第44話「幼なじみのストレートな自問自答」
☆★☆
放課後――俺たちは別々に家に帰った。
なお、メールでやり取りした結果、俺の家に集まることになっている。
今後のことを考えるためだ。
「さて、どうしたものかな……」
といっても、集まってからだな。
部屋を掃除して、茶菓子でも用意しておこう。
「こんなことで我が家に集合することになるとは」
――ピンポーン♪
「お、来たか」
「祥平ーーー!」
まずは里桜だ。
西亜口さんは一度家に帰ってからタクシーで来ると言っていたので時間がかかる。
玄関に移動してドアを開けた。
「来たよーー!」
「ああ。入ってくれ。お茶を淹れるから、先に俺の部屋にに行っててくれ」
「了解ー!」
里桜を家に入れるのも、なんだかんだで久しぶりだな。
子どもの頃は毎日のように来ていたもんだが。
「勝手知ったるなんとやらー!」
里桜は軽やかな足取りで二階に上がっていった。
俺も湯を沸かし、ティーパックで紅茶を淹れる。
茶菓子も適当に用意。せんべいと高カカオチョコレートだ。
俺は執筆前に高カカオチョコレートを食べることが多い。
なんとなく集中力が上がる気がするのだ。
「ほら、里桜。茶と茶菓子だぞ」
「わーい、ありがとー!」
里桜はちゃぶ台の前に胡坐をかいて座っていた。
ちゃぶ台の上に、お盆を置く。
「げーっ!? 甘くないチョコレートじゃんーー!?」
「ああ、里桜はそういうの嫌いだったか」
「甘いのがほしいー! あたしにはカロリーが必要だー!」
「せんべいで我慢してくれ」
「んー、このせんべいは好きだからいいかー!」
ちなみにせんべいは薄焼きの醤油味である。
里桜の精神年齢は低い。子どもか。
まぁ、おかげでこんなに美少女なのに今まで恋愛感情的なものが芽生えなかったとも言えるな。
里桜は袋を開け、せんべいをパリパリ小気味よい音を立てて食べ始めた。
「そういや祥平の家に来るの久しぶりかもねー。最近、ニャン之丞と遊んじゃうしー」
「ああ、そうだ。ニャン之丞は元気か?」
「うん、元気だよー! 元気すぎて何度も引っ掻かれたー!」
まあ、仲がよいのはいいことだ。
梅香さんも平日家にいるし猫にとってはいい環境かもな。
西亜口さんのマンションだと日中ひとりぼっちになってしまっていたことだろう。
というか猫の名前はニャン之丞で確定したんだな。
「おかーさんもニャン之丞が来てから毎日退屈しないみたいだしねー! ちょうど猫飼いたいって話してたんだよー!」
そうなると、かなりタイムリーというか猫にとってもラッキーだったわけだ。
ニャン之丞が猫玉神社周辺にいなかったら、俺と西亜口さんも出会わなかったかもしれない。
人生わからないものだ。なにがキッカケになるかわからない。
伏線というものは、あとになって気がつくものなのかもしれない。
「というかさー、祥平、ほんと、西亜口さんにデレデレしすぎだよねー? あたしという幼なじみがいながらさー!」
「い、いや、それは、その……」
「昔はっていうか、ついちょっと前まで、あたし以外の女子とほとんど話してなかったのにさー」
……まぁ、幼稚園の頃には目の青い黒髪の子とよく遊んでたし、川越に行くたびに未海と過ごしていたわけだが……。
昔の俺はリア充だった。というか、今の俺はもっとリア充か。
「というかやっぱり祥平、モテすぎておかしいー! そのうち絶対に未海ちゃんに針で刺されるか西亜口さんにシベリアに連れてかれて監禁されるってー!」
その可能性は微妙にあるから困る。
ふたりはヤンデレとエキセントリックをこじらせてるからな。
一歩間違うと危ない。
「祥平はさー、もっと幼なじみであるあたしのことを大事にするべきだと思うけどなー」
「あ、ああ。まあ、里桜には感謝はしてるぞ。猫も世話してもらってるし食べ物ももらってるし車も出してもらってるし」
「それ半分以上おかーさんのおかげじゃんー!」
そうとも言う。
「いやでも、里桜自身にも感謝しているぞ。俺は里桜以外に友達いなかったからな」
この近所にあまり家がないし同年代もいないこともあって、友達は里桜以外できなかった。ここからは小学校も中学校も遠いからな。
なお、里桜が武道の稽古をするようになって遊ぶ機会が減るとともに俺は読書にハマっていったのだった。
「うん、あたしたちずっと親友! ……でも、親友、親友かぁ……うーん」
里桜は腕組みして考え込んだ。
そして、チラ……と俺を上目づかいで見つめる。
「……やっぱり、好き、なのかな?」
「えっ」
「あたし、祥平のこと……」
そう言って、こちらのことを真剣な表情で見つめてくる。
「え、あ……」
ストレートな自問自答。しかも、俺の前で。
里桜のそんな表情は初めてだ。
「うーん、わからない!」
だが、そんな真剣な雰囲気は長くは持たなかった。
里桜らしいと言えば里桜らしい。
でも、まさか里桜とこんな空気になるとは……。
――ピンポーン♪
そこで、呼び鈴が鳴った。
「……おっと、西亜口さんが来たかな」
助かったような気分になりながら、俺は部屋を出た。
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