第47話「ナーニャVSニャン之丞~ニャンニャン対決~」
俺たちは家を出て北瀬山家に向かった。
「おかーさん、祥平と西亜口さんが来たよー!」
「あらあら♪ いらっしゃい~♪」
里桜が北瀬山家のドアを開けると、梅香さんが出迎えてくれた。
なお、梅香さんのすぐ足元をニャン之丞もついてきている。
西亜口さんを見上げてニャーと鳴いた。
「あぁっ、ニャン之丞……! また一段とかわいくなったわね……!」
ニャン之丞に会った途端、西亜口さんはポンコツ化する。
さっきまでの冷徹なリーダーシップからは考えられない。
見事なクーデレだ(猫に対して)。
「ふふ♪ ナーニャちゃん、いらっしゃい♪ オヤツのプリン食べる~?」
「ふにゃっ……!?」
梅香さんから西亜口さんのトラウマワードが出て、さらにポンコツ化に拍車がかかった。
ほんと、西亜口さんはいつもは鉄仮面のような無表情なのにポンコツ化すると表情豊かになるよな。そこがまたかわいいけれど。
「……えっ、え……遠慮しておくわ……」
顔を赤くしつつもどうにか冷静さを取り戻して、言葉を搾りだす西亜口さん。
しかし――。
「遠慮なんてしちゃダメよ~? せっかくだから食べていってちょうだい~♪」
梅香さんはおっとりしているのだが、けっこう押しが強い。
そして、こう見えて武道の達人なので、目力がすごい。笑顔なのに。
「う……」
そこですかさず里桜が加勢する。
「ほらほらー、せっかくだから食べてってよー! あたしばっかりプリン食べさせられてカロリー過多なんだってー! おかーさんもさー、いつもプリン作りすぎだってー!」
「来客に備えていつでもプリンを用意しておくのが北瀬山家流のおもてなしよ♪」
これはまた帰りにプリンを持たされるフラグだな……。
まぁ、おいしいからいいけど……。
「で、でも……」
なおも逡巡する西亜口さんに対して、ニャン之丞がさらにニャーと鳴く。
まるで「食べていくニャー」と促しているようだ。
「……そ、そうね。ニャン之丞まで、そう言うのなら……」
猫語が通じたのか、西亜口さんは観念したように頷いた。
……というか、プリンの話が出るたびに間接キスのことを思い出してしまって俺も微妙に恥ずかしいのだが……。
そんな俺の様子に気がついたのか、西亜口さんがこちらをキッと見る。
「……やはりあなたには精神的苦痛に対する慰謝料を請求しないといけないわね……」
「って、あれ西亜口さん自らスプーンを俺の口に突っこんでたよね!?」
「脳内の記憶を改竄したので、あれは全面的に祥平が悪いことになっているわ」
メチャクチャすぎる。おそロシア。
「うふふ~♪ 青春っていいわね~♪ 心の栄養になるわ~♪」
そんな俺たちを見て梅香さんは楽しそうに微笑む。
一方でニャン之丞はゴロンと横に転がって西亜口さんにお腹を見せてきた。
「こ、これは……! わたしにモフれということね!?」
西亜口さんは涎を垂らさんばかりに口をだらしなく開くと、両手を伸ばした。
「はぁはぁ……ま、待っててね、ニャン之丞! 思うさまモフるわよ!」
西亜口さんは息を荒くしながら両手を伸ばし、ニャン之丞のお腹や背中をモフモフし始める。
「それじゃプリンと紅茶の用意してくるからニャン之丞ちゃんにかまってあげててね~♪」
「おかーさん、あたしも手伝うー!」
「りょ、了解だわ! 猫をモフモフするのはわたしに任せなさいっ! 猫をモフることにかけてわたしの右に出る者はいないわ!」
西亜口さんはすっかりニャン之丞に夢中だ。
「ほぉ~ら、ほら! どうかしら? わたしのモフモフテクニックは!」
西亜口さんは声を上擦らせてニャン之丞をモフり続ける。
背中、尻尾の上付近、頭、喉、お腹――と、余すところなくモフりまくる。
ニャー、ニャウー。
「ほぉ~ら、ほら。ここ? ここがいいのかしら?」
ニャー、ニャウ~ン。
ナーニャVSニャン之丞。
その勝負は西亜口さんがモフりまくるという一方的な展開になっていた。
やはり猫と戯れる西亜口さんはかわいいな。
これは絵になる。さすが西亜口さん。
イラストにすべき至高の情景。
しかし――。
シャーッ!
「ひぃいっ!?」
執拗にモフられ続けたニャン之丞がキレた!
「西亜口さん、撫ですぎだって」
「う、うぅ……久しぶりだったので、つい愛情表現が過剰になってしまったわ……」
「まあ、気持ちはわかるけどさ……」
正直、うらやましい。
俺もニャン之丞を思うさまモフりたい。
「なに、その浅ましい表情は? あなたもニャン之丞をモフりたいのかしら?」
「そ、そりゃあ、まぁ……」
「しかし、ニャン之丞は御機嫌斜めよ」
完全に西亜口さんのせいだ。
「猫心も乙女心も同じようなものよ。ちょっと好意を抱かれてるからと思ってグイグイいくと嫌われるのよ。気をつけなさい」
西亜口さんが身をもって俺に教えてくれた。
なお、ニャン之丞は西亜口さんのほうを警戒するように一瞥してから梅香さんたちの待つリビングのほうへ逃げ去っていった。乙女心も猫心も難しい。
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