【第二章「学校(リアル)&小説(ネット)」】

第10話「学校での西亜口さんと突然の呼び出し」

「昨日は、いろいろなことがありすぎたな……」


 朝。俺は徒歩で登校しながら、昨日のことを振り返っていた。

 あのあと、当然、里桜と梅香さんから根掘り葉掘り訊かれた。

 夕飯のカレーは美味しかったので、まあ、よしとしよう……。


「……でも、俺、やっぱり西亜口さんと過去に会っていた気はするんだよなぁ……」


 西亜口さんが言っていた「……ねえ、あなた……昔、まだ幼稚園ぐらいの頃、女の子と遊んだことなかった?」は引っかかっている。


 幼稚園の頃に遊んだ子。黒髪だったけど、確かに西亜口さんに似ていた。

 当時、どんな遊びをしていたかまでは覚えてないんだけど……。


 ちなみに、昨夜は西亜口さんにメールを送ることはしなかった。

 西亜口さんから「三日に一回は」って言われてたしな。

 すぐにメール送るのもどうかと思ったのだ。


 というか、俺は女子にメールを送るなんてこれまでほとんどしたことがないので苦手なのだ(里桜にもメールを送らないというか、里桜は用事があると家に直接来る)。


 なお、里桜は朝練でいつも早めに家を出ているので一緒に通学することはない。


 三毛猫は梅香さんが「この子はうちで飼うわ♪」と笑顔で言ったので北瀬山家のペットになったらしい。三毛猫も梅香さんに懐いていた。


「西亜口さんと学校でどんな顔して会えばいいんだろうな……」


 昨日あれだけ話したとはいえ、学校では俺たちは一度としてまともに話したことはない。お互いにボッチみたいなものだ。


 西亜口さんは周りを拒絶してボッチになったが、俺は自然にボッチになったのでボッチへの至り方は違うが……。


「……まあ、これまでどおりが無難だな」


 学園一の美少女の西亜口さんにに挨拶をしたりしただけで噂になってしまうレベル。平穏無事をモットーに過ごそう。


 徒歩十分ほどして、学校へ辿りついた。

 自転車に乗っていくのもありだが、俺はゆっくりと歩く時間を大切にしている。


「考えてみれば西亜口さん、わざわざうちのほうまで歩いてきてたんだよなぁ」


 うちから学校まで十五分。学校から西亜口さんの住む高級マンションまで十五分といったところだ。けっこう距離がある。


「さて……今日も面倒な学園生活開始か……」


 基本的に俺にとっては苦痛の時間だ。

 家でラノベでも読んで小説を書いていたい。

 昔から集団生活が苦手なのだ。


 教室に入る。西亜口さんはまだいない。いつも遅い時間に入ってくる傾向にあるが、昨日の捻挫は大丈夫なんだろうか……。


 ちなみに俺の席は廊下側の一番後ろ。

 西亜口さんの席は窓際の一番後ろ。


 うちの学校は苗字の順番でなく、コンピューターを使って適当に席を決めるという変な慣習があるのだ。俺としては廊下側だからすぐに教室の外に脱出できるのはありがたかった。


 そろそろ予鈴が近くなってきたところで――西亜口さんが教室に入ってきた。

 一瞬、教室の空気が凍ったかのように静止する。


 西亜口さんは俺のほうを一切気にすることなく、そのままスタスタとしっかりした足取りで歩いていき自分の席についた。昨日の怪我の影響はないようだ。


 西亜口さんは鞄の中身を机の中に入れて用意をすると目を閉じた。

 いつもと変わらぬ我関せずの瞑想スタイルである。


 その姿は、まさに孤高――。

 神々しさすら感じるボッチだ。

 俺のような陰キャボッチとは格が違う。


 予鈴が鳴り担任がやってきて、授業が始まった。

 西亜口さんは目を開き(目つきは悪いが)、授業に集中する。


 ……って、西亜口さんを観察していても仕方ない。

 俺も授業に集中せねば。



 休み時間。西亜口さんは窓から外を眺める。

 俺は、机に突っ伏して寝たふりをする。

 クラスでは雑談・談笑する奴が多いが、俺も西亜口さんも我関せず。


 また、次の授業が始まって終わり――昼休みになった。

 西亜口さんはスッと立ち上がりスタスタと教室から出ていった。


 ……まあ、学園内で俺と西亜口さんの関係が変わるということはないよな。

 もし俺と西亜口さんが話したりしたら噂になるだろうし。


 さて、俺も購買のパンでも買って中庭で食べるか……。

 廊下を歩いているとスマホが振動した。


「ん、なんだ?」


 画面を見てみると――西亜口さんからだった。


『合宿所に来なさい』


 うちの学校には合宿棟というものがある。

 その名のとおり合宿するための建物だ。


 部活をやってない俺や西亜口さんには無縁の場所なのだが……。

 そもそも、合宿棟は通常は入れないはずだ。

 そんな場所に来いだと?


「……謎だな」


 やはり西亜口さんの考えていることは謎だ。

 ともあれ、俺は合宿棟へ向かった。


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