第45話「西亜口さんの策~同好会を作ろう~」
しかし、驚いたな……。
里桜から、あんなことを言われるとは……。
動揺を抑えつつ階段を降り、廊下を歩き、玄関のドアを開ける。
「来たわよ」
「あ、ああ……。いらっしゃい、西亜口さん」
「……なに? 浮気現場を妻に踏みこまれた夫みたいな顔をして」
「うぇっ!? い、いや、それは、そのっ……!」
「……あら? 適当なロシアンジョークだったのだけど図星だったのかしら?」
「い、いや、違……」
「ふーん……そう……」
西亜口さんの目が細められる。
これは疑いの眼差しだ。
「……まぁ、いいわ。とにかく中に入るわね」
「あ、ああ。どうぞ」
西亜口さんを家の中へ案内する。
なんだかんだでこれで二回目か、西亜口さんがうちに来るの。
「……あ、俺、お湯沸かすから先に二階行ってて。西亜口さんのぶんの紅茶を用意するから」
「あら、気が利くわね。了解よ」
俺は廊下の途中まで西亜口さんを案内して右へ。
西亜口さんは左へ曲がり二階へ上がっていった。
「さて、湯を沸かすか」
……って、西亜口さんと里桜をふたりっきりにするのは危険だったかな。
まぁ、すぐだから大丈夫だろう。
ヤカンで湯を沸かし、紅茶を淹れる。
新たなお盆にティーカップを乗せて二階へ持っていった。
「お待たせ」
ふたりは争うことなくちゃぶ台に向かい合って座っていた。よかった。
「はい、紅茶」
「ありがとう。毒薬は入ってないわね?」
「そんなもの入れないというか持ってないって!」
「ただのロシアンジョークよ」
西亜口さんの冗談は、いちいちおそロシアだから困る。
「やはり紅茶はいいものね。ティーパックといえども」
「せんべい、せんべいー!」
西亜口さんは優雅に紅茶を口にし、里桜はさっきの空気が嘘のようにせんべいを貪っていた。
とりあえず、俺もビターチョコを食べよう。
うん、この苦さがいい。俺に甘さは似合わない。
「さて……本題に入りましょうか」
カップを置くと、西亜口さんが切り出した。
「えっと、なんの話だったっけー?」
「あなたは能天気でいいわね。学校でのこれからの振る舞い方についてよ」
うむ。そうだ。
紅茶飲んでお菓子を食べて満足している場合ではない。
「えーと、今日お昼ご飯各自にしたのと関係あるんだっけー?」
里桜は、本当にわかってないな……。
やはり、里桜はアホだ。
「わたしたちの関係について学校の連中から奇異な目で見られているのよ。いえ、ゲスな目で見られているといったほうが正確かしら」
「んー、確かに最近視線感じるかもー?」
やっと本題だ。
さて、どうするか。
「わたしに策があるわ」
……策だと?
西亜口さんは、いったい、どんなおそロシアな策を考えているんだろうか。
まさかクラスメイトを脅迫? 監禁? 拷問? 想像を逞(たくま)しくする俺だが、西亜口さんの口から出たのは予想外の策だった。
「策とは――同好会を作ることよ」
「えぇー!? 同好会ぃー!?」
「……同好会、だと……?」
予想外の策だった。
「わたしたちが一緒にいても奇異な視線を向けられないためには、それが一番だと思うわ」
「うわー、また兼部が増えるー!? 」
「って、西亜口さん、そんな簡単に同好会なんて……」
「心配ないわ。校長を脅して……いえ、話を通して、すでに許可はとってあるわ」
おそロシア。さすが西亜口さんだった。脅して……って言った気がするが、スルーしておこう。
「名称は日本文化研究会。合宿所には畳があるので部室として使う理由にもなるわ」
「日本文化研究会ー!? あたし茶道とか華道とかわからないよー!?」
「別に茶道や華道を学ぶ部活ではないわ。広範な日本文化について学ぶのよ。アニメとか食文化とかも含めてね」
……なるほど。それならカップラーメンを食べるのも同好会活動(?)か。
「あなたたちにはロシアから来たわたしに対して様々な文化を教えるという役目、期待してるわよ」
「……まあ、この間も川越に行ったしな……ある意味、部活として成り立っているのか……?」
とりあえず名目上は俺たちが三人で合宿所にいる理由になる。
「ちなみにほかに入部希望者が出ても却下するわ。どうせわたし目的のゲス男子どもだろうから」
西亜口さんは、ほんと、俺以外の男子に容赦がないな……。
……まぁ、転校初日に西亜口さんに群がっていた男子たちは俺から見ても不快だったからな……。美人だからってお近づきになりたいって下心がすごかった。浅ましすぎる。
「……わたしのことを異性として意識していいのは、ひとりだけだわ。それ以外の男はアウトオブ眼中よ」
「えー、それって祥平のことー?」
「……ノーコメントよ」
西亜口さんは俺たちから顔をプイッと背けた。
って、まさか本当に西亜口さん、俺のことを……?
「むー……」
里桜は面白くなさそうな顔をしていたが、「ま、いっかー、せんべいおいしいし」と勝手に納得していた。
「……そういうわけで、異存はないわね?」
西亜口さんはチラッと一瞬だけ俺に視線を向けて訊ねてくる。
「あ、ああ。異存はない」
あるわけない。
せっかくできた学校での居場所だ。
それを維持できるに越したことはない。
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