第9話「遠い日のニンジャ」
☆ ☆ ☆
わたしはマンションの自室に帰ってきた。
誰もいない、空っぽの部屋。
「はーっ……今日は、いろいろなことがありすぎたわ……」
クラスの中で気になっていた――正確には子どもの頃に会って遊んでいた男の子に似ていたので気になっていた――男子・東埼川祥平と話すことができた。
「……一緒に遊んだことのあるあの神社に行っていれば……いつか会えるかもと思ってたけど……」
まさか、本当に会えるとは。
でも、まだ確定したわけではないけど……。
「……でも、きっと、そうよね。昔遊んでいた『しょーくん』で間違いないわよね」
昔、一緒にスパイごっこをして遊んだ男の子。
それが『しょーくん』だった。
遊んだ期間は半年ぐらい。
引っ越したことで別れてしまったのだけど……。
きっと覚えていないだろうとは思ってた。
「今は、この髪の色だものね……」
幼少期のわたしは銀髪で注目されるのが嫌で、親に無理を言って髪を黒く染めてもらった。
ただでさえコミュニケーションが苦手だったわたしにとって銀髪は重荷でしかなかったのだ。
あと、まだ日本語が苦手だったわたしにとってほかの子と話すハードルも高かったので目立ちたくなかったのだ。
黒髪にしたものの、わたしのコミュ障っぷりは相変わらずで友達はできなかった。
保育士もわたしがコミュニケーションが苦手ということを親から言われて放置気味になった。
最初は気楽だった。
でも、そんな生活を続けるうちにわたしは完全に孤立した。ボッチになった。
さすがに寂しくなってきた。
そんな中、わたしは幼稚園でボッチの男の子を見つけた。
男の子は、なにか紙に向かって絵を描いていることが多かった。
この男の子なら、遊んでもいいかも。どうせボッチ同士だし。
「……なに描いてるの?」
わたしは勇気を出して、訊ねてみた。
「……ニンジャ……」
返ってきた言葉は、聞き慣れぬものだった。
紙に書いてあるのは、黒い服と頭巾をかぶった人間?
「……ニンジャ?」
「うん、ニンジャ」
「……ニンジャって、なにするの?」
「うーん……スパイとか……」
それがわたしの人生の大きな分岐点となった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます