第34話「グッバイ小江戸川越」

「それじゃ、散策再開だ。寺と神社を回って食べ歩きして菓子屋横丁で土産を買って帰るぞ」

「そうね。和の文化を堪能しないと」

「わーい! 散策しながら食べまくるぞーーー!」

「お土産は芋羊羹がいいなぁ~♪」


 上機嫌になった三人とともに散策していく。


 ……そのあとは寺社を回り、食べ歩きして(昼飯食べたあとなのでお腹空いてないのだが、里桜だけひたすら食べていた)、土産にそれぞれ和菓子や駄菓子を買った。


 楽しい時間はあっという間である。


「まだまだ見て回りたいところだけれど、そろそろ時間ね」

「うあー! まだまだまだまだ食べ足りないーーーー!」

「うぅ……お兄ちゃんともっと一緒にいたいよぅ……」


 名残は尽きないが、駐車場に戻る時間を考えるとそろそろ戻らねばならない。


「うぅ……お兄ちゃあん……! 今度絶対に会いに行くからねぇっ……!」


 未海は瞳をウルウルさせながら、俺に抱きついてくる。


「あ、ああ」

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃあぁ~ん!」


 未海は涙を流しながら激しく顔をこすりつけてくる。

 エキセントリックなところはあるが、どこまでもピュアでもある。

 人はピュアすぎるゆえに暴走するのだ。


「……まあ、こちらに来たときはわたしも歓迎してあげるわよ」

「プリン用意して待ってるよーーーーー!」


 何度も刃傷沙汰になりかけたが、散策を通して親交は深まっていた。

 女子の友情は複雑怪奇だな。

 まぁ、喧嘩するほど仲がいいとも言うしな……。


「あ、バス来ちゃった。……それじゃ、お兄ちゃん、みんな、またねーっ!」


 蔵造りの街並みにある停留所からバスに乗って、未海は川越駅へ向かった。

 最後は、とびっきりの笑顔を残して――。


「……騒がしい妹もどきだったわね……」

「まー、でも、かわいいからいいんじゃないー? かわいいものはいいものだー!」


 俺たちはそのまま観光駐車場方面へ歩いていく。


 しかし、まさか、川越に来て未海と再会することになるとは。

 人生はわからないものだ。


「……まあ、妹もどきごときにやられるわたしではないわ。わたしたちの街へ来ても返り討ちにしてやるわよ」

「ライバルが増えて燃えてきたー!」


 これからどうなっていくのか。

 ますますわからなくなってきた。

 今年は激動すぎる。


「ところで。あなたは陰キャを凝縮したような人物なのに女子運に恵まれすぎているわね?」

「あたしが幼なじみというだけで恵まれすぎてるからー!」


 西亜口さんも里桜も未海も、みんなとんでもない美少女だからな……。

 本来、陰キャの俺が話せるような女子ではないことは確かだ。


「ありがたく思うことね。感謝の気持ちを忘れることなく、これからもわたしの下僕として忠実に働きなさい」

「それよりもあたしともっと仲よくしようよー!」


 未海と遭遇したことで刺激されたのか、ふたりは左右から腕を絡めてきた。


「えっ、ちょっ!?」


 デート勝負自体は有耶無耶になってしまったが、逆に競争心が煽られたようだ。


「男なら黙ってこのまま歩きなさい」

「そうだそうだー!」


 なんだかよくわからないが役得だ。


 しかし、これから先どうなっていくのか。

 そして、俺はどうしていくべきなのか。

 そう思いながらも、駐車場まで歩いていった。


「あらあら~♪ 三人とも楽しんできたようね~♪」


 駐車場には、すでに梅香さんが待っていた。


「あ、おかーさん! これは違うというかなんというかー!」

「……下僕が迷子にならないように手を繋いでいただけよ」


 そう言いつつすぐに腕を離して、ふたりは言い訳をする。

 梅香さんに見られたことで羞恥心が甦ったらしい。


「うふふ♪ 青春っていいわね~♪ それじゃ、帰りましょうか~♪」


 またエキサイティングなドライブタイムか。


「うっ……」

「絶叫マシーンの時間だあああああああ!」


 青ざめる西亜口さんと盛り上がる里桜。

 さすがにまた西亜口さんが恐怖体験するのはかわいそうだ。


「梅香さん、安全運転でお願いします」


 俺は真剣にお願いした。

 さすがに西亜口さんが帰りも同じ目に遭うのはかわいそうだ。

 せっかくの日帰り旅行の記憶がトラウマで塗りかえられてしまう。


「わかったわ~♪ 今回は特に安全運転で帰るわね~♪」


 いきなり運転の荒さは修正できないかもしれないが、これで少しはマシになればいい。


 チラッと西亜口さんが俺のことを見てきた。

 そして、車に乗り込む前に――。


「……なに。あなた、わたしに気を利かせたの?」

「い、いや……まぁ、なんというか……」

「ふんっ…………よ、余計なお世話よっ……」


 そう言って顔を背けるも、西亜口さんの表情は少し嬉しそうだった――。

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