、もしかして……。


「……! ……!? ……っ……」


 西亜口さんが慌てている気配が伝わってくるが――ペラペラとページをめくる手が止まっていない。


「……ちょっと。こちらを振り向きなさい」


 声が低い。殺意がビンビンと伝わってくる。

 怖い。振り向きたくない。しかし、拒絶することもできない。

 仕方なく振り向いた俺の視界に入ってきたのは――。


「ぐあっ」


 西亜口さんの両手でしっかりと広げられた肌色成分多めのラノベの口絵だった。


 具体的にはヒロインのシャワー中に主人公が入ってしまってラッキースケベが発生している状況である。身体が折り重なっており、かなりキワドイイラストだ。


「……破廉恥(はれんち)ね」

「ぐあぁっ!」


 蔑んだ目を向けられ冷たい声で断罪される。

 だが、西亜口さんの顔は赤くなっていた。


 というか、俺も体温が上がっていくのがわかった。まさか所有している肌色成分多めのラノベを西亜口さんにチェックされる日が来るとは!


 家に住んでいるのが俺だけだったので油断していた。

 最近は肌色成分多めのラブコメばかり買っていたのだ。


「……やはりあなたは危険人物だわ。来る日も来る日もこんな密室にこもっていかがわしいイラストを見て興奮していたのね?」

「い、いや、それはストーリーも意外としっかりしていて名作というか……まぁ、口絵はちょっとエロいけど……」


 ラノベはイラストだけで判断してはいけない。

 読んでみないとよさはわからないのだ。


「……まあ、いいわ。それよりもパソコンとスマホを見せてちょうだい。あなたがスパイなら外部と連絡をとっているはず」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺にもプライバシーってものが!」

「あなた自分の立場がわかっているのかしら? わたしの一存であなたはいつでも人生の終わりを迎えることになるのよ」


 スッと目を細める西亜口さん。

 ほんと、すごい威圧感だ。おそロシア。


「わ、わかった。……ま、まぁ……そこまで見られても困るものはないしな……」

「なら、まずはスマホからよ。三歩下がって床にスマホを置いてから再び三歩進んで壁際に立ちなさい」

「……わ、わかった」


 こうなったら西亜口さんが納得するまでつきあうしかないだろう。

 俺は言われたとおりの方法で西亜口さんにスマホを渡した。


「……ふむ」


 背後で西亜口さんが俺のスマホを操作し始める。

 なんだか浮気調査される彼氏の気分だな……。

 年齢=彼女なし歴なんで実際にはそんな経験ないが。


「……あなた、ぜんぜんメールしてないじゃない。それにアドレス登録も数人だけ。まさか証拠隠滅?」

「……いや、俺、友達とつるむタイプじゃないから。それにスマホ買ったばかりなんだ」


 読書が趣味で学園でも本ばかり読んでいるので放課後の誘いとかも断っていた。

 なので友達は少ないというかほぼいないのだ。まあ、そのほうが気楽なんだけど。


「……次はパソコンよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれっ! パソコンは勘弁してくれないか? そ、その……小説とか書いてるから見られるの恥ずかしいというか……!」

「小説? あなた作家なの?」

「いや、趣味で書いているだけだ」


 しかも最近はラブコメを書いている。

 男子高校生の妄想垂れ流しの作品を西亜口さんに読まれるとか拷問すぎる!

 というか、今、デスクトップにあるファイルは――やばい!


「読ませなさい」

「ちょ、本当に勘弁してくれ! 今は本当にダメだ!」

「だめよ。わたしは日本の文化やサブカルチャーについて調査することも仕事なのよ。今の若い日本の男子高校生が書いている作品にも興味があるわ」


 西亜口さんはパソコンの電源を入れてしまう。


「ちょ、マジでやめてくれっ……! 勘弁してくれ!」

「あなたに拒否権はないわ。逆らうと死ぬことになるわよ?」


 キッと睨みつけられてドスを構えられた。

 これはマズい。本当に殺される。


 こうなっては、仕方ない。

 俺も命が惜しい。


「……あら、いきなりデスクトップに貼ってあるのね?」


 西亜口さんはドスを床に置くとマウスを操作してテキストファイルを開いた。


「ええと、タイトルは……『ロシアから来た美少女転校生と仲良くなってメチャクチャイチャイチャラブラブな学園生活を送る俺』……」


 西亜口さんはタイトルを読み上げたあと硬直した。

 ちなみに、その作品はもろに西亜口さんがモデルだ!


「……あなた、わたしをネタにして小説を書いていたの?」


 西亜口さんにジト目で見られる。


「う、あ……そ、それは、ち、違う……たまたまというか、なんというか……」

「……『俺のクラスにロシアから美少女転校生がやってきた。名前は露西口(ろしぐち)さんだ』」


 西亜口さんは俺の小説を読み上げる。

 公開処刑だ!


「……これでもあなたはわたしをネタにしていないと言いきれるの?」

「申し訳ございませんでしたぁ!」


 俺は土下座せんばかりに絶叫した。


 ……そうなのだ。西亜口さんがあまりに美少女すぎて俺は彼女をネタにして小説を書き始めていたのだ。


「……『西口さんが中庭に出てきたところでぶつかってしまった! そして、ラッキースケベが発生して俺が押し倒すようなかたちになってしまったのだった。』」


「ぐぁあ!」


 同級生をネタにしてラブコメを書いて、さらにはラッキースケベが発生しているさまを描写――それを当の本人に朗読されるとは!


「……やはりあなたは生かしておいてはいけない存在のようね」

「ご、ごめん! これは出来心というか西亜口さんがかわいすぎて創作意欲が刺激された結果なんだ!」


 我ながらキモいものを書いていたと思うが、まさかモデルにした本人に見られるとは夢にも思わなかった。


「…………あなた、そんなにわたしのことをかわいいって思うの?」

「……そ、それは……思う……」

「……ふ、ふーん……」


 西亜口さんはなぜか顔を赤くしながら視線を逸らした。


 ……というか、西亜口さんは転校してきたときにさんざんクラスの連中に「かわいい」とか「美人」だとかさんざん言われていた気がするのだが。

 なぜ俺から「かわいい」と言われて照れる必要があるんだ。


「……まあ、いいわ。この小説は見なかったことにするわ。あとはメールやネットの巡回先の調査ね」


 西亜口さんはネットにアクセスしてブックマークを確認する。

 といっても、ネット小説投稿サイトやラノベ情報サイトなど見られても問題ないものだ。


「……おかしいわね。男子高校生なのにいかがわしいサイトを巡回していないだなんて」

「偏見だ」


 そういうサイトはブックマークに入れないことにしている。

 というかなんで俺はこんな目に遭っているんだろう……。


「……ざっと見たけど、おかしな点はないようね」


 履歴とか見られなくてよかった……。

 この程度の調査能力で本当にスパイなのかという疑問はあるが……。


「まあ、あなたは目つきが悪いだけで鍛え抜かれている感じでもないわね。筋肉なさすぎだし。わたしの早とちりだったのかしら?」


 ようやくまともな結論に至ってくれたか。

 いくらなんでも暴走しすぎだ。

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