第39話「梅香さん(つよい)」
ガーッと音を立ててパワーウィンドウが下がり、梅香さんが顔を出した。
「あら、祥平くん、どうしたの~? 路上で修羅場とは楽しそうね~♪」
「梅香さん、いいところに!」
ここは梅香さんの車で未海を駅まで送ってもらおう。
まずは西亜口さんと未海を引き離さねば。
「お兄ちゃん! この女は何者!? なんで知りあいが美人ばかりなの!?」
「うふふ~♪ わたしは里桜のおかーさんよ~♪」
「えぇえ~!? 大学生くらいにしか見えないよぅ!?」
まぁ、梅香さんは年齢不詳だからな……。
この若さは埼玉の神秘だ。
「あの、梅香さん。この子、俺のイトコなんですが駅まで送ってもらえませんか?」
「いいわよ~♪ ナーニャちゃんも一緒に乗ってく~?」
「ふにゃっ!?」
梅香さんドライブによって植えつけられたトラウマは、まだ払拭できていないようだ。
「大丈夫よ~♪ 安全運転を心がけるから~♪」
「わわわ、わたしは……!」
「西亜口さん、せっかくだから送ってもらおう」
正直、あんなことを言われたあとに部屋にふたりっきりはメンタル的に厳しい。
今日は回避すべきだ。
「お、お兄ちゃんっ、未海、お兄ちゃんの家にっ……」
「やっぱり、それは来週の日曜日にな」
このまま未海と西亜口さんを一緒に俺の部屋に入れたら刃傷沙汰になる未来しか見えない。それに小説執筆もしないといけないしな。
「ほら、乗って乗って~♪」
「ありがとうございます! それじゃ……」
まずは俺が助手席のドアを開けて乗る。
西亜口さんと未海は迷ったようだが、左右のドアを開けて後部座席に乗り込んだ。
「それじゃ、出発するわね~♪ かわいい女の子を二日連続で乗せられるなんておばさんハッピーだわ~♪」
「うぅ……なんかこの人、底知れない恐ろしさを感じるよぅ……」
未海の直感は正しい。
梅香さんは武道の達人だからな。そして、無類のかわいい女の子好きでもある。
色々な意味で危険だ。
「うふふふ~♪ おばさんは怖くないからね~? いつでも遊びに来なさいね~♪ プリンを用意して待ってるから~♪」
「ぷ、プリン……」
西亜口さんのトラウマスイッチがまた押されたようだ。
さっきは恐怖で今度は羞恥。
「えっ、プリン? 未海、プリン大好物ぅ♪」
「それはよかったわ~♪ 今度こっちに来たときにお土産に持たせてあげるわね~♪」
着々と俺の周りの女子が梅香さんに餌づけされていきそうだ。
梅香さん、恐ろしい飼育力。
ともあれ、車は比較的安全運転(たまに西亜口さんから悲鳴が上がっていたが)で駅前に辿りついた。
「あはは♪ 楽しいドライブだったぁ~♪ 送っていただきありがとうございますぅ♪」
「うぐぐ……一応、お礼は行っておくわ……」
元気を取り戻した未海と元気を失った西亜口さんが、仲よく(?)車から降りた。
一応、危機は去ったのだろうか。
「それじゃ未海、寄り道しないで気をつけて帰れよ。また来週の日曜日にな。西亜口さんもたまには健康によいものを食べてくれ」
「うん♪ お兄ちゃん、待っててねぇ♪」
「……善処するわ……たまには、わかめカップラーメンにしようかしら……」
カップラーメンは譲れないのか……。
ともあれ未海は駅へ、西亜口さんは高層マンションへ歩いていった。
「それじゃ、祥平くん~♪ せっかくだから買い物につきあってくれるかしら~♪」
「えっ? は、はい」
昨日今日と車を出してもらってるし、いつもおかずやプリンをもらっている。
たまには荷物持ちぐらいするべきだな。
「助かるわ~♪ 今日は里桜部活で遅いし食材大量に買うから大変だったのよね~♪」
「は、はあ、俺、非力なので、あんまり役に立たないですが……」
梅香さんの車は駅前のスーパーへ。
考えてみれば、梅香さんと一緒に買い物するなんて久しぶりだな……。
これはこれでプレッシャーが!
世間から見れば、俺と梅香さんはどんなふうに映るのだろうか?
姉と弟?
というか、クラスメイトに見られたら変な誤解をされそうで嫌だ。
「うふふ♪ ちょっと腕組んでみましょうか~?」
「うぇえっ!?」
なんで!?
「くすくす♪ 冗談ですよ~♪ 祥平くんはからかいがいがある男の子だから人気があるんでしょうね~♪」
おおう、これが大人の余裕ってやつか……。
って、なんで俺は梅香さんにまでからかわれなければならないんだ!
「さあ、買い物しましょうか~♪ あ、好きなお菓子買ってもいいですからね~♪」
「は、はあ……」
完全に子ども扱いだった。
なんか今日も疲労を覚える一日だな……。
ともあれ、そのあとは普通に梅香さんの買い物を手伝って荷物を運び自宅へ帰ったのだった。……なお、お菓子は買わなかった。
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