第14話「西亜口さんとティータイム~自作小説ネット投稿命令~」
「ともあれ、食後の紅茶を飲みましょう。ティーパックも持ってきているのよ」
それにしてもインスタントに強い西亜口さんである。
とんこつラーメン食べたあとだし、ブレスケア的な意味もあるのだろうけど。
再び西亜口さんはお湯を沸かしにいった。
待つこと数分。
ティーカップを西亜口さんはふたつのせて広間に戻ってきた。
「さあ、ティータイムと洒落(しゃれ)こみましょう」
「あ、ああ」
うちの学園は昼休みが長めなので、ゆったりできる。これまでは購買でパンを買って外で読書しながら過ごすことが多かったが、まさか西亜口さんとお茶を飲む日が来るとは。
俺たちはカップに口をつけて紅茶を啜る。
啜ってばかりだな、俺たち。
「ふぅ、やはり食後は紅茶ね。紅茶というとイギリスを思い浮かべるかもしれないけどイギリスよりも先にロシアのほうが紅茶文化は発達していたのよ」
「そうなんだ?」
「ええ。ロシアにいたときは様々なジャムを楽しみながら紅茶を楽しんだものだわ」
おお、なんだか美味しそう。
「あなたが人畜無害であることが証明されたらロシアに連れていってもいいわ」
「じ、人畜無害って……」
「でも、そうとも限らないかしら? わたしをモデルにした小説を書こうとしたり、わたしに対して羞恥心を与えてメンタルを破壊しようとしているしね? ……やはり、あなたは危険人物だわ」
「い、いや、あの小説は気の迷いというか、なんというか……!」
今度は俺が慌てる番だった。
「気の迷い? あなた、せっかくああやって書き始めたのだから、ちゃんと最後まで書きなさいな。……つ……続きが、気になるじゃない?」
西亜口さんはこちらから視線を逸らしながら、最後は小さな声で呟くように言う。
……って、西亜口さん、あんな小説の続きを望んでいるのか?
「い、いや、あれは、その……つ、続きなんて、どう書けばいいのか……」
「あったことを書けばいいじゃない」
「えっ――!?」
「日記だと思って今日あったことをそのまま書けばいいのよ。冒頭の部分は書き直してノンフィクションにしなさい。そして、あなた自身の心情も記すこと! そして、ネットにアップするのよ! そうすれば、あなたのことを家にいながら監視できるわ!」
いやいやいやいや!
西亜口さん、なんてトンデモないことを言いだすんだ!
「ちょ、そんな恥ずかしいことできるわけないだろ!?」
「あなた、そんな覚悟で小説を書いていたの? 作家を目指すなら恥を晒しなさい! 実はわたし、小説を読むのが趣味なのよ。基本的に家にいるときは読書三昧だわ」
そ、そうだったのか……。
西亜口さんの妄想暴走癖は、そのあたりも関係しているのかな……。
「露西口だと安直すぎてわたしだとバレる可能性があるから適当な名前に変えなさい。あとは学園名とか地名もね」
「ちょ、待っ、ハードル高すぎるって! 西亜口さんが読むのに、それをそのまま書くだなんて!」
「だから、いいんじゃない。わたしに羞恥を与える発言するばかりあなたに逆襲よ。あなたも羞恥に震えなさい」
いや、でも、それ……西亜口さんも恥ずかしいと思うんだが……。
「西亜口さんは、そんな日記みたいな小説を全世界に公開するみたいになってもいいのか?」
「……な、名前を変えて書いてあるなら平気よっ!」
少し声が震えた。
西亜口さんもノーダメージというわけにはいかないだろう。
まぁ、俺のほうが遥かにダメージがでかいのは確定だけど。
「ともかく、それはやめておいたほうがいいと思うけど」
「いいえ、やりなさい。あなたのプライベートをわたしに晒しなさい」
西亜口さんはヤンデレも入っているのだろうか……。
まあ、俺はヤンデレは割と好物なんだけど……。
「……でも、やっぱりハードル高すぎだと思うんだけど……」
「ハードルというものは越えるためにあるわ。チャレンジあるのみよ」
西亜口さんは意外と熱血キャラでもあるのかもしれない。
というか、クールなキャラかと思ってたけど話してみると面白いキャラだよな、西亜口さん。
「まあ、そろそろ片づけて別々に戻りましょうか。まずは、あなたが出なさい。わたしは時間をずらし鍵を締めてから出るわ」
「あ、ああ。了解」
なかなか心臓に悪いランチタイムだった。
「それじゃ」
「ちゃんと小説投稿しなさいよ? わたし今夜は家でゆっくりしているから小説を読みたい気分なのよ」
「……本気で?」
「ええ。わたしはいつだって本気よ」
西亜口さんの表情は真剣そのものだ。
そもそも冗談を言うタイプではない。
いつだって西亜口さんはアサっての方向に全力だ。
昨日今日でよくわかった。
「わ、わかった。善処する」
「楽しみにしてるわ」
ほんと、西亜口さん無茶ぶりしすぎだろ……。
こんな友人つきあいなんて、普通はありえない。
というか、俺たちの関係ってなんなんだ? 友達と言っていいのか?
ともあれ。
こうして俺は西亜口さんとの初めてのランチタイムとティータイムを楽しんだのであった――。
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