第50話「おそロシアハーフVSギャルリーダー」
「ちょっとアンタさぁ! なんなんコレ!」
『日本文化研究会』の立て看板の横に仁王立ちしていたのは――うちの学園のギャル勢力のリーダーである二年九組の寅原楽々だった。
悪い意味で有名人なので、他クラスながら俺も顔を知っているのだ。
西亜口さんの銀髪とは対極的なキンキラキンの金髪。耳にはピアス。
香水の匂いが三メートル以上離れていても漂ってくるほどだ。
「ギャル勢力の長(おさ)がなんの用かしら? ここにはあなたのような頭の悪い仲間はいないわよ?」
「アァン!?」
思いっきり煽る西亜口さんに、寅原は威嚇するような声と表情で応じた。
さすがに西亜口さんも寅原のことは知っているようだ。学園では有名人だもんな。
「アンタ誰に口きいてると思ってんダヨォ!? ウチがその気になればアンタなんて学園にいられなくなんだかんナァ!?」
なんだ、このチンピラは。
というか、こいつにそんな力があったのか?
そう疑問に思った俺に応えたわけではないだろうが――周囲に似たようなギャル連中が集まってきて俺たちを取り囲んだ。
「あら、弱い者ほど群れるとはよく言ったものね。雑魚がいくら集まっても雑魚にしかならないのよ?」
「んだとゴラァ!?」
西亜口さん煽りすぎぃ!?
「オイ! 姐(あね)さんになんて口きいてんだコラァ!」
「テメェ! 取り消せやコラァ!」
「こんな生意気な女やっちまいましょうぜ! 寅原姐(ねえ)さん!」
取り巻き連中も激高し始めた!
いかん。このままでは学園内で抗争になってしまう!
「里桜! 止めてくれ!」
「え、えええー! あたしー!?」
この場を収められるのは里桜しかいない。
一応こいつは風紀委員長なのだ。
「ちょ、ちょっとー! みんな落ち着いてよー!?」
里桜がワタワタしながらボルテージが上がってしまった周囲を鎮静化させていく。
「ちっ、北瀬山か……」
剣道と柔道で全国大会に出場していて風紀委員長でもある里桜は顔を知られている。ここで騒動を起こすことの不利を悟ったのか、寅原は冷静になったようだ。
「……今日のところは引くけどよォ……? せいぜい夜道には気をつけンだなァ!」
寅原は捨て台詞を吐くとギャル仲間たちのところへ向かい、そのまま校舎のほうへ歩いていく。取り巻きたちも口々に西亜口さんへの悪態を吐いてから去っていった。
「……まったく面倒な連中に目をつけられたものね……」
というか、うちの学園ってこんな民度低かったのか……? 偏差値的には、そんなにバカが集まっているわけでもないはずなのだが……。
「自由をはき違える愚民はいつの世も出てくるという悪例ね」
「うーん、なんか九組あたりが荒れているって話は聞いてたけどねー。確かそこのリーダーだよね、あの寅原って子」
俺たちのいる二組からすると異国のようなものだな。
校舎も違うし(東校舎と西校舎がある)。無駄に広いから困る。
「なんにしろわたしの覇道を邪魔するのなら排除するだけよ。校長はわたしの意のままに動かせる傀儡(かいらい)と化しているわけだしね。日露ハーフを舐めないでもらいたいわね」
おそロシア&さすしあ。
「まぁ、退屈な学園生活よりはいいんじゃないかしら? 平和ボケしている日本にまだこんな古風なスケバン文化があることには驚いたけど」
あれはスケバンというジャンルでくくられるタイプなのだろうか? 変に時代がかったギャルだったが……。まぁ、いいや。深く考えるのはやめておこう。
「ともかく本日の『日本文化研究会』の活動を始めるわよ」
「えー、なにやんのさ?」
「昼休みにやることと言えば、ただひとつ。カップラーメンの品質評価よ」
普通に昼食だ。
まぁ、カップラーメンは日本の誇る食文化だからいいか。
腹が減っては戦はできぬ。
俺たちは昼休みの残り時間をカップラーメンタイムに費やすのだった。
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