第55話「一緒に参拝~感謝と報告~」
「さて、まだまだ時間があるわね。せっかくだから……か、かかか、彼氏の家へさっそく寄らせてもらうわね!」
「……か、彼氏……」
なんという新鮮な響き。
というか俺には一生無縁の単語だと思っていたのだが……。
「……だ、だめかしら?」
無言のままの俺に対して、西亜口さんが不安げに訊ねてきた。
これまでなら問答無用で自分の意見を押し通していたと思うのだが……。
俺の彼女になったことで、しおらしくなったのだろうか?
「……も、もちろんオッケーだけど」
でも、彼氏彼女の関係になってから自室に西亜口さんを入れるのはプレッシャーが!
「だけどって、なにかしら? はっ……ま、ままま、まさか、わたしにいかがわしいことをするつもり!?」
「しないしないしない!」
なんでそうなる!
いやでも、このままさらに親密になれば西亜口さんとそんなことをする日も……!?
「……じーっ……」
西亜口さんは俺のことを半眼で見つめてくる。
これは俺を疑っている目だ!
「誓って変なことはしないから!」
「……まぁ、いいわ。わたしに許可なくわたしに触れようとしたらドスが煌(きら)めくことになるから心しておくといいわ」
おそロシア。
さすが銃刀法違反女子西亜口さん。
「それでは行きましょうか。……いえ、その前に」
西亜口さんは社殿のほうへ振り向いた。
「参拝しましょうか。ここであなたと再会できたのは偶然ではないのかもしれないわ」
「あ、ああ」
俺の先祖が建てた猫玉神社。
確かに……もしかすると俺たちを導いてくれたのかもしれないな。
猫がキッカケで再会することができたわけだし。
「きっとニャン之丞のおかげよ。あなたとこうして再会できたのは。あとで美味しいエサを差し入れないといけないわね」
「あ、ああ……」
すっかり北瀬山家に世話をさせてしまっているけど……。
「それじゃ参拝するか」
「ええ」
俺と西亜口さんは一緒に社殿の前へ進む。
なお、賽銭箱はない。
「まずは、わたしから」
西亜口さんが一歩前へ進み、作法とおり二礼二拍手。
目を閉じて祈る。
一礼してから、下がる。
「参拝するとなんとなく気分が軽くわね。気のせいなんだろうけど」
「ああ、わかる。俺もだ」
うちの先祖が建てたからか、なおさらそんな気がする。
まあ、気分の問題だな。
「それじゃ、俺も」
西亜口さんに続いて、俺も参拝する。
願う内容は……うん、まぁ、今はないかな。
願うよりも、今は西亜口さんと再会させてくれたことにお礼をしないと。
二礼二拍手一礼して俺は心の中で感謝の言葉を述べた。
「ふふ、なんだか気恥ずかしいわね」
「あ、ああ」
なんだか先祖に彼女を紹介したみたいな気分だ。
「……それじゃ、あなたの家へ行きましょうか」
「ああ」
西亜口さんは俺の横へくると自然と左手を伸ばしてきた。
これは、つまり……手を繋げということだろうか?
「えっと、それじゃ、手繋ぐよ」
「え、ええっ! オッケーよ!」
珍しく声を上擦らせながら、西亜口さんは返事をする。
耳まで真っ赤にして、ほんと、西亜口さんかわいすぎだろ……。
俺は西亜口さんと彼氏彼女の関係になれたことを天と先祖に感謝しながら手を繋ぐ。そして、そのまま一緒に山を下りていった。
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